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5-3:正体

「先手必勝!」

私は急接近、目を間近で覗き込んだ。

「グウッ……!」

「どう!?そんなに目がいっぱいあるから、やりやすいわ!」

これで勝ったようなものだ。我ながら便利な能力……

「ウアアア!!!」

「えっ……?」

慢心した私は突如繰り出された触手の一撃を避けられなかった。

この能力を使っている間は、物理的干渉に弱い……!

「ぐっ……」

「オマエモ……ミョウナチカラツカウノカ……」

怪物は体の調子を確かめるかのように動いた。

「くッ……ゲホッ……やったわね……!」

何故操りが効かなかったのかは分からない……だったら普通に戦うしかない!

「喰らいなさい!」

魔法の弾を発射する。これを喰らうと大男に殴られたくらいの衝撃がする……と鉄男が言っていた。

「グオオオオ……」

肉片が飛び散る。思わず目を背けたくなる。

「グジュ……グジュル……」

「なっ……」

まるで全然効いてない!?そう思うほどに高速で迫ってくる!

「オカエシダ……ウオアア!!」

まずい!このままでは……!

「……!!」

私は咄嗟に……!


「……ドコヘイッタ……?」

「後ろよ!」

振り向きざまにもう一度魔法の弾をぶつける!

「ナン……グァバッ!?」

「やったわ!」

霊体このたいしつを利用して突進をすり抜けたのは、我ながらいい判断だった。

魔法のクリーンヒットで、怪物の体はばらばらにちぎれ飛んだ。

「はあ……なんとか、勝てたわね……」

「ハ」

「タ」

「シ」

「テ」

「ド」

「ウ」

「カ」

「ナ」

「……まあ、そう簡単に終わらないとは思ってたけど……」

だからといってこの光景は見たくなかった。

飛び散った肉片の一つ一つに目がある。口がある。それらが一箇所に集まろうとしている。

「一体どうしろってのよ!」

「オマエ……ニンゲンデハナイノカ……?」

怪物は語りかけてきた。

「ええ、お互い様ね」

「マサカオマエ……セイレイノナカマナノカ」

「精霊……?いえ、違うけど」

「ソウカソウカナルホド……イケニエガタリントヤマヲオリテキタカ……」

「聞いてよ」

「ウルサイゾ……モトハトイエバオマエノ……お前の……せいで……!」

「!?」

怪物は怪しく蠢いて姿を変え始めた……!

「お前のせいで!何の罪もない村人がどれだけ死んだと思ってるんだ!」

怪物はもはや明確な人型を取った。話し方も流暢になっている。身長は……5mほど。

「恨みの力が私を強くする……ノコノコと降りて来おって間抜けがッ!お前を殺す……お前の親玉も殺すッ!」

「待って……落ち着いて!どういう事?あなただって村の人を……」

「あんな奴らは村の者とは認めん!精霊に魂を売ったクズが!」

説得は通じそうに無い。だが先程より明らかに強くなっている……勝ち目はあるだろうか。

「もはや手加減は無しだッ!殺すッ!」

怪物は巨体で殴りかかってきた!

「姿は変わっても……」

私はさっきと同じようにすり抜けを使って……

「やる事は変わらないようね!」

背後から魔法を……!

「かかったな!」

「えっ……うぐッ!?」

怪物はまるでこちらが見えているかのような正確な後ろ蹴りを……

いや、見えているのだ。実際に。

さっきよりも増えた目玉は体の後ろ側にも来ていた。

「なんども同じ手を食うと思うなッ!」

「……!?」

崖側に吹っ飛ばされ、倒れ伏した私は体の異変を感じた。

動きが鈍い。なんだか体が不自然に軽い。

「ほう?精霊も殴れば弱るのだな、勉強になったぞ……そのまま死ね」

そんな……このままでは消えてしまう……!

「でも……どうすればいいの……?」

いっそずっとすり抜けを使い続けて凌ぐ?

でも、そんな事をすればどちらにしろそのまま消えてしまうかもしれない。そんな予感が走る。

私は自分の存在についてあまりにも知らなさすぎる事を痛感した。

この体がどうやって維持されているのかすら知らないのだから、この致命的状況を回避する方法も分からない。

「踏み殺してくれよう!」

怪物は大きな足を振り上げた……!


どうせ一度は死んだ命だ。

もういいだろう。

託された剣も……きっと鉄男が持っている。

後は任せて……私はもうここで諦めても、きっと誰も怒らない。何も変わらない。

そんな声が胸に響く。

……本当にそうだろうか?

私がここで諦めたら、間違いなくこの怪物はあの村を襲うだろう。

村長さんが守ってきた……あの村を。

ああ、優しかった村長さん。

彼女ももう、いないんだ。だったら……!


「私が守るしか、無いじゃない……!」

消えたくない。まだ、消えるわけにはいかないッ!


突如、凄まじい音と地響きがした。

「な、なんだ!?」

怪物がうろたえて振り返ると、そこには火を吹く山があった。

「噴火だと……?おのれ、この精霊めが……最後のあがきのつもりかッ!死ねィ!」

何が起こったのかは私にも分からない。

ただ、あの噴火と同時に、私の中に熱い何かが流れ込んできている……それは感じる。

体が……動く!

だが怪物の足はもはや目の前!私のとるべき行動は……!


「な、なに……!?お前まだ動けたのか!」

「まだまだやれるわ……!」

振り下ろされた足を受け止める。力がどんどん湧いてくる!

「おのれ……このまま潰してやる!」

「力比べよ!」

自分でも驚くほどの力だ。

「ぐぬぬ……!」

巨体の全質量がのしかかる。それでも!

「こっちの方が強いみたいね!」

一気に押し返す!

「なに……ぐあっ!?」

怪物は体勢を崩し、ひっくり返った!

今なら行ける!

「今度こそトドメよ!塵すら残さない!」

魔法を溜める……溜める……溜める!

「やっ、やめろ……!やめてくれ!」

「はあっ!!」

最大限に高まった魔法は赤く輝いて怪物へと迸った!

……赤い?

これまで使った魔法と色が違う……?

「グアアアアア!!!アアアアアア!!!」

魔法がクリーンヒットした怪物の体は炎上し、苦しみはじめた。

「えっ……」

こんなのは初めて見た。

「なにこれ……くっ」

力を使いすぎたかもしれない。めまいがする。

ふらついた拍子に、腕から何かが落ちた。

拾い上げる。黒い宝石の嵌った腕輪だった。

「? こんなの持ってたかしら」

いや、ありえない。

そもそも幽霊になってからは新しく物は身に着けられないし、元々身につけてた物は外せないはずだ。

とにかく拾っておく。

ふと、炎上する怪物の方をみると、すっかり縮んでいた。

人並みの大きさになって、炎の中のシルエットも人のような……

「えっ!?」

というか、人だ……あれはもしや!

「う、うう……口惜しや……復讐を遂げられず、精霊なんぞに返り討ちとは……」

そう、それは聞き覚えのある声……


紛れもない、村長さんの声だった。



「そんな!あの怪物の正体が……あなただったなんて!」

「怪物……?ああ、確かに私は身も心も怪物に成り果てたかもしれない……でもお前たちよりはよっぽどマシだよ!」

「待って……聞いて!私は精霊の仲間なんかじゃ……」

「フン、そう言えって親玉に言われてきたのかい」

「そんな……」

私は泣きそうになった。

「やめろ!悲しんでなんか無いクセに!邪魔者がいなくなって満足だろう!とっとと帰んな!私がいなくなりゃじきに生贄が届くだろうよ!」

「やめてよ……」

「……お前が崖で発見された時にはね、私は生贄にされた私の娘が帰ってきたと思ったんだ……実際、娘が生きていればお前くらいの年だろう……でも、それも私を騙すための作戦の一つだったんだろ」

「やめて!もうやめてよ!」

私ははっと思い至り、未だに燃え上がる炎を消そうとした。そう思った瞬間、嘘のように炎は消え去った。

「この期に及んで……まだ私を騙そうってのかい……?体よく殺せて好都合だろうに……どうして……?」

「ねえ聞いて、今はどうこう言ってる場合じゃないわ、はやく村に行って治療してもらわなきゃ……」

「……無理だよ」

「どうして!」

「さっきも言っただろうし見ただろう、私は身も心も怪物になってしまったんだ」

「……どうしてこんな事をしたの……?」

「……どうせ最期だ、教えてやるよ」


「この村には生贄の習慣があった……それも、つい最近までだ」

「つい最近……?」

「そう、前の村長……つまり私の夫の代まで」

村長さんの顔には憎しみがありありと浮かんでいた。

「私を初めとする生贄反対派の意見は悉く受け入れられず、次々に村の若い女が犠牲になっていった。そして最後にはあろうことか……自分の娘まで……!」

怒りにまかせて振り上げようとした拳は、力なくくず折れた。

「……私はもちろん止めようとした。生贄に捧げられる夜にこっそり二人で村を出るはずだった。でも……奴はそれを読んでいたんだ」

「そんな……」

「私は妙な薬を盛られて眠ってしまって、気がついたらもう……すべては終わっていたんだ」

目からは一筋の涙が流れていた。

「私の中に渦巻く怒り、悲しみ、憎しみ……そういった物が形を成して、私は怪物になっていたんだ……天の助け、そう思った。この力を使えば奴らに復讐ができる……まず、私の夫を殺した。死体は生贄を捧げる崖に放置した」

「……」

私は何も言えなくなった。

あまりに……あまりに残酷すぎる。

「その後は噂が勝手に広がって行って、生贄をしようとする者はいなくなった。だが娘を殺した元村長陣営を私は許さなかった。全員……殺した。村は平和になったんだ。そこに……お前が来たんだ」

「そんな……理由が」

「さて……話すことも話した、私はそろそろ……死の報いを受けるべきだ」

「……」

村長さんが悪くないとは言えない。でも……なんて悲しいんだろう。

「もし、お前が本当に精霊の手下じゃあないんだったら……こんなひどい仕打ちしかよこさない精霊って奴に……一言……文句でも言ってきてくれたら……嬉しいね……」

村長さんは事切れた。

そうだ。

一番悪いのは生贄なんかを欲しがった精霊なんだ。

私はいまだ赤く燃える火山を見上げた。



続く。

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