第三十五話:『巻き戻す』
「見ろ」
ジャックが指差す先には、巨大な石柱。
「これがこの村の時計だ。他の村よりも大きいだろ?……まあ王都のには負けるが」
「あの……これってなんなんですか?」
「……あんた、時計を知らないのか?」
「い、いくらなんでも知ってますよ!……いや、詳しくは分からないですけど」
「まあいいや、説明してやる」
ジャックは『時計』について説明を始めた。
『時計』とは大きさが様々な石の構造物であり、各地に存在するがいつから存在するのかは分かっていない。
その特徴は、前面に回転して動く部品が大中小の三つあり、互いに干渉して動くというものだ。
小が60周したら中が1周、中が12周したら大が1周する。
それを見る事によって太陽がどのタイミングで昇り、沈むのかが分かるので、古くから利用されてきた。
よって、集落の中心にはほぼ確実に巨大時計がある。
人々はそれに数字を彫ることによって『時間』の概念を作ったのだ。
「不思議なもんだよな……決してずれる事も無く完璧な精度で回転しつづけてる。動力すらも分かってないんだぜ」
ジャックはそういうと時計に手を翳した。
「俺は不遜にもそれをずらしちまう訳だが……するとだな」
ジャックはその手に力を込めた。が、唐突に思い出したように白波の方を振り返った。
「おっと危ない、お嬢、俺に掴まっておけよ、でなけりゃあんたも戻っちまう」
「えっ……」
「ほら、早くしな」
「あっ、はい」
白波は遠慮がちにジャックの腕を掴んだ。
「行くぜ……!」
ジャックは全身に力を込めた。
すると、小さい部品の動きが徐々に遅くなり、止まった。
「……!」
白波は空気が硬くなるような感覚を覚えた。
一瞬の静寂。その後、小さい部品が逆回転を始めた。
「歯ァ食いしばれよ……!」
耳障りな音に包まれ、白波は辺りを見回した。
訓練所の周りに集まっていた住人達が、後ろ向きに動き始め、各々の家に帰って行く。
そして、燃えている訓練所の炎が小さくなり、消えた。
「もうちょっと……戻すぜ!」
小部品の逆回転速度が速くなり、白波は弾き飛ばされそうな力を感じた。
そして、中部品が逆に半回転したころ、逆回転は止まった。
「ふう、大丈夫だったか?」
ジャックは額の汗をぬぐった。
「ええ、なんとか」
「そうか、じゃああんなふざけたことをした野郎を探すぜ」
「はい」
「あんたがあそこに入った頃の時間まで戻ってるとはいえ、とっとと探さないとな」
「……でも、どうやって探すんですか?」
「それは……まあ、しらみつぶし、ってやつだぜ」
「……大丈夫なんですか?それで……」
「ま、まあなんとかなる、だぜ」
ジャックは頭を掻きながら言った。
「あと、敬語はやめてくれねぇか」
「え?どうしてですか?」
「いや、苦手なんだ、敬語使われんの……」
「そうですか、わかりま……分かったよ」
「よし、行くか!まずはあそこだろうな」
ジャックは訓練所を指差した。
「そういや、あの船員とは何を話してたんだ?」
「……すこし、聞きたいことがあって」
白波はやや言葉を濁した。
「なんだ?言いたくない事でもあるのか?」
「なんというか、その……」
「……まあいいや、犯人はそれを阻止するのが目的だった、と考えるのが自然だな」
「……でも、それだとなんで周りの人まで燃やしたんだろう、それにあれは人の仕業……なのかな?」
「あれは間違いなく『歪みの力』だぜ」
「『歪みの力』?」
「……口が滑った」
「何?その……『歪みの力』って」
「あー……あんたの言うところの『能力』の事だよ」
「なんで『歪みの力』って言うの?」
「さ、さあな、俺も知らねえ」
「……」
ジャックは嘘をついている。だが、今は問い詰めるべきでは無い……そう白波は考えた。
「そうか、残念だな、何か『能力』について分かるかと思ったのに」
「すまねえな……で、誰かが『能力』を使ったらお前も感覚で分かるだろう?あれは『能力』を持った人間の仕業だ」
「そう……?私は特に何も感じなかったけど」
「うん?そいつはおかしいぜ……あれだけ強力な『能力』なのに感じないとは」
「うーん……」
「まあいい、あれだけ派手にやるって事は能力者も近くにいないとおかしい、だからあそこから調べる」
「分かった」
二人は訓練所に入った。
「よし、作戦を思いついたぜ。お嬢はあの船員と話しててくれ、さっきと同じようにな」
「えっ、でもそんなことしたらまた……」
「ああ、奴が燃やしにくるだろうな。そこがねらい目だ」
「えっ?」
「さっきも言ったとおり、あそこまで派手に燃やすにはかなり対象に近づかなきゃならないはずなんだ」
「ああ……なるほど、わかりました」
白波は船員に近づいた。
ジャックはやや離れたところから見張る。
「あの船員に近づいた奴を捕まえりゃあいい……簡単な話だ。今回で終われるか……」
そんな事をいいつつ、辺りを見回す。怪しい動きの人間は……いない。
「……?あの船員……さっきもだがやたらと暑がってるな……顔も真っ赤だ……まあ、そういう体質か」
ジャックは勝手に納得しながらも、顔をしかめる。
「……そろそろ燃え上がっちまう時間だが……誰も……近寄ってこないな」
ジャックは焦り始めた。そして……
「う、うわあああああ!!?」
船員がまたも燃え上がった!
「クッ……お嬢!逃げるぞ!来い!」
ジャックは白波を引きずるようにして訓練所を飛び出した。
「ハァ、ハァ……何故だ!?誰も近寄ってない!それは確かだ!」
ジャックは混乱したように頭を振る。
「あの……」
「……分かったぞ!お前が犯人だ!この俺をからかってるんだろう!そうとしか……」
「ええっ!?いや、勘弁してよ!私の能力は『借りる』ことしかできないし!」
「……すまん、そうだよな……わざわざこんな面倒なことしないよな……」
「……それはそれとしてさ」
「何だ?」
「燃え上がった瞬間に、『能力』の気配はしなかったの?」
「……ああ、そうだな、そんな気配は無かった……」
「あと、あの船員の人がやたらと暑がってたの、見たよね?」
「ああ、でもそれがどうか……?」
「しかも、前回、水をかけてもあまり意味が無かった……」
白波はやや考え、そしてややあって口を開いた。
「……なんとなく、犯人の『能力』が分かった気がする」
「『燃やす』能力……とかだろ?」
「いや、多分……そんな単純な話じゃないんだ」
「じゃあ……なんなんだ?」
「……うん、これなら……すべて辻褄が合う……」
「なんだよ、早く言えよ」
「いいかい、私の推理はね……」
白波はさも得意気に語り始めた。
続く




