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借賊(あらすじを読んでください)  作者: 甲斐谷 郡児
第二章:真実を求めて
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第二十八話:錯覚

「……あの人遅いな、何をやってるんだろ」

ソフィアがしばらくしても帰ってこない。

「さあ、魚でも見てるんじゃないのか」

鉄男が適当に返す。

「そんな適当な……ちょっと様子を見てくる」

そう言って白波が立ち上がる、が。

「!?」

急にふらついて倒れそうになる。

「大丈夫か?まだ酔いが残ってるんじゃないか」

「いや、そんな事は無い……はずだけど」

「まあじっとしてろって、様子は俺が見てくるから」

鉄男は立ち上がり、船室から出た。


「あら、鉄男さん……でしたっけ」

丁度戻ろうとしたソフィアと鉢合わせた。

「あ、ソフィアさん……」

「どうかされましたか?」

「いや、戻ってくるのが遅かったから……」

「そうですか、すいません、少し考え事を」

「へぇ、何を考えてたんですか」

「それは……」

ソフィアはやおら隠し持っていた銃を構えた!

「あの槍をどう奪ってやるか!ですわ!」

そして鉄男に向け発砲!

「っ!? やっぱり……あれを狙っていたのか!」

着弾の衝撃に仰け反りながらも、硬い鎧に身を包んだ鉄男は無事だ。

「……」

「早速買った防具が役に立ったか、さあ銃を捨てろ」

鉄男は剣を突きつけながら迫る。

「ふ、ふふふ……」

「何笑っているんだ!銃を捨てろ!」

「防具が役に立った?だといいわね……じゃあその顔の傷は何かしら」

「!! いつの間に」

「この弾は着弾したら細かい刃を飛ばすのです」

「何だと……」

「元からこれでその鎧を貫こうだなんて思ってませんわ……少しの傷が付けられれば十分」

「まさか……!」

「そう、その刃には毒が塗ってあるわ、少量でも強力な、ね。……そろそろ全身に回る頃ですわ」

「くっ……」

鉄男はゆっくりと崩れ落ちた。

「……ふう、案外上手くいきましたわ」

ソフィアは鉄男を軽く揺さぶって起きない事を確認した。

「そんな危険な弾丸持ち運ぶ訳無いですわ……全部嘘なのに、思い込みって怖い」

そういって笑ったあと、ソフィアは倒れている鉄男を物陰に運んだ。

そして一人、船室に入っていった。


「ふう、落ち着きましたわ、失礼致しました」

「あ、ソフィアさん……鉄男に会いませんでしたか?」

白波が聞く。

「鉄男さん?いえ、会いませんでしたが」

「あれ、すれ違ったのかな……」

「そうかもしれませんね」

ソフィアは何食わぬ顔で答える。

「ちょっと探してきます……おっと」

またも立ち上がろうとしてふらつく白波。

「あー、お姉さまはじっとしてて、私が探してくるわ」

リディアが白波を座らせた。

(これはチャンス…!一人片付ける手間が省けたわ!)

ソフィアは心の中でほくそ笑む。

「すぐに見つけてくるわ」

リディアは船室を出た。

「酔い止めが切れましたか?」

白波と二人になったソフィアが尋ねる。

「ああ、いえ、これは……平気ですから」

「平気?それはおかしいですね…」

「……どういう意味ですか」

「だって、あれは……」

ソフィアはニヤリと笑った後、続けた。

「ただの砂糖菓子ですもの」

「……どういう事ですか」

「改めて自己紹介をさせて頂きます……私はソフィア、『思い込ませる』能力の持ち主」

「!!」

白波は立ち上がり身構える、だが……

「うっ……」

すぐにバランスを崩して倒れる。

「あなたに近づくために酔い止めとして渡したけど……もう騙す必要も無いわね」

「何が目的……うぅ……」

「目的?そうね、最初は様子を見るだけでしたけど予定変更、その槍を頂きます」

「な……っ!!」

立つことのできない白波を見下ろしながらソフィアは悠然と続ける。

「思い込みってすごいわよね?聞いたところによると不死の病をただの水で治した医者すらいるみたい」

「……」

「でもね、思い込みは思い込みですわ、私の『能力』は思い込ませるだけ、実際に砂糖菓子が酔い止めに変化するわけじゃない……

 だから嘘だと気付いた今、あなたはもう立つことすらできないわ」

「なぜ……その槍を……」

「さあ?知らないわ……私はこれを運ぶだけ」

「誰の指図……」

「言うとお思いかしら?さあ、無駄話はもうおしまいですわ」

そういうとソフィアは槍と盾を持ち上げた。

「……でもよく考えたら船が着くまでに時間があるわね……結局あと一人も片付けないと駄目か……」

一人でそう呟くと、船室を出て行った。


「全く、どこに行ったのよ……」

鉄男を探すリディア。だが、中々見つからない。

「そんなふらふらするような場所も無いでしょうに……ん?」

足に何かが当たる。

「誰よ、こんな所に寝てるのは……って、鉄男!?」

蒼白な顔で横たわっていたのは鉄男である。

「鉄男!鉄男!どうしたのよ!」

リディアが何度も揺さぶると、薄く目を開いた。

「リ……ディア……か?あの女は、敵だ……気をつけろ……」

「しっかりしてよ!何をされたのよ!」

「あいつは銃を持ってる……毒が飛び出す特殊弾だ……こんな小さな傷でも……もう駄目かもしれん……」

「えっ、でも……」

「こんな旅の始まったばかりなのに……無念だぜ、はは……お前が……白波を守ってくれ……」

「えーと……」

「目の前が霞んできた……村長、すいません、先に……待ってます……」

「あのさ、悪いんだけど」

「なんだ……?」

「その傷、朝からついてたわよ」

「え……?」

「ええ、間違い無いわ、なんでなのかは聞き忘れてたけど」

「そんな……じゃあこの毒は……?」

「……ほんとに毒なんて喰らったのかしら?」

「どういうことだよ、現にこう苦しんでるじゃねぇか」

「だって、今喰らったとしても傷が小さすぎるわ、そんなのから体中に回るかしら」

「でも俺はこうやって死に掛けて!」

そう言いながら鉄男は上体を起こした。

「……の割にはずいぶんと元気ね」

「えっ……あっ……えっ?」

「顔色も急によくなって来てるわ」

「……なんでだ……?」

「分からないけど……あの女の人が何か危険ってのは確かなのね?」

「……そうだ!とっとと白波を助けに行くぞ!」

鉄男は飛び起きて走り出した。

「あ、待ってよ鉄男、やっぱり元気じゃないの……」

リディアも後に続いた。


続く

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