第三話:借賊
「なぜ村に盗賊が!?今の門番担当は誰だ!」
「お、俺です…」
「何をやっていたんだお主は!」
「いやだから怪しい奴を…おや、奴はどこだ?」
いつの間にか白波はいなくなっていた。
「まあいい、お主はこの村で戦える数少ない人間だ!はやく外に!」
「お、おう!」
男は慌しく外に出た。
「俺らァ泣く子も黙るジャド盗賊団!死にたくなけりゃ黙って金目の物を根こそぎ出しなッ!」
村の中心で背の高い男がそう叫び、その部下らしき六人の男が辺りの村人を武器で脅している。
「お前らの好きにはさせねぇよ!痛い目見たくなきゃとっとと出て行きな!」
負けじと門番の男も叫び返す。
「ほう、面白い事を叫ぶゴミがいたもんだなァ、名を名乗りな!」
「俺はこの村1番の腕自慢、鉄男だ!鉄の男は伊達じゃねえところを見せてやるぜ!」
そういうなり門番の男、鉄男は手にした剣で手近のザコに斬りかかる!
「セイッ!」
「グアッ!」
鉄の兜に弾かれたものの、伝わった振動で即気絶してしまうほどの衝撃!強力な太刀筋だ!
「なるほど、少しはやれる奴もいるみてぇだな!面白い!野郎ども!一斉にかかれェ!」
「「「「「イエッサーー!!」」」」」
息の合った掛声とともに、五人のザコが短剣を、ハンマーを、槍を、刀を、拳を振りかざし飛び掛る!
「!?」
鉄男はとっさに前転して回避!
「「「「「しまっ…グボァッ!」」」」」
対象を失ったザコは互いに空中でぶつかり合い、伸びてしまった。
「さあ、あとはお前一人だぜ!」
鉄男が長身の男に剣を突きつけ叫ぶ。
「チッ、役立たずどもめ…だが俺はあいつらとは一味も二味も違うぜ!」
そういうと長身の男は腰にさした二振りの刀を抜いた。
「セイッ!」
右の刀で切りかかる!鉄男は剣で受け止める!するどい金属音が響く!
「クッ…」
「右ががら空きだぜェ!」
左からもう一本の刀が襲い掛かる!
「ウアアアアアァァァァァ!!」
右わき腹を切りつけられ、激痛が走る!
「絶体絶命だなァ、え?おい、この村の金を全部出しゃあお前の命は助けてやるぜ?どうだ?」
「このッ…!」
「ゴミが生意気にも逆らうからこうなるんだよォ!え?ほら、謝ってみろよおい!」
「調子に…乗るなッ!!」
油断した長身の男に、鉄男が反撃の蹴りを撃ち込む!かと思えたが!
「!?何だ…力が…抜ける…」
鉄男の体から力が抜けていく。
(俺、死ぬのかな…)
そう思った時だった。
「ハハハハハハ!無様なもんだzガハッ!?」
突如凄まじい音が響き、長身の男の言葉が途切れた。
「何…後ろから…だと…何者…だ…」
「私は白波。盗賊さ」
そこには、大斧を構えて立つ白波がいた。
それを見た後、鉄男の意識は途切れた。
「はっ!俺は…」
鉄男が目覚めた時、自分の家のベッドの上にいた。
(どうやら死んでないみたいだな…それにしても力が入らない…傷のせいか…?)
「お目覚めかい?」
声の主は白波だった。
「お前…あの時何を?というかお前は何者だ?」
「言ったとおりだよ。私は白波。盗賊さ。人の物を勝手に取っていく、ね。」
「言っている意味が分からないぞ…」
にこやかに言う白波に、困惑する鉄男。
「つまり、キミの『筋力』を勝手に使わせてもらった。私の力じゃああいつを殴り倒せないからね。」
「なんだそりゃ…体に力が入らないのはそのせいってか?」
さらに困惑したように鉄男が言う。
「ああ、そうか、ごめんよ、忘れてた。今『返す』よ。」
白波がそういった途端、鉄男の体に力が入るようになった。
「???さっぱり訳が分からん。どうやったんだ?」
「さあね、何故か出来るんだよ、こういうことが。人から勝手に『借りて』、そして『返す』ってことがね」
「つまり、あの場でとっさに俺から筋力を借りたって事か?」
「ああ、そう言ったじゃないか」
「…なんで奴から取らなかったんだよ」
「……あ」
「お前、なんか抜けてるな」
「ま、まあいいじゃないか、結果オーライだよ」
「んな訳あるか。死に掛けたんだぞこっちは」
「まあまあ、ちゃんと借りたものは返したし許してよ」
「そう、そこんとこだが、ちゃんと返すのなら盗賊とは言わないんじゃないのか?」
「そうなの?」
「ああ、奴らは律儀に返しに来たりしないさ」
「へぇ…」
「そうだな、人から物を盗むのが盗賊なら、人から勝手に借りてくのはさしずめ、『借賊』ってとこかな」
「借賊…ね、そうか、私は借賊だったのか」
「…お前、変わったやつだな。名前、なんて言ったっけ?」
「私は白波。とうぞ…いや、借賊さ。」
「その口上気に入ったのか?まあいいや、しかし変わった名だな」
「まあ私もこれが名前かどうかは分からないんだけどね」
「どういう意味だ?」
「それが私にもよく分からなくてね…ある日起きたら『白波』って言葉以外自分のことが分からなくなったんだ。
私の事を知ってる人もいなくてね、しかたないから旅に出たんだ。
『白波』が私の何なのかは分からないけど、とりあえず名前として使ってるのさ。」
「なんだそれ、記憶喪失って奴か?だから変な事ばかり…よくここまで旅してこれたな…」
「まあね。それはそれとして、実は宿代が無いんだ。ここに泊めてくれない?」
「え、ここにか?」
「ねえ、いいだろう?」
「いやまあ、村の恩人の頼みを断るわけにもいかんが…」
「なら決まりだね、もう私は眠いんだ、どこで寝ればいい?」
「え、あ、いや、じゃあそこの長椅子でも使ってくれ」
「ありがとう、じゃあおやすみ……やらしい事とかしちゃダメだよ?」
「しねぇよ!とっとと寝ろ!」
こうして村の危機は一時去った。だがこれは序章にすぎないのである…