第六話:「借りる」
「白い岩か…あれのことかな」
村の正門を出て辺りを見回すのは、白波である。
盗賊の森と呼ばれるこの森は、アジ村の北に位置する、木の密度の高い森である。
その密度の高さから、作られた道を少しでも外れて迷えば脱出は困難である。盗賊団はそこに目を付けたのだ。
村長の言っていた白い岩というのは、原因は分かっていないがある日白く染まった大岩のことで、村の人間がありがたがって注連縄をかけたりしている。
「なるほどね、これだけ目立つならまたとない目印だ」
独り言をいいつつ、白波はその白岩のところまで歩を進める。
「さて、ここから葉の色が周りと違う木を辿って行くんだっけ」
白波は近くの木を注意深く見る。よく見れば木々の中に何本か葉の色が簿い木がある。
「なるほどね……。」
白波はそうつぶやき、森の中へと入っていった。
木々の間を目印の木を頼りに進む白波。しばらくは草をかき分ける音以外しなかった。
そのその沈黙を破るように、木の上より雷鳴めいた声がかかる。
「オイ貴様、見ない顔だなァ!迷い人か?有り金全部置いてきゃ見逃してやるぜ」
白波は木の上の声の主を見る。声の割にずいぶんと小柄だ。
「あいにくと、迷い人じゃないから遠慮しておくよ」
「何イ?それはどういう意味だオイ、斬新な強がりだなァ!」
樹上の男は笑いながら返す。
「この先に用があるんだ、アジトとやらにね」
男の笑いが凍りつく。
「てめぇ何でそれを知ってやがる!」
「おや、君も知ってるのか」
「あたりめぇだろうが!!俺はそのアジトの見張りをしてんだよ!!」
「そうなのか、知らなかったよ」
挑発として言ったのか、ただ白波がズレてるのかは分からないが、男は前者として受け取ったようだ。
男の額に青筋が浮かぶ。
「この俺を馬鹿にするやつは許さん!!どいつもこいつも万年見張り番だのなんだの抜かしやがって!」
関係無い怒りの矛先まで白波に向けた男は、しかし不意にニヤリと笑った。
「地の底で後悔しやがれ!!」
そういって男は辺りのツタのうち一本をグイと引っ張った。
「!!」
白波は妙な浮遊感を覚えた。足元の地面が急に無くなっている!?
次の瞬間、白波はそこの見えない闇に飲み込まれていったのだった。
「ざまあみやがれ!ハッハハハハハハ!!」
男の声が響いた。
落ちながら白波は考える。このまま何もせずに落ちれば即死は免れないだろう。しかしどうする?
どうしようもない!その結論にたどり着いたとき、白波は背中に柔らかい衝撃を覚えた。
「……なぁんだ、焦って損した」
落とし穴の底には落ち葉が溜まっていて、それがクッションとなったのだった。
「しかしどうするかなぁ、ここから抜け出すのは骨が折れそうだ」
落とし穴の壁は完全に垂直で、そのうえ金属で作られていたので登るのは不可能に近かった。
「これだけ深い落とし穴なら、作った人が脱出するための横穴があるはず」
自然と独り言の増える白波。だがそれらしきものは見つからなかった。
「どうしようか……こんなときに役に立つものなんて持ってないなぁ…」
白波が途方にくれて首をうなだれると、その先に何かを見つけたようだ。
「そっか、持ってなければ借りればいいんだ」
その頃、地上では。
「ハハハハハハ…しかしなんであいつアジトのことを知っていたんだ?」
男は馬鹿笑いをやめ、考える。
目印を偶然たどってきたのか?いや、それではアジトという単語が出てくるはずもない。
誰かが裏切りを?そういえばこの前通って行ったトルの野郎が帰ってきてないな…
もしやあいつが!
その考えに至ったそのとき。
「ふう、なんとか出られた…じゃ、返すよ、ありがとう」
なんと穴からさっき落ちて死んだはずの奴が這い出てきたのだ!
「な、何だと!!?」
続く