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第一話・1
その人は僕の前に突然現れたわけではなかった。
朝の通学路でたびたびその姿を見たことがあるし、去年は僕が通う中学の制服を着ていた記憶がある。
名前もどこかで聞いた。柏 恵美というらしい。
だが一度として話したことはなかった。
そもそも同じ学年ではなかったし、僕は部活に所属していないので、上級生や下級生とは滅多に関わらない。
それでもその人は、この辺りの公立高校では、一番の進学校と言われる学校の制服を着たその人は、ある日突然、僕こと棗 香車に話しかけた。
「はじめまして、君の名前は知っているよ。棗 香車くんだね?」
どこか妖艶な微笑を浮かべながら、柏さんは僕に近づいてくる。
「私が一方的に君を知っているのは不公平だ。自己紹介をしようか」
そう言って、柏さんは僕の足元に跪く。
「私の名前は柏 恵美。君の、第一の犠牲者だ」