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第八話:変形

足を踏み入れた白波を出迎えたのは、開いたままの大扉だった。

余りの緊急事態に、先程の男が閉め忘れたのだろう。だが。

「こんなに堂々と開いたまんまとは……罠かもしれない」

白波は妙なところで疑り深かった。

「この扉を通ろうとするとギロチンが落ちてくるとか……ありそうだなぁ」

試しに、石を投げてみる。何も反応は無い。

意を決して、腕を突き出してみる。何も起こらない。

足を一歩踏み入れる。何ら異常は無い。

「なぁんだ、何も無いじゃないか」

白波は何故か半ば期待外れな様子で、扉の奥へと進むのだった。


一方その頃。

「ボス!大変ダ!侵入者ガ!侵入者ガ!」

かなり慌てたようすでアジトの最上階、頭目の部屋に入ってきたのは先ほどの見張りの男である。

「何?侵入者だと?」

豪華な椅子に座り、怪訝な様子で聞き返すのがこの盗賊団の頭目、ジャドである。

「それを防ぐのがお前の役目だろうが?」

威圧感ある眼差しに射竦められ、見張りの男は縮み上がる。

「そ、それハ……」

「だいたい、侵入者には総攻撃をしかける訓練をしていたのはどうした?まさか全員やられたわけでもあるまい」

「奴ハ!奴は普通の人間じゃないんダ!翼が生えテ!みんな崖二!」

見張りの男は焦りすぎて支離滅裂になっている。

「何?翼が生えた?まさか、伝説の有翼族でもあるまいに」

「最初は生えてなかったの二!森に入って出てきたら生えてたんダ!」

必死に訴える見張り。

ジャドはしばらく考えるふうを見せていたが、

「フン、まあいい、翼が生えてようとなんだろうとこのアジトの守りはそう簡単には突破できまい」

そう言い放った。

「えエ、そりゃアもうたまに俺も迷うくらいだからナ」

「呆れたやつめ、下らん事を言ってる暇があったらとっとと侵入者とやらを迎え撃ってこい!」

「は、ハイィ!」

見張りの男はまろぶようにして部屋を出て行った。

残ったジャドは一人、二メートル超はあろう長身を椅子に沈め、

「翼が生えた……?もしかすると……いや、まさかな」

と、微かな疑念を振り払うようにひとりごちた。


一方の白波は。

実際、このアジトには侵入を拒む仕掛けが数多く仕掛けてあった。あったのだが…

「全く、どの扉も開け放しとくなんて無用心だなぁ、盗賊でも入ったらどうするんだろう」

見張りの男が慌てて通った際にすべて解除して、仕掛け直すのを忘れていたのだった。

最初は警戒に警戒を重ね、ゆっくり歩いていた白波だったが、あまりに何も仕掛けられていないので、先を急ぎ始めた。

と、そこに。

「やいやいやイ!侵入者メ!そこで止まレ!」

先ほどの妙に声の高い男だ。

「何か用?私は急いでるんだけど」

ぞんざいに返す白波。

「どうやってここまで来タ!仕掛けがしてあっただロ!?」

「仕掛け……?なにそれ?」

怪訝な顔で聞き返す白波。

「いヤ、だかラ、仕掛けがいっぱいあったロ?決まった順に通らないと永遠に進めない仕掛けとかサ!」

「え、なにそれおもしろそう」

「あア、あれは実際楽しイ…ってそうじゃなくテ!!何デ!?何デ仕掛けを知らないんダ!?」

「???なんの事やらさっぱりなんだけど…」

混乱する二人。

「まあ細かい事はいイ!この先にはボスがいるからナ、お前はこの先には行かせなイ!」

「悪いけど、私はこの先に用がある」

二人は互いに武器を構え、向かい合った。白波は大槍!男は持ち手のついた歪な鉄塊だ!

「うおおおおオオオオオオ!!!」

男がしゃにむに武器を振り回し、迫る!

全くでたらめに振り回しているだけなので、回避は容易!だが!

「!?くっ…」

勢いよく振り回される鉄塊が、白波の右足に命中!それは全くの偶然であった!

戦いの女神は、男に微笑んだのだ!大きく姿勢を崩す白波!

「ぶっ潰れロオオオオオオ!!!」

男は白波目掛け鉄塊を大きく振りかぶり、一気に撃ち降ろす!

「!こうなったら……!」

ガキィィィン!!互いの武器がぶつかり合う激しい音が響いた!

「ぐっ…駄目か…ッ!」

一瞬後、右膝を付く白波!

「…勝っタ……!?」

異変はその後!なんと男の持つ鉄塊にひびが入り!粉々に!

「何…ぐ、グワアアああ!!」

一瞬遅れ、果てしない衝撃が男を襲う!

一体何が起こったのか!?

白波は、鉄塊が打ち下ろされようかという瞬間、己の盾と槍を素早く合体させていた!

大盾は一回転し、巨大な斧刃へと変形!

そして姿を現すのは、巨大な槍斧ハルバード!なんという超絶機構!

その圧倒的重量を、一気にカチ上げたのだ!

「ふう、これは…奥の手に取っておくつもりだったんだけどな」

肩で息をしながら、槍斧を再び大盾と大槍へと戻す白波。

「おのレ……そんなバカナ…」

倒れ伏し、恨み言を吐く男。

「しばらくは動けないだろうから、そこでじっとしててね」

そう言い残して、白波は最上階への階段を上った。


続く

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