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第二十四話:旅立ち

『ん……ここはどこ…?』

白波は暗闇の中で目を覚ました。

『何も見えない……』

『口惜しや……もう少しで……』

不意に声が響く。どこからともなく、頭の中に直接響くような声だ。

『!?……誰だい君は』

白波は辺りを見回し、背後に人影を捉える。

輪郭の不明瞭な白い影だ。

『いい加減に私を解放しろ…お前に抗う理由など無いはず……』

『一体君は誰?そしてここはどこなんだい』

『私を忘れたというのか?かつては大いに争ったものを……我が愛しき仇敵よ』

『残念ながら、私には記憶がないんだ』

『だろうな、それもおのが未熟ゆえ……愚かなやつよ』

白い影は笑うような音を立てる。魂を鷲づかみにされるような恐怖を煽る恐ろしい声だ。

『記憶を失くした今、私を縛り付けておく必要などなかろう?』

『悪いけど、何を言ってるのかさっぱりだよ』

白波は肩をすくめた。

『……そうだ、そんなことより鉄男……アジ村は!?』

白波は意識を失う前を想起した。

リディアの仇という男が剣を突きつけて来た……その後から記憶が無い。

『アジ村?あの辺鄙な村か?ふふふ……さて、どうなっただろうなぁ?』

『……』

『そう殺気立つんじゃない……安心しろ、あの若輩は私が追い払っておいたわ』

『……君は本当に誰なんだ、こんなところに連れてきて何が目的だい』

『こんなところ……か、なかなかの物言いだな、そこは同じか』

『はぐらかさないで答えて』

『ふむ……そろそろ時間か、だが安心しろ、私はいつでもお前のそばにいるぞ……』

『待……』

白い影はかき消すように消え、そして暗闇の視界も融けるように消え……


「……ね……お姉さま、白波のお姉さま!起きて!」

「ん……?リ…ディア?」

「よかった、目が覚めたのね!」

次に白波が目を開けたのは、鉄男の家の中であった。

「……?」

「どうしたの?」

「いや、何か…忘れてるような……気がしたんだけど」

「??…まあ、よかったわ、目が覚めて……何をしても起きないから心配してたのよ」

「そう、ごめん……鉄男は?」

「……鉄男は……その……」

リディアは部屋の隅を見た。

「…………」

そこには半ば放心状態の鉄男がベッドに腰掛けていた。

「鉄男?どうしたの、そんな……」

問おうとしたとき、白波は凄まじく嫌な予感を覚えた。まさか……

「ん?……ああ、白波、起きた……のか……」

鉄男はやっと気付いたようにかすかに白波のほうに首を向ける。

「その……まさか……」

「ああ……そのまさかだ……俺は結局、何一つ守れなかったんだ…」

「……一体、何が」

「村を見てくれば分かる……すまない、少し一人にしてくれ」

「……わかった」

白波とリディアは顔を見合わせてから一緒に家を出た。


「……これは一体…?」

数分後、真夜中のように静まり返った村を見てまわる白波は絶句した。

「生物の気配がまったく感じられない……」

村長の家に入る。

「あっ、そんちょ……?!」

村長はそこにいた。だが……

「村……長……?」

まるで生きた石像のごとく、本を見ている姿勢からぴくりとも動かない。

「そんな……一体何が」

「みんな……こうなってるのよ」

「……」

白波は村長に触れてみる。体温、心拍は感じられるが、その眼には生気が宿っていない。

「アイツの仕業……なのかしら」

「……でも、何のために?」

「分からないわ……でも、『アレが見つかればいい』とか言ってたわ、確か」

「『アレ』?……何かを探しに来てた……ということ?」

「そう多分……でも何を?」

「しかもそれだと村の人をこんな風にする必要が……」

「……分からないわ、さっぱり……」

リディアは首を振る。

「でも、一つ言えることがあるわ」

「なんだい?」

「アイツを許さない理由が一つ増えたってことよ」

そういって拳を固めるリディアの眼は怒りに燃えていた。


「……ただいま」

再び二人は鉄男の家に戻ってきたが、相変わらず鉄男は放心状態だった。

「……ああ……おかえり…」

「……鉄男」

声をかける白波に、鉄男は少し首を向けた。

「なんだ」

「村の人たちは……まだ生きてる」

「……なに?」

「生きてるよ、確かに心臓の鼓動を感じる」

「……そうかよ、だったらどうしたってんだ」

「どうした、って事はないでしょ!」

どこか投げやりな鉄男の態度にリディアが噛み付く。

「……俺に……どうしろってんだよ……!」

鉄男は語調を強めた。

「……所詮、俺一人じゃ何も守れやしないんだよ!」

「て、鉄男……」

「……君は一人じゃない」

白波が静かに言う。

「ああ?」

「リディア、君は……あの男の事を諦めたかい?」

「そんな訳無いわ!たとえ一人でだって……敵わなくたって地の果てまで追って行くわ!」

「ほら、一人なんかじゃない……リディアも、私もいるだろう?」

「……フン、どうせ何をやったって無駄なんだよ!仮にアイツを倒せたところでみんなが元に戻るとは限らないだろうが!」

「やる前から諦めてどうするの!」

白波も語調を強めた。鉄男は少したじろぐ。

「私は……私は!一人で私を助けに来てくれたあの鉄男を信じたい!

 あの時君が諦めなかったから!私もリディアも、フェルさんだって救われたじゃないか!

 ……やる前から諦めたら村の人たちも、君自身も救われない!それでいいのか!?」

「っ……!」

鉄男は立ち上がり、奥の部屋へと歩いて行った。

「あ、あ……」

リディアはしばらく呆けたように口を開けていた。

「ごめん、大きな声出したりして……」

「あ、いや、その……」

「……夕食でも作ろうか」

「……うん」


一時間ほど後。

「さて、できた……そっちは?」

「上手くできたわ、きっとおいしいわ」

「そう、じゃあ並べようか」

二人はできた料理を食卓に並べていく。

と、そこに。

「……」

奥の部屋から鉄男が無言で出てきた。

「あ、鉄男…さっきはなんかごめん、ご飯、作ったから」

「……おう」

「このスープは私の自信作なのよ」

「……そうか」

三人は食卓についた。

「「「いただきます」」」

「……ん、なかなか上手くできたんじゃないかな」

白波が自分の作った物を食べながら自賛する。

「……その、だな……さっきはすまなかった」

鉄男が謝罪する。

「俺は……この村を守らなきゃって、ずっと思いながら暮らしてた……

 村長が俺の事を拾って育ててくれたときから、そう思ってたんだ……

 でも、守れなかった……それが悔しくて、自暴自棄になってたな……本当にすまない」

「いいんだよ、ああなるのも仕方無いさ」

「……!?ゲホッゲホッ!?」

スープを飲んだ鉄男が急にむせた。

「なんだこりゃ!?」

「えっ、もしかしてまずかった……?」

リディアが恐る恐る聞く。

「いや、というよりこれ、味見したか……?」

「したわよ、ちゃんと!」

「それにしては塩辛すぎるぞこれ!」 

「えっ……」

リディアはスープを一口飲んだ。

「そんなこと無いわよ?」

「いや、これは……白波もそう思うよな?」

「え、あ、いや…その、確かにちょっと塩辛い、かな……?」

「……遠慮しないで?」

「うん、かなり塩辛い」

「ええー……自信あったのに……」

「幽霊になって味覚が薄まってるんじゃないか?」

「あっ……そうかも、確かにお姉さまの料理もかなり薄味だったわ……健康志向なのかと思ってた」

「なんだそりゃ……で、えーとだ、俺は……アイツを追うことにする」

鉄男は真面目な顔に戻って言った。

「本当かい?」

「ああ、白波のおかげで目が覚めた……みんなを取り戻すんだ」

そう語る鉄男の眼には確固たる光が宿っていた。

「私も協力するよ」

「勿論私も行くわよ!」


こうして、

白波は失った『記憶』を

鉄男は奪われた『日常』を

リディアはいなくなった『父親』を

それぞれ取り戻すための旅が幕を開けたのだった。


第一章 完


第二章に続く

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