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2015年/短編まとめ

貴方の熱を頂戴

作者: 文崎 美生

「帰るの?」


「タクシー捕まえれば帰れるだろ?」


花の金曜日の二十三時前。

絶賛一人暮らし中の私の家に、彼氏様が転がり込んで来たのが五時間ほど前。

そしてご飯を食べたりシャワーも浴びたのに、帰ると言い出したのが今現在。


夏が終わって完全に秋に季節がシフトチェンジした今日この頃。

人肌が恋しくなり、元々低体温の私にとっては厳しい季節。

しかも寒いなぁ、なんて思い始めた頃に帰る発言とは一体どういうことなのか。


「俺、明日も朝練あるし」


黒縁眼鏡を押し上げながら言う彼にほんの少しの苛立ち。

据え膳食わぬは男の恥、なんて言葉があるじゃない。

私達付き合ってますよね。

彼の服の裾を掴んで離さない私。


彼が立ち上がるから、何となく私も立ち上がってしまった。

フローリングにぴったりと張り付く足の裏がどんどん冷えていく。

寒い、今日は一段と冷える。


「寒いから無理」


帰したくない言い訳にもならない言葉を吐き出せば、彼は形のいい眉を歪めて私の手を取る。

彼の服の裾を掴んだ手を絡め取り、冷えたる指先を軽く握り締めた。

寒い寂しい、一人暮らしは辛い。




***




ぬく、と布団にもぐればベッドのスプリングが軋む。

狭いベッドの中に男女二人。

詰め詰めで寝るけれどその分熱が増える。

胸元でお気に入りの抱き枕をぎゅうぎゅうと抱きしめて、彼の胸の中に収まれば彼の熱が私の体を侵食していく。


暖かい。

ここ最近泊まってくれなかったから、一人で寝ていたから幸せだ。

彼の熱に溶かされるように、とろとろとした甘ったるいような睡魔が私を包み込む。


フローリングの上にいたせいで冷えた足を、彼のしっかりとした筋肉のついた足に絡めれば、驚いたように及び腰になる彼。

視線も私に向けられて、私の口元が緩む。


「……何でこんな冷たいの」


「寒いからだねぇ。あ、後は低体温だから」


彼の胸元に鼻を押し付ければ、何故か抱き枕が奪い取られる。

そのままの体制で彼を見上げると、何とも形容し難い顔をして私を見ていた。

軽く首を傾げれば唸りながら顔を片手で覆って、抱き枕をベッドの隅に寄せる。


さっきは一瞬引いた足を、自分から絡めてくる彼。

ただその絡め方が何となくいやらしい気がするのは、気のせいじゃなくてそういうお年頃だからだと思う。

腰を引き寄せられて抱き締められれば、ちょっとした発熱くらいに体温が上がりそうでドキドキする。


人の心拍数は死ぬまでに決まっているというけれど、彼と一緒にいたら、早死するんじゃないだろうか。

そう思うくらいには心拍数が早くなって、回数をどんどん重ねていく。


「ぬくい」


そう呟いて彼に抱きつけば短い笑い声が聞こえた。

足だけじゃなく手まで絡め取られれば、がっつりとホールドされている気分になる。

寒いのは嫌いだけど、こういうのは割と――。


「……好き」


「ん、俺も」


抱き締めれば抱き締め返してくれる。

確かにある温もりが愛おしくて、寒さなんて感じなくなっていた。

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