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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

円卓の聖竜騎士

作者: F

 そこには、広い丸を形作った円卓が置いてあった。

 その昔、邪竜や巨人と戦った騎士達に敬意を表し王が作らせたものだ。

 かつての円卓は13人が座れるのみの大きさだったらしいが、この円卓は300人の騎士が座れる程に巨大。

 既に竜も巨人も人も手を取り合い国を形作ってから久しく、日々円卓には様々な騎士達が席を貰う。

 今もまた、国の上位騎士たる者達が、この円卓に腰をおろしていた。



 *****



「国王陛下、入室!」


 王が姿を現す。

 若くして玉座を継いだ王はその左右を宰相と親衛隊長に挟まれて部屋へと足を踏み入れた。

 王は目の前の空いた席に滑らかに座り、伴った宰相と親衛隊長もまた左右に腰をおろす。

 騎士達はそれぞれ礼をしたり、剣を掲げたりして王へと敬意を示すが、誰一人として円卓から立ち上がる者はいない。

 この部屋、この円卓に座ったその時から、ここにいる全ての者達は対等であるからだ。

 若き王は鷹揚に頷くと


「我らが国を想う騎士達よ。良く集まってくれた。礼を言う」


 その王の言葉に、騎士達はそれぞれに答える。

 騎士達の返礼が終わるのを待ち、王は再び口を開いた。


「魔物が現れた」


 ぞわり、と

 騎士達の雰囲気が鋭くなった。


「それは北の山脈を越えて?」

「騎士コルウェインよ、それはありえぬ!北の魔物は我らが征伐したはずだ!」

「ナルウェの言うとおりだ。北の山脈を越えてではない」


 王は一泊置くと


「この王都。そして東都、西都、南都、北都。その全てである」


 ダン!と円卓を叩き、一人の騎士が立ち上がる。


「なんだって!?それでは国の都全てに現れたと言うのか!!」

「……落ち着け、ニーブレン」

「黙ってられると思うかエイフリード!騎士達が命をとした北の魔物征伐が無駄に終わったと言う事だぞ!」


 エイフリードという騎士はニーブレンと呼んだ義足の騎士の言葉を流して沈黙する。

 舌打ちと共に座ったニーブレンは義足を円卓にのせて不満あらわにする。

 直後に、エイフリードにその足を降ろされていたが。

 その横で、巨人の騎士が口を開いた。


「しかし、王都に現れたのであれば、我らの耳に入っても良いのでは無いですか?」

「……いや、ガナリオ。それは私が報告を止めていたのだ」

「親衛隊長殿……正気か?」

「無論だ。民を不安に陥れぬ為に。だが……」

「この状況ではぁ……もう隠す意味などぉありませぬなぁ?」

「セイブリン卿の言うとおりだ。こうなれば、民に注意を促し各地の騎士達と共に魔物を討伐するしかない」


 親衛隊長の言葉に騎士達が頷き、再び王が口を開いた。


「この為に円卓に騎士を集めさせてもらった。余と諸君らであれば、この事態を打開する事が出来るであろう」

「必ずや」

「魔物の出現した原因を我々は探ろう」

「実働部隊の派遣ならばお任せを」


 応える騎士達の言葉には頼もしさがあった。

 こうして、300人の円卓の騎士達は魔物討伐へと繰り出すこととなったのである。



 *****



「それで」


 東都へと派遣された義足の騎士、ニーブレンが口を開いた。


「何故お前と一緒なのだ、エイフリード!」

「……」

「聞いてるのか、あ゛?」


 寡黙で有名なエイフリードはニーブレンに突っかかれようが意に介さず、東都騎士団の門を叩いた。


「これはエイフリード卿にニーブレン卿!ようこそ、お越しくださいました」

「……卿、はやめてくれ。私は政治を司ってはいない」

「お前は一々細かいんだよ。敬称なんだから別に良いだろう」


 再び黙したエイフリードにニーブレンは舌打ちをしつつ、二人は東都騎士団長に連れられて砦の奥へと案内される。

 ガチャリガチャリと義足と鎧を鳴らしつつニーブレンは


「歩きながらで悪い。早速なんだが騎士団長殿……」

「魔物の件について、ですね」

「話が早くて助かる。どっかの無口野郎とは大違いだな」

「は、はぁ……」

「それで、どうなんだ?」

「はい……魔物は二度。全て東都内で現れました」

「東都内で?外では?」

「発見の報告はありません。とはいえ……騎士以外が発見したとして、その者達が我々に報告するまで無事でいられるかどうかは……」


 ニーブレンは少々沈黙し


「……被害は?」

「東都内だけで、北区に集中しています。突然現れて周囲の人間を殺し尽くすのです。無論、すぐに騎士達も向かいますので、全て討伐はしたのですが……」


 騎士団長が案内した砦の二階にある扉をあける。

 そこは吹き抜けの部屋のテラスの様になっており、広い階下の様子が一望できる。

 そして、階下には……多数の騎士達が、呻きと共に寝かされていた。


「これは……」

「魔物と戦った騎士達です。怪我を負った者は全てここに」

「具合は?」

「芳しくありません……怪我が、治らないのです。まるで何かの呪いの様な……」


 騎士団長の言葉が終わるかどうかという時に、ニーブレンが二階から飛び降りる。

 正確には、飛び降りようとしたがエイフリードに襟首を掴まれてすんでのところで止められたのだが。


「……何をしている、ニーブレン」

「何って直接傷の具合を見た方がいいだろう?」

「……なぜ、飛び降りようとするのだ」

「こっちのが早いからだよ。早く離せ!」

「……ダメだ。騎士達の怪我に響いては困る」


 そう言うと、エイフリードはニーブレンを引っ張り上げて担ぎあげる。


「な、お、おお!?は、はなせ!って、いでで、いてぇ!力を……弱めろお前この……!」

「……騎士団長殿、一階に案内を」

「あ、はい」


 結局、一階に降りるまでニーブレンが解放される事は無かった。



 *****



 エイフリードが呻き声をあげる騎士達の間を、足音もたてずに歩いていく。


「……ニーブレン。鎧を脱いで私の歩いてきた道をなぞれ。義足の方の足の踏み入れ方には気を付けろ」

「細かい奴だなお前は本当に……!」

「……声をあらげるな。怪我に響く……おい、そこをズレるな。少し右だ、そうだ」

「細かすぎる!!」


 しばらくして。

 口にバツ印の布を巻かれたニーブレンが部屋の隅で静かに立っているのを横目に、エイフリードは騎士達の傷の具合を確かめていく。

 傷の具合は軽傷のものから酷いものまで、ピンキリであるが、どれも出血が止まらず、黒く変色していた。


「いかがですか?」

「……」


 エイフリードが無言で一人の騎士の傷口に触れると、拒絶されたかの様にその手が傷口に弾かれる。


「……」


 エイフリードは、今度は片手の指でトントンと自らの剣の鍔を叩き、その手を傷口に近づける。

 また弾かれる様な感触。

 だが、直前に叩いた剣が光を放つと、弾かれること無くエイフリードの手は傷口に伸ばされていく。

 そして彼の手が傷口に触れると同時に、騎士が光に包まれ怪我が治っていった。


「こ、これは……」

「………」


 エイフリードは満足げに頷くと、鞘から剣を抜き放つ。

 刀身が鞘から姿を見せる度に白色の輝きを見る者に焼き付けていく。

 騎士団長が、おお、と声をあげ剣の銘を口にした。


 ──聖剣グロアクラウ


 エイフリードが抜き放った剣を掲げ、胸に十字と円を描く。

 そしてまるでそこに何かがいる(、、、、、、、、)かの如く、空気を斬り裂いた。

 治癒と浄化の力を持つ聖剣グロアクラウの光が、この大部屋を覆い尽くす。


「我、天命無き死を断ち斬らん」


 エイフリードの言葉が広がり、そして収束する。

 その後に、呻き声をあげた騎士達の姿は無い。

 まるで今の今まで苦しんでいたのが嘘の様に、不思議な顔で自らの身体を眺める騎士達がいるだけだ。


「……騎士達はもう平気であろう」

「おお……ありがとう、ございます。聖騎士(、、、)エイフリード卿……!」

「……卿はよせと言った」


 騎士団長が、騎士がエイフリードに感謝の声をかける中、大部屋の片隅にいたニーブレンが義足の踵を鳴らしてポツリと言った。


「俺、もう動いていいか?」



 *****



「団長!」

「おっと?」


 ニーブレンが口の布を剥がして鎧を着直していると、大部屋に息を切らして一人の騎士が駆け込んでくる。


「どうした」

「魔物です!」


 ざわっ、とその場にいる者達が浮足立った。


「どこだ!」

「き、北区の町民区に!」

「……ニーブレン」

「一々言うな、分かっている!」


 ニーブレンが近場の窓をあけて、高く高く口笛の音を響かせる。


「どうなさるおつもりで!?」

「原因も探りたいが、まずは魔物を討伐する!」

「では、馬車をご用意します!」

「いや、その必要はない」


 ニーブレンが言葉を口にすると次の瞬間、砦の横に大きな……大人が三人並んでも足りないであろう大きさの影が降り立った。

 それは赤と白の鱗で太陽の光を反射させ、その腹には十字と丸の模様を刻まれている。

 堂々たるその巨躯を自然にさらし、だがしかしてその目に曇りは無い。

 慈悲深き民の守護者、その一柱。


 ──聖竜ウルフェマリア


「一瞬で向こうにつく」


 ニーブレンは首を降ろしたウルフェマリアの首から背に跨ると、かけてきたエイフリードに手を貸して背に乗せる。

 義足の踵を鳴らした直後に、聖竜は天高く飛翔する。


「どうかお願いいたします!“竜騎士”様、“聖騎士”様!」


 騎士団長に敬礼を返すと、ニーブレンは再び義足の踵を鳴らす。

 二人の騎士を乗せた聖竜はものの一瞬で空を駆け抜けていった。



 *****



 それはまるで影だった。

 影色の霧が人型を形作っている。

 大きさは5m近い。

 影色の巨人が暴れまわり、人々はただ逃げまどう。

 影色の巨人は狙ったかの様に人を襲い、建物ごと人間を押し潰していく。

 だが、そこに


 キィィ……………ン!


 鋭い剣が風を切り裂く様な音。

 いや、これは鳴き声だ。

 天空から影色の巨人に襲いかかるのは聖竜ウルフェマリア。

 二つの巨大な影はもつれあい、しかして聖竜が巨人を持ち上げた。


「頼むぞ相棒」

「……いつから私は相棒になったのだ?」

「お前じゃない!ウルフェマリアだ!」


 巨人を掴み空に浮遊する。

 だが、その瞬間、ポコリ、と巨人の身体から何かが地面に落下する。

 いくつも、いくつも。

 落下した影色の雫は地面に降り立つと同時に等身大となった影色は人の形を成す。

 影の人はキョロキョロと辺りを見回した。

 ……人間を、探している。

 逃げ遅れた人間の背を、目の無い顔が捉えた。

 怯えた人間にひとつの影の人が襲いかかる。


 その瞬間。


 はるか上空より、白光が一筋の軌跡を描き影の人を斬り裂いた。

 聖剣グロアクラウの輝きを逃げゆく人に魅せつける。

 エイフリードは、影の人の群れ、その只中に己が身を晒していた。


「……」


 全身鎧を身に着け、白銀の白虹を煌めかせ。

 ただひとつの誓い。正しきの敵を打倒し、民の盾とならんことを。


「……来い、魔物共。聖騎士と竜騎士が、相手になろう」


 上空と地上で、戦いがはじまった。



 *****



 飛び上がった聖竜が、掴んだ巨人に青白いドラゴンブレスをはきかける。

 身をよじった巨人の片腕を吹き飛ばすが、浅い。

 それどころか巨人が暴れ狂い、聖竜が悲鳴をあげる。


「叩きつけろ!」


 掴んだ巨人を一度離し、落下する巨人に向けて聖竜が突撃する。

 体当たりの要領で腹から再び掴みかかり、地面に向けて急降下。

 直後、地面にいるエイフリードから、街の少し上に光の障壁が展開される。

 影の巨人は聖竜により思い切り光の障壁に叩き付けられた。

 光の障壁に触れるだけでも苦痛があるのか、蒸発したかの如くジュウゥ…とした音をあげて巨人がもだえ苦しむ。

 だが、聖竜が障壁に巨人を押し付ける事をやめることはない。

 その口内には再びのドラゴンブレスの光が溜まっていく。


 その下では、片手で光の障壁を維持しつつ、エイフリードが町の人の避難をはかっていた。

 襲い来る影の人は、とどまるところを知らない。

 影の人が振るった腕を受け止めるが、斬り裂けず、逆にエイフリードが吹き飛ばされる。


「……」


 強くなっている。

 倒せば倒すだけ影の人の数は減るが、次に斬る影の人が強くなっている。

 既に影の人は逃げる人を襲うよりもエイフリード一人を打倒すると決めたらしい。

 続々と集まっていた。

 自分の力に、聖剣の力に対応されている。

 となればそれは、上の聖竜も同じ事。

 エイフリードは、上空にいるニーブレンを見た。

 聖竜の背にいるニーブレンと目線があう。

 その瞬間、ドラゴンブレスが放たれた。


「何……!」


 ドラゴンブレスが直撃した巨人だったが、片腕を吹き飛ばしたほどのダメージは受けていない。

 ドラゴンブレスを吐き続ける聖竜の首に手を伸ばし、巨人は聖竜を締め上げる。


 キィィァアア………


 悲鳴に似た鳴き声をあげる聖竜の拘束から逃れると、足下に広がる光の障壁が崩れさった。

 地面に降り立った巨人は、飛び上がろうともがいた聖竜を地面に引きずり下ろすと、その足で何度も何度も聖竜を踏みつける。

 地面は陥没し、建物が崩れ砂煙が舞う。

 巨人は聖竜を蹴り飛ばすと、最後のトドメとして、その右足で聖竜を踏みつけ……ようとした(、、、、、)


「……選手交代だ」

「ちっ、仕方が無いな」


 光が一閃。

 巨人の右足が斬り裂かれる。


「……空に向けてなら、聖剣の力も開放できる」


 白虹で形造られた光の刀身が、巨人の身を消滅させていく。

 聖剣グロアクラウ、浄化の力、その真骨頂。


「すまないな、ウルフェマリア。こうまでやられるか……甘く見た」


 身を伏せた聖竜から、ニーブレンが地上に降り立つ。

 彼は集まる影の人を見やると腰の横にさげた二対の片刃剣を引き抜いた。


「竜騎士が竜に乗ってるだけだと思うなよ」


 ニーブレンが目の前で剣を交差する。


「右の剣には竜を、左の剣には人を」


 彼の言葉通り、左右の剣の鞘にはそれぞれ人と竜があしらわれている。

 交差した剣が触れた瞬間、二対の剣から白炎があがる。


「燃え尽きろ!」


 それは人が放つ、竜の御技。


 ──ドラゴンブレス


 放たれた白炎は細い青白い炎へとなり、無数にわかたれて影の人、その全てを燃やし尽くした。

 静寂が、戻ってくる。


「……」

「全く、だから巨人はお前がやれと最初に言っただろ!」

「……」

「聞いてるのか!!」

「……」


 二人の喧嘩─一方的にニーブレンが文句を語るだけだが─に聖竜がため息をはいた。



 *****



 王都。


「それで、東都のそれ以降は?」

「用心して騎士エイフリードと騎士ニーブレンを残しておりますが、特に何も無い様です」

「では東都には平穏が戻ったのでしょうか」

「いや……それはどうかな」

「どうかな、とは」

「報告の巨人だが、どうも魔物では無い様だ」

「では何です?」


 一拍おき


「人だ」


 円卓を、重苦しい沈黙が支配した。

 誰もが、いつかは来ると思っていた。


「事態をいち早く解決したエイフリードとニーブレン。彼らを調査に派遣する」


 いつの時代も襲い来る最後の試練に、騎士達は立ち向かう事となる。

読み切り短編にするつもりだったのに、何か連載できそうな流れになってしまった事をお詫びします。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり最後は人ですね(ヽ´ω`) オーケー、では連載しましょうそうしましょう(←
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