第十九話:「操る」
「お、お前がこの屋敷の幽霊か!」
鉄男は怯えながらも、勇気を振り絞って問いかける。
「これもあなたのせいでこうなったんでしょう!しらばっくれても許さないんだから!」
「なんの事だ?俺は何も…」
「そう…忘れたっていうのね…お姉さまをわざわざここに来させておいて、ね…」
「待て、一回落ち着け!あいつも何も覚えてないというか…多分人違いじゃ」
「そう、お姉さまは私の事も覚えていなかった…一体何をしたの!」
「違う、そうじゃなくて…!」
会話が噛み合わず、鉄男は焦り始める。いつ後ろから爬虫類が追いついてくるかも分からない。
「いいわ、あなたが何をしたか…思い出させてあげる…死の恐怖の中でね!」
少女のオレンジ色の目が赤く光りだす!
(!?体が…動かない…)
その赤い光を見た瞬間、鉄男は指先すらも動かせなくなった。
「どう?感想は…まあ、喋ることも出来ないでしょうけどね…」
少女はゆっくりと鉄男に近づいた。
「ほら、後ろを向いて?そのまま歩くのよ」
そう囁かれた鉄男の体はその通りに動き出した。
(なんだ?体が勝手に…?)
「驚いたでしょう?これが私の力…『操る』力よ。あなたには死んでもらう」
鉄男はしばらくからくり人形のようにぎこちなく歩き、そして…
「グルルルル…」
(ま、マズい…マズいぞ…またアイツと出会ってしまった…)
同じく廊下を歩いてきた巨大爬虫類と鉢合わせた。
「さあ、あなたはあなたの作った怪物に殺されるのよ!永遠に後悔しなさい!」
少女が高らかに言うと同時に、巨大爬虫類が飛び掛る!
「グオルルルラアアア!!!」
「えっ……くッ!?」
…少女に。そう、鉄男を無視して少女に飛び掛ったのだ!
「な、なんだ!?」
混乱してそう叫ぶのは、鉄男。金縛りが解けたのだ。
「なぜ…操りが解けた…の?」
少女は立ち上がりながら言う。
「グガルルァァァァアアア!!」
再度爬虫類が飛び掛る!
「くっ…今は…逃げる!」
そういうと少女の姿が薄れ…そして、消え去った。
「ググ…」
爬虫類は低く唸り、鉄男に振り返った。
「や、ヤバい…」
鉄男は逃げ出そうとする。だが。
「フン…」
爬虫類は興味が無さそうに鼻を鳴らし、去っていった。
「な、なんだってんだ?…まあいい、あの幽霊が日記を回収していかなかったのは救いだな」
鉄男は手に日記を持ち、再度子供部屋へ向かった。
地下、鉄扉の前。戻ってきた鉄男は、再度考えを巡らす。
「なるほど…日に使われているのは白、赤、緑、青…一週間は五日だからこれらは一から五のどれか…
そして週に使われているのが黄、白、青、赤…これは一から四のどれか
つまり緑が五という事になるな、よし…分かる…
ということはその前が赤で四、白が三ということになる。
で、青が一、か…ということは黄が二だ!
赤、白、黄、青、緑…つまり、四、三、二、一、五…と。これで!」
ガチャリ、と大きな音を立てて、錠前が外れた。
「よしっ!ビンゴだ!」
鉄扉が軋みながら開いた。
「白波!?いるか!?」
鉄男は地下最奥の部屋へと踏み込みながら言う。
「鉄…男?」
「白波!無事か!」
「どうしたんだいその傷…?」
満身創痍の鉄男を見て白波がギョッとする。
「ああ、こんなこと、どうってことないさ」
鉄男は強がってみせる。
「そんな事より、お前、涙目になってるぜ」
「!?いや、これはその…」
「お前もやっぱ怖いんじゃないのか?」
「いや!これは…」
「まあいいや、冗談言ってる暇は無い…あの幽霊が戻ってくる前に」
「見つけたわ…またお姉さまを連れて行く気ね!」
「って訳には行かないか…」
部屋の入り口には先ほどの幽霊少女と…
「グルルルル……」
その傍に鉄男を憎々しげに睨む巨大爬虫類!
「な、何この…」
白波がその異様な外見を見て絶句する。
「いい?あの男を狙うのよ…お姉さまに傷をつけてはいけないわ」
少女が爬虫類に言って聞かせる。その目は赤く光っていた。
「白波!戦えるか!?」
鉄男が剣を構えて立つ。
「ああ、君こそ平気かい?」
白波も大盾と槍を構える!
「よし、あの化け物は刃が通らない!俺が注意を引きつけるからお前はあの幽霊を叩け!」
「でも、幽霊にも攻撃は通らないんじゃないのかい?」
「大丈夫だ、さっき化け物に殴られてた…来るぞ!」
「ゴアアアアアア!!!」
鋭い噛みつきが鉄男に襲い掛かる!
「くっ!危ねえ!」
紙一重でサイドステップ回避!
「グアアガガガアアアアア!!!」
またも炎を吐く準備!
「ワンパターンだぜ全く!」
だからといって防ぐ手があるわけでもない!鉄男は回避し続けるしかないのだ!
「お姉さま…なんで私を…?」
一方、白波は武器を構え、少女と向き合っていた。
「悪いけど、記憶が無いんだ。でも多分、私は君のお姉さんでは無いと思う…」
「またそんな事を言うのね…いいのよ、私が思い出させてあげるから…」
「言っても無駄、か…私がほんとにお姉さんなのかな?でも私、似てないしなぁ…」
「ねえお姉さま、思い出して?あの男は悪い奴の仲間よ!」
「それに関しては…自信を持って違うと言える」
「どうして!?どうしてそんなことを言うのよ!」
「あの人…鉄男は、私でさえも正体の分からない私を、それでも見捨てなかった…一人で戦ってくれた。
だから、次は…私が助ける番だ!」
「…!いいわ…多少手荒にでも、分からせてあげる…」
「ハァ、ハァ…このままじゃジリ貧だぜ…どうすりゃいいんだ」
また一方、鉄男は致命的攻撃を紙一重で避け続けていたが、体の限界が来つつあった。
「グルガアアア!!」
襲い来る爬虫類!
「まだやるのかよ……!?あっ…」
避けようとした鉄男は、膝からくず折れた。
「くそ…傷が響いたか……ここまでか…」
鉄男は死を覚悟した。だが……
「グ…ガガ…」
不意に爬虫類の動きが鈍る!
「!!」
鉄男はそれを見て取り、転がって攻撃を回避!
「何が起きてるんだ…?まあそうでもいい!チャンスだ!」
鉄男は再び立ち上がり、剣を振り上げた。
「くっ…何…?この力は…」
一方での白波は、少女相手に押されていた。
「お姉さま!私この体になってから頑張ったのよ!誉めてくれるわよね!」
そう言いながら、手から超自然の光弾を放つ!
白波は盾で防ぐ!だが、衝撃が盾の表面を浸透し、完全に防ぎきれない!
「これは…何らかの能力?この子も能力者…なのか?なら手加減は…しない!」
白波は盾を構えたまま急接近!
「やあああああ!!」
槍の一撃!少女は身を捻って回避!
「甘いよ!」
そのまま横薙ぎに薙ぐ!柄部分が少女を捉える!
「ぐッ…お姉さま…どうして…」
少女は痛みと悲しみに顔をゆがめる!
「悪いけど、私はここで暮らすつもりはない」
白波が槍を再び構える!
「た…助けて!お姉さま!お父さま!コロ!」
「グガ…?」
「ん?何だ?」
爬虫類は攻撃の手を止めた。そして辺りを見回す。
「グ…グアオオオン!!」
そして不意に駆け出した!向かう先は…白波!
「ま、マズい!白波!避け…」
「君には気絶しててもらうよ!!」
白波が一撃を叩き込もうとしたその時!
「グオオオオ!!!」
二者の間に割り込んだのは…巨大な爬虫類!
「なっ…」
咄嗟に攻撃を止める白波!
「ど、どうして私を守ったの…?」
少女が爬虫類に問いかける。
「グググ…」
爬虫類は答えるように低く唸った。それは甘えているようでもあった。
「まさか…コロ……?コロなの!?」
爬虫類は少女に擦り寄った。
「ああ、コロ…どうしてそんな姿に…」
少女は涙を流しながらコロを撫でた。そして…
「コロをこんな姿にしたのは…あなたね…絶対に許さない…」
鉄男に向き直った。
「いいぜ…決着を付けよう」
鉄男は剣を構える。
「許さない許さない許さない許さない許さないィィィィィ!!!」
少女は拳に光を溜め、直接殴りかかる!
「うおおおおおおおお!!!」
鉄男はすれ違いざま、叩き切った…少女の腕輪を!
「イィィィィィィヤァァァァァァ!!!!」
少女は断末魔のような叫びをあげ、そして…気絶し、地に落ちた。
「ど、どうして……?」
白波が疑問符を浮かべる。
「さあな、分からんが…こいつは身に着けてる物ごと半透明だが、この腕輪だけは透明じゃなかった…
だから何かある、って思っただけだ…我ながら危険な賭けだった……」
そういって鉄男も気絶した。疲労が限界に達したのだろう。
白波は床に落ちた腕輪の残骸を見て、注意深く拾った。
それは禍々しくも美しい、漆黒の宝石だった。
続く




