第六話 恋の始まり<後>
結城くんと、目が合った。
一瞬、気まずい沈黙が流れる。
何か言うべきかと迷っていると、先に向こうが口を開いた。
「……なんか、申し訳ないね」
唐突なその言葉に、私は返事に困る。
「いや、三人とも頑張ってくれてるから。俺ら全然参加できてないじゃん」
困ったような笑顔。なぜだかわからないけど、その表情から目が離せない。
福井さんたちは、話し合いに夢中で、私たちのことを見ていない。
確かに、申し訳ないといえば、申し訳ないのかな。
でも、
「でも、この中に入っていくのは、ちょっと勇気いるかな」
私が思っていることをそのまんま、結城くんは口にした。
驚いた私は、「そうだね」とだけしか、答えられない。
結城くんは、指先でシャーペンをくるくる回しながら、焦点の合っていない目で空中を見ている。
そして、そんな結城くんを、私は見ていた。
どこか退屈そうな横顔。落ち着かない様子で、貧乏ゆすりを繰り返している。
見ていて、飽きることがない。
昨日の放課後、今日の朝、会話をした回数はとても少ないのに、それでも、結城くんのほうに意識が行ってしまう。
この感情をどう定義づけるのか、私はあえて考えないようにしていた。
私が黙っていると、また結城くんが私を見た。
必然的に目が合う。
息苦しい沈黙を破るように、私は半ば無理やり口を開いた。
「やっぱすごいよね、福井さんたち」
ちらりと目をやると、福井さんたちはワークシートに記入し始めているところだった。
手伝ったほうがいいのかな、いやでも向こうはそんなに私たちのこと気にしてないし。
……私たち。
私と、結城くんのことだ。
いつの間にか、私は結城くんを自分と一括りにして他の三人と切り離している。
「ああいうこと、俺たちはできそうにないな」
でも、結城くんもそうだ。
俺たちって、私を自分と同じ立場の人間として見てくれているってことだ。
それが、少し、いや、かなりうれしい。
私は、赤くなった顔を見られないように、さりげなく視線を外した。
結局私たちは、一度も話し合いに参加しなかった。
ほかの三人には迷惑かけた自覚はしているんだけど、それでも、結城くんと会話している間は楽しかった。
これまでのグループワークのようなダルさは感じなかった。
それよりも、なんだろう、授業が終わってしまうのが惜しい気がする。
三人がはきはきと発表しているのを所在無げに眺めながら、私は妙にもやもやした気持ちを抱えていた。
結城くんをちらりとみると、私と同じように端っこのほうで極力存在感を消していた。
私がこのもやもやの正体に気付いたのは、昼休みに入り、「よいーっす」と栞里が現れた時だった。
栞里ののろけ話を聞きながら、私は結城くんの姿を目で探す。
結城くんは教室の端っこのほうで、今川くんとお弁当を食べている。
「どーしたの愛梨、今日は口数少ないね」
栞里の声を聞き流していると、結城くんがこちらを見た気がして、私はあわてて目を逸らした。