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5-1:温泉

「ふう、なんとか運んでこれたが……」

そんな声が聞こえる。

「この子もかわいそうにな……」

なにか、緊張した空気を感じる……

「なあ、本当にあの崖に倒れてたのか?」

「ああ、間違い無い。『人食い崖』の上だ。ということは……この子も犠牲になったんだ」

記憶がはっきりしない……けど、どうやら崖に倒れてたところを拾ってもらったらしい。

「なあ、なんでこんな村の近くまで運んできたんだ?今更だけどさぁ」

「なんで、って……ほったらかして呪われても怖いじゃないか」

「でも……死体だぜ?わざわざ運んでくる理由も無いだろ?」

そっか、気絶してる間は呼吸できないから……死体と思われたのね。

「でも場所が場所だしよ……もしかしたら妖怪変化になって俺たちを食いにくるかも……」

「お、おい!怖いこと言うなよ……」

なにやら好き勝手言われてる。

「失礼ね!人間なんて食べないわよ」

起き上がって文句を言おうとした。

「ひゃああああ!!お、起き上がったぁああああ!?」

「よ、妖怪だ!妖怪が出たぞぉぉぉぉぉぉ!!!!」

二人の男の人は逃げて行ってしまった。

「妖怪、ね……まあ、似たようなものだけどさぁ……」

私、リディアは頭を掻いた。


第五章 リディア編 魔法



さて、どうしてこんな状況になったのかしら……

たしか、船で東の大陸に……

うーん、思い出せない。

とにかく、そこに見える村に行きたいところだけど……

「人食い妖怪だと思われてるのよね、私……」



「おい、本当か?『人食い崖』の元凶が見つかったってのは?」

「ああ、なにやら女の子の姿をした化け物らしい」

「それも、村のそばまで来てる、って話だぜ!」

「ひえー、用心用心……」



なるべく意識を集中させて、輪郭を濃くする。最近できるようになった小技。

少しでも人間に近づいて、警戒を解かないと。

「よし、たぶんこれで……」

悩んでいても仕方が無い。とにかくここがどこなのかくらいは聞かないと。


「お、おい!あれじゃないか!?」

私が村に入ると、数人で話していた人達がこちらを指差してなにやら言っている。

「あ、ああ!お、俺村長に報告してくる!」

「ま、待て俺も行く!」

「俺も……」

「お前は残ってあいつの相手をしろ!」

「えっ……そんな!」

慌てた様子で二人が去っていった。

残りの一人に話しかける。

「あの……」

「ひっ……は、はい?なんでしょう?」

「ここはなんという村なの?」

「は、はいお答えしますとも……ここはガンドの村ですはい」

怯えきっているようだ。やはり妖怪だと思われているのだろうか。

「ガンド……聞いた事無いわね……ここは東の大陸?」

「え?いや……西の大陸の北部のしがない村ですが……」

「西の大陸!?」

どうやら潮の流れは私にそうとう意地悪をしたらしい。

「え、ええと……とにかく村長に挨拶をしたいわ。村長の家はどこかしら」

「だ、だめです!それだけは!」

「……」

困った、とにかくこの誤解をなんとかしないと……

考えていると、一際大きな家から恰幅のいいおばさんが出てきた。

「旅人の方かい?珍しいねえ、こんな僻地に」

「そ、村長!?」

どうやらこのおばさんが村長らしい。

「どうもこんにちは、私はリディアと言います。船で旅をしていたところ、難破してしまいここに流れ着いたのですが……」

嘘偽りなく、説明する。

「そうかい?それは……おかしいねぇ」

柔らかな物腰の中に、鋭い敵意が込められているのは気のせいだろうか?

「ここは確かに海沿いだけど、かなり高い所だからねぇ、流れ着いたとしてもとてもあの崖を登れたとは思えないのだけれど」

「それは……私にも分からないんです、気がつくとそこに倒れてたんです」

私は村の外を指差した。

「ああ、それはうちの村の者が運んだって聞いたよ、元々崖の上に倒れていたってね」

「そう……なんですか……私には何が起こったのかさっぱり……」

私は俯いた。こんな状況、誰が見たって私が怪しい。

だが、村長さんは私の肩に手を置いて、言った。

「こんなに小さいのに大変だったねぇ……しばらくこの村で休んでいくといいよ」

周りで見ている住民が息を呑むのが聞こえる。

「あ、ありがとうございます……」

村長さんはにっこりと微笑むと、周りの住民達に大きな声で呼びかけた。

「さ、お前達!そんなとこで突っ立ってないで!久々のお客様だろう?おもてなしの準備だ!」

「え、そんな……いいです、お構いなく」

「いいんだよ!遠慮なんて5年後に覚えなさい!」

少なくとも、見た目より5つは上なんだけど……

それはともかくとして、私はこの優しい村長さんを一瞬でも疑った事を後悔した。


「このガンドの村はね、高い所にあるから本当はすごーく寒いんだ。でも今はそうでもないだろう?」

「は、はい」

村長さんが村を案内してくれるというので、私は村長さんの後をついて村を回っている。

「なんでかって言うとね、これのおかげなんだ」

そう言って村長さんが指し示したのは、池のような物だった。しかし水は白く濁っていて、しかも湯気が立っている。

「これは……なんですか?」

「そうか、あんたは知らないのか!確かにこれは西の大陸だと珍しいからねえ……これはね、温泉っていうのさ」

「温泉?」

聞いたことの無い単語だ。

「あれをご覧」

村長さんは聳え立つ山を指差した。

「あれは火山といってね……火山は分かるかい?」

「はい!お父様から聞いたことがあります」

「お父様?あんた、どこかのお嬢様か何かかい?」

「あ、いえ、そんなに大層な物じゃないんですけど……」

「なるほどねぇ、確かに綺麗な髪をしていると思ったよ」

村長さんに髪を撫でられ、私はビクッとした。

「あら、ごめんよ、驚かせちゃったかい?」

「い、いえ……人に髪を触られるのは久しぶりで……」

これまで髪の毛の先とかは実体が薄くて触れなかったのに……

やっぱりこの体の本質を理解したことで色々と変わってきているのかもしれない。

『魔法使い』……謎は深い。

「しかし上等の髪の毛が塩で台無しだね……丁度いい!あの温泉に入るといい!」

「えっ……入るんですか?あれに?」

「ああ!あれは天然の風呂なのさ!」

「そ、そうなんですか?」

「普段は金を取るんだけどね、今回はただでいいよ、さあ行ってきな!」

「あの……こんな外でお風呂に入るんですか?」

「大丈夫だよ、寒くないさ」

「いや、そういう問題じゃなくて……」

「ああ!はずかしいのかい!こりゃ悪かったねぇ、安心しな、ちゃんと建物の中にもあるよ」

そういって村長さんは温泉のそばに立つ大きな建物を指差した。

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」

確かに人前でお風呂なんて信じられないが、私の心配事は他にあった。


人のいない広い脱衣所で私はうろうろしていた。

「この服、体の一部なのよね……」

きっとこの服ごと『私』として構成してしまったのだろう。

「別に服のまま入ってもいいんだけど……」

そもそもこの体は自然に存在する『元素』によって構成されている物らしい。

と、いうことは。

「こんな風に……できないかな」

いつものように光の弾を作り出し、形を捻じ曲げる。

毎日少しづつ練習しているが、まだ単純な形にしかできない。

これと同じ原理で姿も変えられないだろうか。

「でも……体の形が変わったまま戻らなかったらやだな……」

とにかく浴場へと入った。


「うわっ、すっごい……」

先ほどのよりは小さいが、それでも立派な温泉があった。

とりあえず、傍にあった普通のお湯を掬い取り、髪を洗い流した。

一応、髪を解くことはできる。

体……もとい服の汚れも落とした。

「ふうー、落ち着いた……けど」

どうしよう。服のまま入っても問題無いけどなんとなく気が引ける……

「お嬢さん?入るよ!」

唐突に声がした。この声は……

「そ、村長さん!?」

まずい。服のままお風呂にいるところなんて見られたら絶対怪しまれる。

「ちょ、ちょっと待って下さい……!」

こうなったらやるしかない!

「ど、どうしたんだい!?」

村長さんは慌て気味に入ってきた。

「い、いえ、体にタオルを巻いてただけです……」

なんとかタオル一枚の姿になることに成功した。

「そうかいそうかい、じゃ、お邪魔するよ」



「ふう……」

温泉はすごく熱かった。だがなんとか肩までつかり、一息ついた。

「どうだい、熱いだろう?これはあの火山のエネルギーで暖まっているんだよ」

「そうなんですかー……」

「ふふふ、気持ちいいだろう」

「っ!は、はい!」

つい間抜けな声を出してしまった。

「いいんだよ、存分にリラックスしとくれ」

村長さんは伸びをした。

「さっきは……すまなかったね、村の者が」

「……はい」

「本当になんでああなったのか分からないのかい?」

「はい……船で東の大陸に向かっていたはずなんですけど……」

「あんた一人でかい?」

「いえ、その船にはもう一人……」

そう、鉄男。これまで考えてる暇もなかったけど、無事だろうか。

「そうかい……残念だけど、あんた以外には人は見つかってないよ」

「そう……ですよね」

「……大丈夫、きっと他のところで生きてるさ」

「でも……守るって……約束したのに……」

自分の不甲斐なさに涙が出てくる。私は……何をやってるんだろう。

「大丈夫……大丈夫さ」

「あ、ありがとうございます……」

私は頭を振って感情を整えた。

「ところで、『人食い崖』って……なんのことなんですか?」

ずっと気になっていた事を尋ねた。

「……誰から聞いたんだい?そんな事……」

村長さんが険しい顔つきになった。

「いえ、意識が朦朧としてる時にそんな言葉を聞いた気がして……」

「そうだね、旅人のあんたにはなるべく言いたくなかったが……あんたもそこに倒れてたんだ、ある意味当事者……か。分かった。教えるよ」

村長さんは姿勢を整えた。

「この村の……闇の歴史をね」



続く。

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