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君に一途。  作者: ぺるしるーん
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第四話 胸騒ぎ

 翌日。

 昨日の雨が嘘だったと思えるくらいの青空が広がっている。

 地面にできた水たまりをよけるようにして、駅までの道のりを急ぐ。

 昨日学校に借りた傘は、一応広げて乾かしている。明日にでも返さないといけない。

 水を派手に跳ねさせながら、通勤通学でにぎわう道を進んだ。


 幸いにというか、昨日のリア充には会わなかった。

 いつものように電車の中で惰眠を貪りつつ、気が付けば学校の最寄り駅だ。

 今日の授業はなんだったっけとか、割とどうでもいいことを考えながら歩いていると、後ろから肩を叩かれた。

「おはよー、愛梨!」

 振り返ると、栞里の満面の笑み。朝から無駄にすがすがしい。

 そして、基本低血圧のこいつがここまでハイテンションな理由は、隣を見ればわかる。

「今日も仲がよさそうで何より」

「どーも」

 栞里より二十センチは長身の男子が照れたように手を挙げる。

 彼の名前は山本祐二やまもとゆうじ。見たら誰もが察する通り、栞里の彼氏だ。

 今年に入ってからくっついたばかりで初々しいはずなのに、そんじょそこらのリア充でさえ妬むほどのいちゃつきっぷりという、学年で有名なカップルだ。

 時折通学中に遭遇する。そのたびに一緒に行こうと誘われるけど、そのたびにいちいち断っている。

「別に愛梨が入ってきてもあたしは気にしないよ」

 栞里は言うけど、誰もお前らの心配をしているわけではなく、この二人と同じ空間にいると、とてつもなく惨めな気分を強制的に味わわされるからだ。私が。

 というわけで、私は二人に別れを告げて、早足で歩き出す。


 少し行ったところで、別のリア充とエンカウンターした。

「おはよっす、とむろん」

「おはよ」

 こう言ってくるのは、友人の理恵とその彼氏の裕樹だ。

 ちなみにとむろんというのは私のニックネーム。名付け親は栞里で、去年のクラス中に広まったにも関わらず、栞里はいつの間にか愛梨と呼ぶようになってしまった。

「みんながとむろんって呼んでると、だれも愛梨を下の名前で呼ばなくなるでしょ」

 栞里はそういうけど、そもそも私の名前を呼んでくれる友人は少ないんだっつーの。

 私と理恵は中一からのクラスメイトで、席が近いときによく話した。口数はあまり多くないものの、話していると面白い人だ。

 そんなこともあって、登下校を一緒にするほどの仲だったのだが、去年の夏にこいつに彼氏ができてから、そんなこともなくなった。

 それからは栞里と登下校するようになったはいいが、あいつもまた彼氏をつくってしまったせいで、私は今ぼっちで登下校している。

 私と栞里と理恵は、中一からずっと、グループ分けの時に一緒になるような仲だった。三年になってクラスが分かれてしまったけど、顔を合わせれば挨拶する以上の仲だ。

 とはいえ、理恵や栞里がのろけているのを聞かされるのは精神的にかなりキツイ。

 ぼっちの私は、いつも適当に相槌を打ってやり過ごしている。



 二組目のリア充に別れを告げ、足早に歩くこと数分、私はあっという間に学校についた。

 教室に入る。朝からみんなテンションが高い。

 水の入ったペットボトルを空中で一回転させて机に直立させる遊びが今なぜか流行っている。

 朝礼が始まるまでの時間、あちこちからバコンバコンとペットボトルと机がぶつかる音がする。

 バカなこと考えるなーと思いながら眺めていると(やってみると意外と難しいんだけど)、後ろから声をかけられた。

「……昨日は傘、借りられた?」

 驚いて顔を上げると、結城くんが私のほうを見ていた。

 朝休みにだれかと会話するなんてアンユージュアルな出来事に戸惑っていると、彼はもう一度聞いてきた。

「事務室で傘、借りられた?」

 ここでようやく私は質問の内容を把握した。

 焦りが顔に出ないように答える。

「う、うん。大丈夫だった」

「そう……よかったね」

 それだけ言って、彼は今川くんとの会話に戻っていった。

 結城くんは今川くんと仲がいい。休み時間はよく私の隣で喋っているけど、今までそれを意識したことはなかった。

 こうやって見ると、同じように騒いでいるように見えて、教室にはいろんな人がいるんだということを改めて実感する。

 そうこうしているうちにチャイムが鳴り、結城くんは自分の席に戻っていった。

 その背中に未練のようなものを感じなかったといえば、嘘になるのかもしれない。


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