第三十六話:真実を求めて
「犯人はきっと、『能力』で……船員達の『体温』を下がらないようにしたんじゃないかな」
「『体温』?」
ジャックは首を傾げる。
「そう、運動して体温が上がると普通は汗をかいて体温が下がるだろう?それを無くせば……発火するほどに高温になる事もあるんじゃないかな」
「だがよ……汗かかなかったら普通気付くぜ」
「……ものの例えだよ。汗は出てたかもしれないけど体温は下がってないのかもしれない」
「ふむ……説得力のあるのか無いのかよう分からん推理だな」
「でもこの推理に従って考えれば近寄って『能力』を使った人がいないのも説明がつくよ!」
「使った後に運動によって体温を上げる必要があるからか……だがなんでそんなまどろっこしいことを」
「『能力』の都合……とも考えられるけど、やっぱり『能力』を使ってるところを見られないためじゃないかな」
「……見られないため、って言ってもよ、一体誰にだ?使った相手には絶対見られるじゃねぇか」
「それは……多分私だよ」
「はぁ?元凶がお前を知ってたってのか?しかもあの時間に訓練所に来る事を?」
「……分からないけど、少なくともそういう人物に心当たりはあるよ」
「なんだ、知り合いか?だったら『能力』を使う瞬間を見られなくても後で問い詰められりゃ終わりじゃねぇか」
「知り合い……って訳じゃないよ、私はその人の『見た目』すらも知らないし、そもそも存在するかどうかも」
「……?なんだ?言ってる意味がさっぱり分からねぇぞ」
……白波は考える。
鉄男の言っていたのは、斧を手にしたソフィアさんが豹変したということだった。
あの斧にそんな……人を操るような力があるとすれば?
仮にあの槍斧に『意思』があるとすれば……私がいつ起きて行動を始めるか、予想はできるはず。
そして、操られているのが私の予想通り船員の誰かならば、私が斧を探していることは知っているはず。
なら船員の集まる訓練所に来る、というところまで予測できる……
私に知られてはまずいこと……きっとソフィアさんの死、についてだろうか……があるから、船員全てを一気に口封じ……!?
全員ではおかしい!少なくとも元凶は……あの場には居ないはずだ!
「あのさ!」
「なんだ?急に」
「あの訓練所には船員が全員いるの?」
「ああ、誰かが怪我でもしてなきゃあな、いるんじゃねぇか」
「……今日は、誰か怪我してる?」
「しらねぇよ、俺は船の関係者でもねぇんだぜ」
「えっ?違うの?」
「俺はただの……ただの通りすがりだ」
「……」
「なんだよその目は」
「いや、よく分かんない人だなぁって」
「それはこっちの台詞だ」
「まあとりあえず、それを調べてみようよ!欠席者がいれば相当怪しい……」
「なんでだ?元凶が船員達の中にいるとも限らないんだぜ?」
「……多分、船員達の中にいるんだよ、私の推理だと」
「……ふーん、まあ、信じるさ。幸いにも俺たちは何回でも『今日』を調べられるからな」
そして逆回りする時計は再び時を戻す……
「……ふう。これやるのも少し疲れるんだぜ?」
「もう少し頑張って」
「やれやれ、人遣いの荒いお嬢だぜ……どうした?」
白波はジャックをしげしげと眺めていた自分に気付いた。
「あっ、ごめん、ちょっと……」
「なんだ?」
「いや、知り合いに君に似てる雰囲気の人がいて」
「へぇ、さぞハンサムなんだろうな」
「そういう軽口もちょっと似てる」
「……」
「まあいいや、時間は限られて……は無いけど」
「なに?欠席者?今日は……一人いたかな」
船員があいも変わらず重量挙げをしながら答える。この後自分を襲う凄惨な運命も知らず。
「誰ですか!?」
「おいおい、なにをそんなに焦ってんだ?誰って……んなもん覚えてねぇよ」
「そう……ですか……」
白波はついでに、その船員の肌の表面を見た。汗は……かいていない。
「ところで、かなり激しく運動されてるみたいですけど、汗をぜんぜんかかないんですね」
「ああ、これはな?」
船員は得意げに語り出す。
「いやぁ、すげえだろ?この時期は汗がうっとうしくなってくる、って話を昨日してたんだがよ、その時に『汗をかかなくなる薬』ってのを貰ったんだ」
「そっ……それ!誰にですか!?」
「ああ?お前も欲しいのか?うーんと、あれは……ジョンだったか……バードだったか……まあとりあえず、俺達の仲間だよ」
「……そうですか、探してみます」
「いよいよ怪しいよ」
「でも欠席者なんてどうやって調べるんだ?」
「え?そんなの決まってるじゃない」
「……あのなぁ、だんだんと扱いが雑になってないか?」
「?」
「素……なのか……?」
さらに時計は巻き戻る……
「点呼をとーーるッ!」
大声を張り上げるのは筋骨隆々、焼けた肌が他の船員よりも際立つ船長だ。
「呼ばれた者は前に!アーサー!」「ウイ!」……
凄まじい熱気だ。
「あつくるしい奴らだぜ……」
「しっ……」
呆れたような顔にジャックをよそ目に、白波は真剣に耳を傾けている。
「デビッド!デビッド!?」「デビッドは足の怪我ですッ!」「そうかッ!次ッ!」
「デビッド……よし、デビッドね」
名前を確認したジャックと白波は船員寮へと向かった。
船員寮、デビッドの部屋前。
「いいか、こいつの部屋に321で飛び込む前にだ」
「何?」
「まず一つ、時間が無い。あまり悠長にやってっと訓練所が燃えちまう」
「……もうちょっと巻き戻してから来ようか?」
「あのなぁ、簡単に言うけどよ、あれは疲れるんだって」
「ごめんごめん、冗談だって」
「冗談に聞こえねぇよ……でも、念のため巻き戻しといた方が……」
「なるほど、さっきから時間が繰り返してたのはお前のせいか?」
「ああそうだぜ、そう言ったろ……!?誰だッ!!」
二人の気付かぬ内に一つの影が忍び寄ってきていた。その人物は……
「やっぱり……あなただったのか」
「面妖なことをしよるわ……だがそれだけに!その魂は極上であろうな!」
白波の槍斧を背に背負った船員……鉄男達を捕まえたその人である!
その目は妖しく緑色に輝いていた。
「こやつの能力の事を見抜いたのは……まあ偶然であろうが誉めてやろう……光栄に思え……地獄でなッ!」
続く




