第二十七話:船旅
「ところでお前さ」
「何?」
船上にて鉄男がリディアに声をかける。
「お前の…その、『能力』?って『操る』ことなんだよな?」
「そうよ、目を合わせた相手はみんな私の操り人形」
「おっかないな…まあいい、それより、だったらあの光の弾とかはなんなんだ?あれも別の『能力』か?」
「…さあ、分からないわ」
「分からない?」
鉄男は怪訝な顔をした。
「この体になってからなんかできるようになってたのよ、もちろんここまでになるには時間がかかったけどね」
リディアはそう言いながら生み出した光弾を玩んだ。
「そうか…その体になった影響なのか?やっぱり」
「さあね、でも、だとすると…アイツは…」
「そう、俺が言いたかったのはそのことだ」
鉄男は手を叩いて言う。
「あの野郎が使ってた光の剣とたぶん同じ物だよな?それ」
「ええ多分。でもあんな器用なこと…出来ないわやっぱり」
リディアは玩んでいた光弾を棒状に伸ばそうとした…が、ある程度まで伸ばすと弾けて消えてしまった。
「…それならやっぱり別の物なのか?あの野郎が幽霊…ってわけでもなさそうだしな」
「そうね…あれはどう見ても生身の人間よね」
「ふむ…」
二人はしばらく考え込んだ。
「白波はどう思う?」
鉄男が話を振る。
「…うう…な、なんか言った…うっ!?」
壮絶に船酔いしている。
「お、おい大丈夫か!?」
「なんとかね…でもごめん、しばらく話しかけないで…」
「わかった、すまなかったな」
今にも死にそうな蒼白な顔の白波を見てリディアは心配そうな表情を浮かべた。
「大丈夫かしら…」
「まあ、船酔いで死んだって話は聞かないし平気だろう…」
「死ななきゃいいってもんでもないわよ」
と、その時。
「あら…なんだか酷く酔ってらっしゃるのね…大丈夫ですか?」
背の高い女が話しかけてきた。
その長身をほぼ覆うほどの黒い長髪は、絹のように滑らかだった。
「あの、よかったらこれをどうぞ」
そういって女は小さな丸いものを差し出す。
「なんですかそれ?」
話せる状態にない白波に代わって鉄男が尋ねる。
「乗り物酔いに効く薬ですわ」
白波は顔を上げて女の顔を見た。そしてしばらく見つめたのち、その薬を受け取った。
「すぐに効きますわ」
その言葉通り、薬を飲むと白波の顔色はみるみるよくなった。
「…これはすごい」
ゆっくり立ち上がりながら白波は驚いたように言う。
「ありがとうございます、すっかり治りました…でも、どうして…?」
「私も酷く酔うので持ち歩いていますの」
「なおさら貰ってよかったんですか?」
「ええ、いっぱいありますので」
女は笑顔で答えた。
「でもその代わり頼みたいことがあります」
「なんですか?私にできることなら」
「その…一人旅で退屈してたところなので、この航海の間だけでもご一緒させてもらえないでしょうか?
ほら、この船の乗客も私達だけみたいですし……」
西の大陸の不穏な噂をうけて、東の大陸から西の大陸に渡る者はほぼいないのだ。。
「…それだけですか?」
「ええ、それだけです」
呆気にとられる白波に、女はにこやかに返した。
「それは…もちろんいいですけど」
「むしろ歓迎よね?鉄男?」
リディアも会話に参加する。
「なんで俺に振るんだよ……まあでも、そうだな」
「ありがとうございます、私はソフィアと申します」
「私は白波です。よろしくお願いします」
「私はリディアよ、で、そっちのが鉄男」
「なんで俺の自己紹介を盗るんだよ…まあ、よろしく」
「ふふ、楽しそうですね…」
微笑むソフィアが一瞬だけ浮かべた残忍な笑みには、誰も気付くことはなかった。
「皆さんはどうして西の大陸に?」
互いに自己紹介した後、ソフィアが尋ねる。
「えーと…」
「三人で世界中を旅して回ってるんですよ」
言葉に詰まるリディアをフォローするように白波が上手くごまかす。
「へぇ、大変そうですね…」
「あなたは?」
「私は…そう、実家に帰る途中なんです」
「…そうなんですか」
白波は少し言葉に詰まったように見えたのを訝ったが、そこまで気にしなかった。
「ところで…すばらしい槍と盾ですね、少し見せて頂けませんか?」
「あ、いや、これは…」
「嫌ならいいんですけど…実家が鍛冶屋なので業物を見ると触りたくなってしまうんです。ごめんなさい」
「…いや、いいですよ、どうぞ」
少しためらった白波だったが、先ほどの恩もあるし、少しくらいは、と差し出した。
「ありがとうございます……なるほど…近くで見るとよりすばらしい…」
眺めるその目は、もはや危険なほどに輝いていた。
「え、えっと、じゃあそろそろ…」
その目を見て、白波は慌て気味に言った。
「ええ、ありがとうございました…ふう…」
「どうしました?」
「いえ、少し興奮しすぎました…すこし、風に当たってきます…」
そう言ってソフィアは甲板へと出て行った。
「…なんか、様子が変じゃないか?」
鉄男が白波に言う。
「…まあ、元々ああいう人かも知れないし」
「あの槍を見る目といい……何かおかしいぜ、まさかあれを盗もうとしてる泥棒かなんかじゃないか」
「…今はなんとも言えない…もしあの人が泥棒なんだったら…その時はその時だよ」
「あれが紫輝様の言っていた槍ね…斧は見当たらなかったけど…
まだ見張っていろとしか言われてないけど…アレを持ち帰れば…きっと紫輝様は誉めてくれるわ」
舳先に立ち、一人呟くソフィア。その目はまぎれも無い狂信に染まっていた。
続く




