表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君に一途。  作者: ぺるしるーん
4/7

第三話 とある一日

「……今川くん」

「何?」

「現代文のノート、見せてもらってもいい?」

「あーごめん、今日の現代文寝てた」

「……ごめん、ありがと」

「別にいいよ」


 会話が途切れた。

 もし私にコミュニケーション能力があれば、ここから新しい話題を切り出すことも可能だろう。

 でも、新しい話題って、なに?

 特に親しくない人と、どんなことを話せばいい?

 私が悩んでいる間に、今川くんは別の友達との会話を始めてしまった。

 ……結局か。

 私はあきらめて現代文のノートを机の中に放り込む。

 窓の外では、まだ雨が降り続いている。



 放課後。

 チャイムと同時にダッシュで逃亡したいけど、そうはできない事情があった。

「十分後に単語テストやるぞー準備しとけー」

 見事に再試に引っかかってしまったからだ。(三十傑でも、こんなこともあるさ)

 パラパラと単語帳をめくる。覚えるべきことが多すぎて、全然頭に入ってこない。

 なんだかなー……。

 ぼーっとしていると、いつの間にか十分が経過していた、らしい。

「はいテストします、席に着け、教材片付けろー」

 単語帳をカバンの中にしまい、イチかバチかで望むことにした。

 どうせ何とかなるだろう、と楽観視していたのだが、

「合格点は四十点中三十点。今回は受かるまで何回でも受け直しだからな」

 まじかよ、とか、無理ゲーだろ、とかいう声が飛び交う中、無情にも配られるテスト。

 そうか……あの馬鹿発見システムみたいなエンドレススタイルか。

 何回で抜け出せるかな……。(三十傑でも、調子が悪い時もあるのだよ)

「それでは五分間、スタート!」

 紙のすれ合うカサカサという音が教室に響いた――。



 

 ……疲れた。

 すっかり暗くなった窓の外を眺めて、私は溜息をつく。

 こんなに時間がかかるとは思っていなかった。

 時計を確認すると、六時前だ。

 雨はまだ止んでいないらしく、外は一層暗い。

 よし、さっさと帰ろう。

 下駄箱に手を突っ込んで靴を取り出していると、話し声が聞こえた。

「まったく、何が『すぐ終わると思うぞ』だ。もう六時じゃんか」

「基樹が余計な質問しなければもっと早く終わったと思うんだけど」

 声の主は、今川基樹と結城刹弥のようだ。図書委員が終わって、帰るところらしい。(今川くんが何を質問したかは、知るのが怖い)

 下駄箱のところで顔を合わせる私たち。一瞬目が合って、すぐに逸らす――いつも通りの対応だ。

 一足先に校舎を出ようとすると、ポツリと水滴が頭の上に落ちてきた。

 ……雨か。傘、あったかな。

 カバンの中をごそごそと漁っている私の耳に、後ろの二人の会話が届いた。

「……そういえば基樹、再試は?」

「……再試?」

「うん、単語テストの。お前、かかってただろ?」

「そういえばあったな、そんなの」

「あったなじゃなくて、受けてないの?」

「…………」

「今からでも間に合うかもね」

「……わかったよ」

「先帰っていい?」

「どうぞお先に」

 それっきり会話がなかったのを見ると、今川くんは再試にいったっぽい。まだやってるといいけど。さっき終わった気もするけど。

 私はというと、ようやくお目当ての折り畳み傘を発掘して、安物で今にも割れそうな骨に注意しながら開く作業に入ってたところだ。

 こんなことなら、ちゃんとしたやつを買っておくんだった。やっぱり百均産は当てにならな――バキッ!

 とてもヤな音がして、傘の骨が二つのパーツに分解化した。

 まいったな……。

 地面で跳ね返って水飛沫を上げる本降りの雨を前に私は溜息をつく。

「どうしような……」

 うろたえる私の隣に人の気配。

 見ると、結城くんがプラスチック傘を持って私の隣に立っている。

「どうしたの?」

「えっと……傘、壊れたみたい」

 傘の残骸を見せると、結城くんは呆れたような笑みを浮かべた。

 よく考えたら、彼と話すのはこれが初めてだ。

「職員室へ行ったら、貸してくれると思うけど」

「そうだったっけ……ありがと、行ってみる」

「うん」

 それだけ言って結城くんは雨の中を歩き出した。

 彼に背を向けて、私は職員室へ向かう。

 

 これまた安物っぽいビニール傘を受け取り、昇降口へと引き返す。

 今度は誰にも会わなかった。

 一向に止む気配を見せない雨の中、私はなんとなく早足で歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ