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第四話・1

 今回の私の行動は、私の目的に反していない。

 そう、私の目的は彼に狩られること。そして、彼に獲物を献上することだ。

 だからこそ、彼の獲物が減ってはならない。

 だからこの行動は目的に反していない。


「久しぶりだね。私のことを覚えているかい?」


 目の前にいる人物に問いかける。

 さすがに忘れてはいないだろうが、念のためだ。


「一応、名乗っておこうか」


 そう、この行動は私の目的に反していない。


「私の名前は柏 恵美。君を助けに来た者だ」


 彼女を助けることは、目的に反していない。



=================================



 見てしまった。

 私は見てしまった。

 私はそいつを見てしまった。



 エミに別れを告げられて、一月程経った頃。私は相変わらず、昼休みにはエミの教室を訪ねていた。

 エミに会うことは出来なかった。

 その上、エミのクラスの生徒が私のことを不審に思い始めていたが、私にとってはエミに会えるかどうかが重要だったのでその点はあまり気にしなかった。

 自分でも、なぜエミにここまで拘るのかはわからなかった。初めて出来た、親友とも言える立場の人間だからだろうか。

 だが、それ以外にも、彼女を気にする理由があった。

 それは、エミが「狩る側の存在」とやらに殺されに行くと言ったからだ。普通に考えれば、ありえないことだと思う。


 他人を殺したいから、殺す存在がいるなんて。


 だがエミが嘘を言っているようには見えなかったし、もし、彼女の言うことが全て真実だとしたら――


 エミは近いうちに殺されてしまう。


 それがエミの望みだったとしても、私はそれを見過ごすわけにはいかなかった。

 当然だ。大切な人が殺されることがわかっていて、平然としてはいられない。

 だから、私はエミの望みを妨害する。私の身勝手のために。

 そもそも、殺されたいという考えが間違っているのだ。私の行動はエミのためでもあるはずだ。


 ――間違っては、いない。


 しかし、エミに会えない以上、彼女を説得することは不可能だった。

 なんとか手がかりがないか、エミのクラスメイトにしつこく聞いて回った。

 すると、クラスメイトは私の相手をするのに疲れたのか、ある情報を私にくれた。


 エミは昼休みになると、校外に出かけているらしい。


 それを聞いた翌日、私は昼休みになったと同時に、校門の物陰に隠れて見張ることにした。

 エミがこの校門を通るとは限らなかったし、既に出てしまっている可能性もあったが、それでも何もせずにはいられなかった。


 そして、幸運にも私はエミを見つけることが出来た。


 彼女は校門を出て、市街地に向かっていた。当然、見つからないように尾行する。

 既に彼女は「狩る側の存在」に接触しているかもしれない。だとしたら、彼女の向かう先にそいつが……?

 自分の鼓動が高鳴るのを感じながら、エミを見失わないように後をつけた。


 すると彼女は、近くの中学校で足を止めた。


 ここに「狩る側の存在」が?まさか、生徒なわけではないだろうし、教師がそうだというのだろうか。

 いや、良く考えたら、ここはエミの母校だったような気がする。もしかしたら、挨拶に来ただけかもしれない。だが、昼休みに行くだろうか。

 そんなことを考えながら、様子をみていると――


 一人の男子生徒がエミと話をしていた。


 まさか彼が?

 私どころか、エミよりも年下の彼が、「狩る側の存在」だというのだろうか。

 そうとは考えづらいが、今は様子を見るしかない。

 見たところ、その男子生徒はエミにあからさまな程の敵意を持っているように思えた。エミはそれをあまり意に介していないようだったが、私だったら思わず後ずさってしまいそうな敵意だ。

 ここまで強烈な敵意を孕んだ関係が、普通の関係であるはずがない。男子生徒への疑いは強まった。

 しかし、この距離では何を話しているのかはわからない。二人に見つからないように、近づいてみると――


「       」


 男子生徒は言った。その言葉を言った。

 私はその言葉に対する衝撃が強すぎて、しばらく立ち尽くしてしまった。

 その後にも、二人は何かを話していたようだったが、耳に入らなかった。

 気がついたときには、エミがこちらに近づいて来ていたので、慌てて電信柱の陰に隠れてやりすごした。

 だが、男子生徒が発したあの発言。明らかに日常生活では出ない、異様な発言だった。

 そのことで彼への疑いはさらに強まった。

 混乱する頭で、男子生徒の特徴を思い出す。軽薄そうな見た目で、エミよりも背が高かった。

 確か、あの中学は学年によって袖のラインの数が違う。彼のラインの数は二本。とりあえず、彼について調べる必要があると思った。


 だが、私が行動を起こす前に事態は急展開を迎えた。

 あの中学の別の男子生徒が、不審者に刺されたというのだ。


 私は朝のホームルームでその事件を聞いた。なぜなら、この高校の生徒もその事件に関わっていたからだ。

 私は急いで、エミのクラスに向かって、彼女がいるか確かめた。

 予想したとおり、彼女は欠席していた。

 教師の話では刺されたのは中学の男子生徒だけのようだったから、エミは無事だと思うが、私は自分の行動の遅さを痛感した。


 同時に、「狩る側の存在」の正体を確信した。


 それから数日間あの中学に通いつめ、男子生徒が刺された事件について知っている人がいるか聞いて回った。

 調べていくと、被害者の生徒と「狩る側の存在」は同じクラスであることがわかった。

 さらに話を聞いていくと、「狩る側の存在」もその事件以降数日間欠席していて、最近、復帰したことがわかった。

 そして、救急車を呼んだのは高校の生徒、つまりエミであるらしい。

 それらを踏まえて、私は事件の真実をこう推測した。


「狩る側の存在」はエミを殺そうとして、被害者の男子生徒に妨害された。


 こうなったら、最早一刻の猶予も無い。私は「狩る側の存在」に接触することを決意した。

 調べていくうちに、そいつの名前もわかった。

 その名前と、あの時あいつが発した言葉を思い出す。

「狩る側の存在」、その名前は――


「そんなに死にたいのなら、俺が殺してやるよ。あんたは目障りだしな」


 ――柳端 幸四郎。



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