第三十八話:奪還
「ところで……どうやって勝つんだ?」
「私に考えが……っと!! 来るよッ!」
二人の間を裂くように振り下ろされる大斧!
左右に跳んで回避!
「よかろう!まずはお前からだッ!」
デビッドは右に避けたジャックを標的に取った!
「おいどうすんだ!避けてるだけじゃいつか負けちまうぞ!」
横薙ぎに薙がれた斧をしゃがんで回避しつつジャックが叫ぶ!
「武器!武器を狙って!」
「武器ィ!?うおっ」
横薙ぎの慣性を強引に打ち消して間髪入れずに返しの斬撃!
ジャックは腰の短剣を抜き上方に打ち払い、斧の軌道をわずかにずらすことで回避!
「このナイフ高いんだぜ!あんま使わせてくれるなよ!」
「口の減らない……よかろう!二度と使えないようにしてくれる!」
「そういう意味じゃねぇ!」
「フン!小賢しいぞッ!」
デビッドが唐突に半身になり……白波の背後からの不意打ちを回避!
しなる釣竿の一撃がジャックを捉えた!
「いてぇ!」
「あっごめん!!」
「間抜けめ……終わりだッ!」
絡まる釣り糸を解こうともがくジャックにデビッドは斧を振りかぶる!
「そうはさせない……えっ!?」
阻止しようとした白波は驚愕した。
『腕力』を『借りる』事で時間を稼ごうとしたが……!
「まさか……『借りる』事が出来ない……!?」
「フン!どこまでも未熟よッ!死ねい!!」
デビッドは振り返りもせず言い放ち、斧を振り下ろした!
「手ごたえあり、だ……死んだな」
デビッドが冷酷に呟く。
床には大穴が開き……その中から……ジャックの腕だけが覗いている。
「まさかッ!そんな!!」
白波が絶望したように叫ぶ。
「フン、他愛も無い……あとはお前だけだ!心配するな……まだ殺しはせん」
デビッドがゆっくりと振り返りながら告げる。
「くっ……」
白波は必死で唯一の武器である釣竿を巻き戻し……
「そう、釣り糸だって『巻き戻す』モノ、だよな?」
不意に、デビッドの背後から声!
「何だとッ!?」
慌ててデビッドが振り返る!
「時計か生き物以外にも使えんのか……試してみる価値、アリだぜ」
そこには……ジャックが!しかし……
「ジャ……ジャック!腕、腕が……」
ジャックの左腕から先は……無惨にも……
「んなことは今はいい!お嬢!手ぇ離すなよ!」
ジャックが右腕を白波の持つ釣竿に向ける!
すると凄まじい勢いでリールが回転を始めた!
その針の先は……
「なっ……い、いつの間に貴様!」
デビッドの持つ斧に引っ掛かっている!
「さあ、釣竿は釣竿らしく、魚釣りと洒落込もうぜ!……命がけのな!」
「小癪な!小娘の力でこの……私に……くぅっ……」
「お嬢だけじゃねえ!俺の力もあるんだぜッ!」
白波は釣竿を!デビッドは大斧を!互いに離さんとして満身の力を込める!
だがあまりにも体格差が激しい!徐々に白波が引きずられる!
「お嬢!お前も……頭とか……使えよな……ッ!」
「とか……って、言われても……!」
「なんでもいいから……『試してみる』んだ!……お前も!」
「『試す』……?」
「これ以上……無駄口叩くと……本当に死んじまう……」
「くっ……」
白波は考える!
一体何をすれば……!
前に似たような相手と戦った時は……相手の『重さ』を『借りた』。
だが今の相手からは……『借りる』ことすらできない!
ジャックからも……下手をすればジャックが死んでしまいかねない!
その他に借りられそうな人なんて……『人』?
そうか……試すっていうのは……こういうことか!
「思いつきもしなかった……『借りる』っていうのは!」
白波は全神経を……相手の持つ大斧に集中した!
「なにも『人』とか『生物』に限った話じゃない!試してみる価値は……あるッ!」
「何をゴチャゴチャと!そろそろ終わりにしてくれるッ!」
デビッドは力を入れなおそうと体勢を整える……その一瞬ッ!!
「今だッ!」
白波は自分の体が重くなったのを感じた。成功だ……!
「何ッ……なっ!」
急に『重さ』を失い軽くなった斧のせいでデビッドはバランスを崩した!
斧はその手を離れ……白波の元へッ!
「う……あ……」
デビッドはそのまま膝を着き、気絶した。
「お嬢……よくやったぜ……まあ、7割くらい俺のおかげだが……な……」
ジャックも気絶した。左肩からの流血は深刻だ。
「ジャック!」
白波は念のため斧には触らず、ジャックの下へと駆け寄った。
しばらく後。
「なあ、俺の腕……本当に戻らないのか?」
ジャックは医者の元に運ばれ、応急処置を受けて一命を取り留めた。
「ええ、何をやったらこんな綺麗に切断されるのか……知りたいくらいですよ」
「そうか……」
「でも、義手ならば一応……」
「あるのか!見せてくれ!」
「ああいえ、あまり期待は……」
「いいから早く!」
「……分かりました」
医者はしばらくしてかなり大きな包みを持ってきた。
「それが……腕か?でかくねえか?ちょっとばかり」
「ええ、これは……腕を失った戦士のための戦闘用義手です。」
医者は包みを取った。鉄塊というのがふさわしいものがそこにあった。
「……これが、か?」
「ええ……日常生活に期待は出来ませんね……」
「これはちょっと……遠慮しておくぜ」
「そうですか、分かりました。では他の診察があるので……安静にしていて下さいね」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
「なんですか?」
「俺のほかにもう一人運ばれてきた奴がいるだろ?そいつはどうなんだ」
「……彼は……彼に何があったのですか?」
「質問してるのはこっちだぜ」
「……生きています……すくなくとも、体は」
そう告げる医者の表情は暗かった。
続く




