第二十一話:手掛かり
「一体どこで…?」
白波が勢い込んで尋ねる。
「そう、私は父を脅していた男に連れ去られたのですが、その男は私におかしなことをさせました」
フェルが再び語り始めた。
「毎日夢の内容を記録させられたのです。
そしてやはり、その夢は現実の物となり、それを確認しては男は満足げに頷きました。
そしてある日、男は私に水晶球を手渡し、それを覗き込むように言いました。
最初は何も見えなかったのですが、次第に夢で見たような未来の光景が見えるようになりました。
次に男は、広い建物の中に鍵を隠し、それを見つけられたらここを出してやろうと言いました。
私は必死に探しましたが、一向に見つかりませんでした。
途方に暮れた私は、ふと男の意図を理解しました。
私は水晶球に鍵の場所を映し出すよう念じたのです。
すると、水晶球に映ったのは鍵を見つけている未来の私…それを見て私は同じ場所を探し、鍵を見つけ出しました。
そして建物を出ようとした時…最後に男が声をかけてきました。
『わが主に害なす者を占え…できなければ殺す』男はそういいました…
そして私が水晶球の中に見たものが…あなたです、白波さん」
「……」
白波は信じ難いといった様子で考え込んでいる。
「わが主…?害なす者…?お前本当に何者なんだ…」
鉄男も改めて考え直す。
「…それで、ですね白波さん」
フェルが言いにくそうに口を開く。
「その映ったあなたの姿ですが…倒れている姿だったんです…
それを男に伝えたら男は安心したように笑い、私を解放しました」
「その『わが主』とやらに戦いを挑み、そして倒れた…?記憶が無いのもそのせいか?」
「そう考えるのが自然…だろうね」
しばし重い沈黙が三者を包む。
「まあ、それはそれとして、そのあとあなたはどうしたんですか」
白波がその沈黙を破り、フェルに続きを促す。
「はい…その後、私は見知らぬ地をさまよいました…
身に着けた占いで路銀を稼ぎ、時には草さえ噛むような旅路を経て、私は西の王都へ戻りました…
そして私が目にしたのは、ぽっかりと無くなった我が家の跡でした…
私は何が起こったのか分からず、混乱するばかりでした…
それを見つけた父の知り合いが、私がいなくなった次の日に屋敷ごといきなり消えたと教えてくれました。
私は私の家の行方を占いました。屋敷は無くなった訳ではなく、なんらかの力で移動していたのです…この東の大陸に。
そしてそれから5年程経った…先月の話です。
私は占い師として西の大陸でお金を貯め、東の大陸に渡ったのです。
そして王都のはずれに立つ怪しい屋敷の話を聞き、すぐに向かいました。
思ったとおり、そこには荒れ果てた懐かしい我が家……
そして私が見たのは…妹の成れの果て、だったのです…
突如、恨みのこもったような声がしました…『お姉さま、帰ってきたのね…』と……
私は恐ろしくて、逃げ出してしまいました……」
フェルは耐え切れぬと言った様子ですすり泣いた。
「フェルさん、落ち着いて下さい」
白波がなだめる。
「はい…それで…あとは…あなた方が見たとおりです…」
フェルの声が震える。涙が零れ落ちた。
「……こんなことは卑怯な逃げだって、分かってるんです……
わたしはきちんと向き合って妹に謝らなければならなかった……
ずっと一人にしてごめんって、謝らないと……
でも、私にはそれが出来なかった…怖かった…
これで私が許されるなんて思ってない……でも」
フェルは涙を拭いた。そして
「妹を救って下さってありがとうございました…本当に……」
フェルは再び頭を下げた。
「…頭を上げて下さい」
白波が静かに言う。
「あなたの言う通り、あなたは妹さんに謝る必要がある…
それは今からでも、遅くは無いんですよ」
「えっ……?」
顔を上げたフェルに、白波は優しく微笑みかけた。
「入っておいで…リディア」
そして背後を振り返り、呼んだのだった。
「なぁに?私を呼んだ…………!?お姉さま!?お姉さまなのね!」
テントの外から凄まじい速さで少女が飛び込み、フェルに抱きついた。
「リ……ディア……?」
「お姉さま!ほんとに、ほんとにお姉さまなのね!」
「で、でもどうして?あなたは…死んだ……はずじゃ…」
「お姉さまったら酷いわ!私の声を聞いただけで逃げちゃうんだから……」
「だ、だって、私の事を恨んでるでしょう?それで…私恐ろしくて…」
「恨む?そんな訳ないわ!ただ私は…会いたかったのよ…」
「……ごめん…なさい……ごめんなさい……!」
二人は抱き合ったまま、泣いた。
「しかし、フェルさんが…リディアの姉だったとはな」
鉄男がそれを見ながら呟く。
「気付いてなかったのかい?」
白波が呆れ気味に返す。
「まあ、どっかで見たことあるな、とは思ってたけどな」
「さて」
その数分後、白波が切り出す。
「はい」
落ち着きを取り戻したフェルが返事をする。
「改めて、占ってほしいことがあるのです」
「はい、お任せ下さい、必ずや求めるものは与えられるでしょう……」
「じゃあ、私の失われた記憶を…」
「えっ……」
フェルが絶句する。
「あなた、記憶喪失なんですか!?」
「え、言ってませんでしたっけ」
白波が頭をかく。
「初めて聞きました……さて、記憶?ですか……占ったことは無いですが、やってみます」
フェルは水晶球を覗き込んだ。
「……なにも、見えませんね……」
「そうですか……」
白波は考え込む。
「では、『白波』について占ってもらえますか?」
「白波?」
「ええ、今は名前として使っていますが、結局『白波』が何なのか、それは分かっていない」
「そうなんですか……ではやってみます」
フェルは再び水晶を覗き込んだ。
「……あぁ、見えます、見えました…西の大陸…王都より北西の山…そこに『白波』が存在します」
「存在する…ですか」
「ええ、そうです、間違いありません」
「分かりました…」
その数十分後。
「さて、整理しよう」
王都の表通りを歩きながら、鉄男が言う。
「お前はその……怪しい男の『主』とやらと何かあって戦い、倒れ、それで記憶を失った」
「うん」
「それでもって唯一覚えている『白波』という物が西の大陸にある」
「そう」
「と、いうことはまずは西の大陸に向かうべきだろうな……」
「そうだね」
「と、いうことは…ここで別れることになるな」
「……そう、だね」
「……」
鉄男は黙り込む。
「寂しいのかい?」
白波がからかい気味に聞く。
「そっ、そんなことは……」
「そう……私は、寂しいけどね」
「えっ」
「…やっぱ、なんでも無い」
「そう…か」
そんな二人は、王城の前に人だかりができているのを見つけた。
「おっ、なんだろう」
鉄男が一人、人ごみを掻き分け中心へと行く。
「あ、ちょっと待ってよ…」
白波も後に続く。
「どれどれ、『称号授与の儀』…?」
鉄男はお触れの立て札を読み上げる。
「アジ村周辺を騒がす兇賊を捕らえた功績により、称号授与の儀を執り行う。
アジ村より来た白波とその付き添い人は、明日、10時に王城へと来るべし。」
「称号授与?」
追いついた白波は首を傾げる。
「お前、これはかなり名誉な事だぞ…!」
鉄男は興奮したような目をする。
「そうなの?」
「ああ、かなりの功績を立てた者でないと王直々に称号を賜ることはできない」
「へぇ……」
「と、いう訳でだ……」
「なに?」
「付添い人も、って書いてあるからな、もう少し一緒にいてやる」
「な、なんで鉄男が偉そうにするのさ……」
呆れた白波は踵を返し歩き始めたが、その表情は嬉しそうだった。
続く




