第四章 伝説の恩人、支配する魔獣、紛れなき英雄
ある日の朝。佳志は気まぐれに酒場へ行きつき、しかめっ面を浮かべながら席へ着いた。
「どうした佳志?」
「いやぁ、お袋の知り合いがあまりにおかし過ぎてよ。自分は人間じゃないだとかほざきやがる。お袋も変な事言い出すしよ」
話に相手した長柄は佳志の前にホットミルクを置いた。
「ふん。くだらない話だな」
「だろ、もう可笑しいったらありゃしねぇわ」
と机を激しく叩きながら笑い上げていると、店員側の扉から一人の女が現れた。
「あら、おはようございます」
さっきまで爆笑していた彼は急に静まり返り、沈黙を浴びた。
「………あ?」
扉から現れたのは綺麗で明るくカールがかかった金髪にメイドの様な格好をした外国人風の女性だ。
「悪いな佳志。言うのが遅かった。セレナだ」
「ぇ……お前いつから…」
「ずっと前からだ」
佳志は驚異と妬みが一気に交わり、机を蹴り飛ばした。
「何だこの女は! 長柄、テメェいつの間にこんな外人と付き合ってたのか!」
「そんなに怒る事じゃないだろ。お前には亜里沙が……」
「アホか! あんなお節介なチンピラと俺を一緒にすんな!」
お前もチンピラだろう、と長柄は心でそう強く思ったが、それはあえて言わず彼の怒りを鎮めることに専念した。
「せ、瀬呂さん。このお客様は……」
「あぁ、この店を毎日荒らしに来る暴力団構成員の舎弟頭だ。決して関わり合いはない」
全くの偽りを伝えた長柄にカチンときた佳志は遂にレジ越しの長柄の胸ぐらを掴み始めた。
「ぶっ殺してやるわぁ!」
長柄を殴ろうとしたその時、「あ、そういえば」と間で手を叩いたセレナに佳志はずっこけた。
「何だよ……」
「お墓参りに行かないと」
「はぇ?」
唖然とする佳志に、長柄が説明した。
「セレナの父親が去年お亡くなりになってな。今日はその命日だ。さて、今日はもう閉店だ」
「お前も行くのかよ」
「当然だろ。一応顔合わせたことあるんだよ」
二人が行こうとするところを佳志もついて行った。
墓地へついた三人は目的の墓へ行き、長柄とセレナは水を汲んで墓を綺麗にした。
そしてセレナは二つの花束を両端へ置き、2人は手を合わせた。
一方佳志はつまらなそうに墓地を歩き回り、小石を蹴って暇を過ごすしかなかった。
(そういや、俺にもそういう死んだ人とかいるのかな。聞いたことがないけど……)
そう疑問に感じた彼が行きついたある墓に足を踏み入れた。
やみくもにその墓の名前を読むと、見覚えのある人の名前が書いてあった。しかし、彼はそれを見た途端、笑いをこみ上げた。
その笑いは決して良い意味とは捕えづらく、「終わった」を意味するかのような笑みだった。
やがて笑みさえ消え、溜りに溜まった怒りが爆発した。
「ふっざけんじゃねぇぞゴラァ!」
その辺にあったトンカチを持ち、その墓石を無造作に叩きつけ、次第に崩れ始め、欠片が飛び散った。
「なめんのも大概にしろよクソがぁ! 何で……何で!」
そう、誰もが怒る事だ。
なぜなら、自分自身の同姓同名の名前がそこに大きく刻まれているのだから。
異変に気が付いた長柄が佳志の元へ駆け寄り、声をかけた。
「お、おい。大丈夫かお前?」
そう言って墓石を見ると、やはり彼も驚いた。
「……これは何かの冗談か? それともドッキリか?」
「いやいやまさか……。俺は仕掛け人を頼まれた覚えはねぇぞ」
すると後ろから女性の声が聞こえ、セレナと思いきや、そこには千春が立っていた。
「佳志。それは冗談でもドッキリでもない。その墓石の下には列記としたアナタの骨が埋まっている」
「冗談じゃねぇ!? 意味がわかんねぇんだよ! 俺は死んだってのか!?」
「違う。アナタは死んでいない。ただ……」
千春は下をうつむき、手で涙を拭くかのように目をこすった。
「今のアナタのような、すぐにキレたり我がままな事をするようなチンピラがそこに埋まってる訳じゃない! そこに埋まってるのは、アナタ自身を作ってくれた命の恩人なんだよ!」
言ってる事がさっぱり分からず何一つ伝わらない佳志に彼女の気持ちなど分かるわけがない。横で聞いてた長柄は尚更だ。
彼女は涙を捨てながらその場で立ち去ってしまった。
何も分からず謎の罪悪感だけが残った佳志はトボトボと帰る事にした。
まだ昼だと言うのに、気分は既に夕方。
路上を歩いていると、佳志の前には金髪頭の男が立っていた。
「千春を泣かせたのかお前は」
「……アンタも説教かよ。両親揃って勘弁してくれよ」
そこに立っていたのは佳志の実の父親、与謝野真だ。中年にして佳志にも劣らない若々しさはもはや何かの遺伝か現象であるととらえても過言ではない。
「んー。まぁお前が混乱するのも無理ねぇな」
「おい、何で俺の墓石があった? 説明しろ。親の割には縁起でもねぇことしてくれるじゃねぇか。喧嘩売ってんのか?」
「ぶっちゃけちまえば、あれはお前の兄貴だな。愛衣よりも上の」
愛衣とは佳志のお姉さんのことだ。
「兄貴だと?」
「あくまで置き換えただけだ。本当の兄貴な訳ねぇだろ。もちろん義兄でもない。本当の事言えば赤の他人かもしれん」
「もっと分かり易く説明しろや」
「それ以上はお前が信じる可能性に欠けるから言う必要がない。事実、お前千春の言ってる事ロクに信じなかったじゃねぇか」
「チッ……。まさかアンタも化け物だとか訳の分からん事語るんじゃねぇだろうな?」
「ふん。その化け物もそうだが、墓に眠ってる与謝野佳志は普通の人間だ。しかし時空を越えた人間だ。そしてお前という人間を生むキッカケを作ってくれた奴だ。つまり、お前が今生きてるのはソイツがいてくれたからだ」
「だからお袋は命の恩人って言ってたのか。でも全くもって馬鹿らしい。何が時空だ。ここは日本だぞ? 増してや地球。いや、ここは現実だぞ? いい歳して親族共に作り話息子に語ってんじゃねぇぞテメェ!」
真は「ダメだコイツは」とため息を吐いた。
「まぁお前には分からないだろうな」
真がそう言って佳志とすれ違ったその時。佳志はある疑問を抱いた。
「おい、その時空を越えた俺ってのは、何で今墓の下なんだ?」
「……………」
すると真は目をギラっとさせ、眉間をよせた。
「……実の父親に殺されたからだよ……!」
真はその時の事を思い出したのか、拳を力強く握りしめ、歯を食いしばった。
「アイツは、あのクソ野郎に殺されたんだよ。俺はその仇を討とうとしたが、結局逃げられちまった。それ以来、あの野郎とは一度も会っていない」
「おい、その野郎ってのはまさか…」
「分かり易く行っちまえば、『もう1人の俺』って奴だ。この世で最も恐ろしい化け物の中の、最も強い蒼炎飛行モンスターってところだ」
「……………」
佳志は黙って帰宅した。これ以上は何も聞かない事にしたのだ。
――アレはまるで本当に身に染みた体験を語っているような姿勢に見えた。もしかして……。
さっきまで満更信じていなかった彼は何気なく料理を用意した亜里沙に相談した。
「なぁ、亜里沙」
「んん?」
まるで久々に彼女と話をするような感覚に思えた佳志は、鮮明に彼女の目を見た。
「なっ……何よ」
「いや、最近お前以外の女と話す機会が急に増えた気がしてな」
考えてみればこの最近、千春や友之、セレナという女とも話した。そのせいか亜里沙が比較的マシな存在だということに気が付き始めたのだ。
「へぇー、ナンパでもしたの? 逆ナンはぁ……ないか。アンタじゃ」
「うるせーな。してねーよそんな無謀な挑戦」
「だったら何よ?」
「俺のお袋と俺の親父の妹が襲われてたり、親父の妹は俺にしつこくしてくるし、化け物だとか何だとか語り始めるし、長柄にはセレナっていう女ができちゃってるしよぉ!」
思い出しただけで機嫌を損ねた彼はちゃぶ台を軽く叩き、対して亜里沙は少し驚いていた。
「アンタの親族って何か変わってるわねー」
「だろ? 頭のネジどうかしてんだよアイツら」
「うーん、一概にはそう言い切るのはちょっと失礼かもしれないけど、何でかしらね?」
「親父も言ってるんだよ。まるで一番分かってるかのように感情こめて言ってたしよ」
「アンタも色々大変だったわねー。ほら、ご飯食べなさい」
母親化の様にご飯を寄せた亜里沙に対し佳志は素直にお椀を持ってがぶがぶとかぶりつきながら、彼は更にこう愚痴をこぼした。
「あのクソ親父、嫌がらせのためにわざわざ俺の墓石まで作りやがってよ!」
「……は?」
さすがに笑えない事実だと悟った亜里沙は愚痴の聞き流しを止めた。
「何よそれ。随分と縁起の悪い事してるじゃないアンタの父親」
「何が目的だか知らんが、本当気分悪いぜ」
亜里沙は箸を置き、ノートパソコンを開いた。
「何するんだよ?」
「普通嫌がらせのためだけに自分の息子の墓なんて作る人がいると思う?」
「目的があればなくもねぇだろ」
「じゃあその目的は?」
それには答えることができなかった。事実思い浮かばなかったからだ。
「かつての記録を見れば何か分かるかもしれないわ」
亜里沙はニュースなどのネットの記事を次々と確認していった。
がしかし、それらしき記録は皆無であり、結局真が墓を作った理由も分らずじまいだった。
「まぁ、嫌がらせなら放っておいたら? 別に減るモンじゃないし」
「そういう問題かよ。どうも腑に落ちないな」
当然納得しない彼はため息をついて食事を終えた。
佳志はさっさと布団に潜り込み、亜里沙は台所で皿洗いをした。
「いいよ、それ俺が後でやるから」
「たまにはやらせなさい。佳志は寝てれば?」
「…………」
大人しくそのまま寝ようとした佳志は、ある事を思った。
「そういや、この部屋に居候してからもう一年が経つなぁ」
「うん。もうすぐ二十歳かな? 佳志は」
「そうだな……」
そして佳志は笑みでこう言った。
「これ以上は迷惑かけらんねーな。そろそろこの部屋出てった方がいいよな」
その途端、ゴシゴシと皿を洗っていた亜里沙の手が急に止まった。
「……………」
「ん? どうした?」
「も、もうちょっとココにいなさいよ」
「そうは言ったって、お前の生活がかかってるんだ。これ以上は……」
「ここにいろって言ってるのよ」
今までにない恐ろしい目を向けた亜里沙に、佳志はギョッと青ざめた。
「ど、どうしたんだよお前……急に」
「独立したらどこへ行くって言うの? まだそれなりにお金も持っていないでしょう? それに、佳志の世話を頼まれたのは私なんだから。勝手にどうこう決めないでよ」
「ん………」
まるで人が変わったかのように豹変いた彼女に佳志は恐怖を感じ、彼女に合わせた。
「分かった分かった。もう少しココに住むよ……」
「うん、それがいいわ」
コロッとオーラを消した彼女は引き続き皿洗いを続けた。
――何だったんだ今のは……。
「でも、いいのかよ。生活に苦しむのはお前の方なんだぞ」
「そんな事気にしてないわよ。責任はちゃんと果たすわ」
「………たく、相変わらず世話好きな女だなお前は」
「何それ褒め言葉? その割には随分皮肉に聞こえたけど」
「どう捉えるかはお前次第だ。ま、お前と結婚する奴はさぞかし幸せ者だろうな。こんな可愛い世話焼き姉ちゃんなんだもんな」
「な、何よそれ……」
頬を赤に染めた亜里沙はそっぽを向いた。恐らく「結婚」という単語に反応したのだろう。
「アンタはいいわよね。候補に挙がってる女の子が身の回りにたくさんいて」
「はぁ? 意味分かんねぇ。誰だよ」
「そりゃあさっき言ったアンタの父親の妹? とか。かなりなついてもらったらしいじゃない? それにアンタの母親ってかなり若く見えるのよね。本当に三十路なの?」
「し、知らねぇよ! あんなのただの親戚関係だっつーの。勝手に候補に入れんなアホ!」
「じゃあアンタは誰か好きな人でもいるの?」
「んー………。いや、それらしい奴は特に……」
その言葉に反応した亜里沙は皿洗いを止め、佳志の元へ寄った。
「ふーん。要するに、好きな人はいないってことなんだ?」
彼女は顔を近寄せてニンマリと嫌な笑みをした。
「恥ずかしい事じゃねーだろ」
「じゃあ、もし私がアンタにプロポーズしたら、どうする?」
「えっ……は?」
今度は逆に佳志が赤面してしまい、目を逸らした。
「知らねぇよ……」
「私じゃなくとも、他の女の子から告白とかされたら、アンタどういう反応するつもりよ? 男なんだからちゃんと応えなきゃ」
そう言われた佳志はふと、前回友之になつかれたときの事を思い出した。
彼は自分が彼女の質問に応えていないことを知り、情けなさを感じた。思い返してみれば、何もしていない。最後には怒鳴り散らしてしまった。
「……ふん。恋愛なんてどうでもいいね。恋愛ってのは始発の幸福で絶望的な末を迎えるんだよ。俺はそれをかつて何度も経験したことがある」
「ふーん。それはお気の毒にね。アンタ、顔はカッコいいのに中身が信じられないくらい荒れてるから女1人できないのよ」
「うっせーな。これは元々の性格だから仕方ねぇだろ」
「もしかして、お母さんからも言われなかった?」
「ん…………」
思い出してみて、改めて思ったことは大分酷い事を言われたと感じたことだ。
「すぐキレて我がままな事しかしないチンピラ………って今朝言われたな」
「んまぁそう言われても仕方ないわ。もちろん本質的には別に悪い事じゃなくても、暴力を振るってるのは事実だからそうとらわれてしまうのよ。例え人助けでもね」
「俺は人助けをしようとは一度も思ったことがねぇ」
「嘘つくな。アンタ私に何回借りを作ってくれたと思ってんのよ」
「何?」
「電車に魅かれそうになった私を助けてくれたのは誰よ。誘拐された私を懸命に探して助け出してくれたのは誰なのよ」
「………………」
これには佳志も一本とられた。
「ま、まぁ、あれはその、そりゃあ……」
言い訳の仕様がなく挙動不審になった佳志に亜里沙は呆れ返ってしまった。
「本当素直じゃないわよねあんた」
「居候の借りを返しただけだ。それ以外は何もない」
「まぁそれならそれでいいんだけどね。人助けは決して悪い事ではないけど、そこで暴力をふるうことで世間に余計な偏見を持たれるのよ」
「まぁ別に、それで捕まったことはないし、第一彼女なんていらねぇ。鼻っから俺に惚れる女がいる訳がねぇけどな」
「あらそ……」
事実、彼に本当に惚れる様な女性は見当たらない。いるとしても、それは三十路の年齢離れた関係に過ぎない。
布団に潜り込んだ佳志は、未だあの墓石に刻まれた自分の名前を気にしていた。そこで一つ、行動に移した。
市役所へ行き、戸籍を確認し始めたのだ。
すると、案の定自分と同じ人物は1人も存在していなかった。あるとしたら、自分自身の戸籍一つ。
しかし「そらみろ」と真に威張る前に心に残った彼の言葉を思い出した。
「別時空から」
どうにも納得がいかない。まるで架空の話をしているかのような単語。それを実の父親、母親から言われるとなると、かなり痛々しく思えてきてしまう。
そして、『実の父親に殺された』という真の一言。
あの悔しげな表情、とても偽りの話とは思えないほどの表情に見えた。
更に佳志は詳しく調べるため、独りの男に聞くことにした。
佳志は何度かそこで世話になっていた、場所は警視庁である。彼が会いに来たその男は、警視庁長官である。名前は荒田広行。
「はぁ? 化け物ぉ?」
真が言っていたことをそのまま説明すると、まるで信じないような表情になった彼に対し佳志は、
「だよなぁ~? んなモン存在しねぇんだよ普通! ガハハハ!」
と対応した。
すると釣りあがった頬をした荒田は急に釣り下げた。
「何バカにしてんだお前」
「え?」
「お前、あの墓石を見て、更に母親と父親に真実を告げられても信じてないって言うのか? 人様をなめてんじゃねぇぞコラ?」
「は、はぁ? 意味分かんねぇし」
「あのな、もう数十年前の話だ。アレは黄金美町が荒れるキッカケなんだぞ」
「え、荒れるキッカケだと?」
確かに、考えてみればこんなに物騒な街は他にあるはずがない。しかしそうなったキッカケを気にした事は一度もなかった。
「俺はその時赤星地区で住んでたから状況は上手く把握できてなかったが、ニュースや新聞とかで見る限り、中央地区で原因不明の大爆発事故が起きたらしく、犠牲者は無数に出た」
と、荒田は佳志に昔の新聞を渡した。
「何じゃこれ……」
見ると、自分も見たことがある道路が凄まじく爆発した痕跡が写っている写真がビッシリ貼られていた。
「んで、たまたま赤星地区に用事で来たお前の親父さんと喧嘩したのが俺と真の出会いだったんだよ」
時は十数年前にさかのぼる。まだ真が二十歳だった頃。
荒田は黄金美工業高校からのカチコミに参戦し、地区全体が戦争状態となった時。
真はGSF集団の次男与謝野慎と会うため、赤星地区へ訪れた。例の溜り場へ行く途中、その戦争を目にした。
「な、何だありゃ…?」
様子を見る為、近くまで寄ってみると、
「どけどけどけどけー!」
と背後から誰かが突進してきた。
転がり返った真は呆気にとられ、突進してきた男を見た。
そう、その男が荒田広行である。
見る限り、その男だけが妙に活躍していて、全体的に赤星高校の連中が押している様子である。
しかし、そんな状況にも関わらず怒りに染まった真は正気の沙汰ではないほどに叫びながら荒田に跳び蹴りをかましてしまった。
状況は一変し、赤色の学ランと紺色の学ランの間に黒いコート姿の男が紛れ込んできたという意味不明な混乱を招いてしまった。
もちろんその時真は赤星地区ではあまり有名ではなく、黄金美町の不良集団とは違い田舎なので容赦なく反撃して来た。
黄金美工業高校の連中はチャンスと勘違いしたが、荒田に集中する黄金美工業高校の連中をもなぎ払うかのように真は殴り倒し、再び荒田と格闘戦を交えた。
結果的に、二人以外は全員失神してしまい、残った彼らはスタミナの限界となった。
「お……おい。テメェまさか、黄金美町の奴か?」
「よく分かったな……。お前どこの高校生だよ……」
「赤星高校の荒田だ……。番長やってんだけどよ、まさか知らないとか言うなよ……?」
「悪いな、俺は高校生には用事ないんだよ。俺はGSF集団のカシラに会いに来たんだ」
「何? 慎にだと? お前何者だ…!?」
「慎の兄だよ。この眼が印だ」
真は自分の目に指を指した。真と慎の瞳はほぼ同じで、しかも2人とも特徴的な西洋人風の瞳であるため、一目で分かる。
「マジかよ……。挨拶しに来たってか?」
「んな事でわざわざ会うかよ。それより一回休憩しないか?」
荒田は身の回りの状況を見て、場所は河川敷へと移動した。
真は缶コーヒーを二つ買い、荒田に一本譲った。
「まさかお前があの与謝野慎の兄貴だったとはな。驚いたぜ」
「ふん。んな事はねーよ」
「何か用事でもあったのか?」
「ん……まぁ、色々な」
真が不安そうに言うと、荒田が励ましてくれた。
彼は自分の身にあった事を全て話し、今日慎に会う理由も説明した。
「マジかよ……。あの爆発事故って、お前の仕業だったのか!?」
「一概にはそう言えんが、まぁもう1人はいなくなっちまったから事実上、俺だけのせいなのかもな」
「もう1人って? 死んじまったのか?」
「いや、消えたんだよ。多分まだ生きてる。お前にフィルモットを信じてもらえるとは思ってねぇから、話だけ聞いてもらっただけでも感謝するよ」
「んなこと言うなよ。色々大変だったなお前も。一応信じるよ」
「嘘でも嬉しいよ」
「ふん。さっきの喧嘩、お前の戦い方はまるで至る修羅場を潜り抜けた奴がするような感じだったしな。今度慎にも聞いてみるよ」
「おう」
そうして2人は別れ、荒田は自宅へ帰って真は慎の元へ行った。
時は戻り、佳志はその話に驚いた様子でいた。
「ま、そういう事だ。お前の親父さんはとんでもない英雄だった訳だ」
「なるほどな、んな事があったのか」
「原因不明の事故が原因で街の住民は大パニックに陥り、次第に落ちこぼれた少年が増えて今に至るって訳だ」
そう、与謝野真は紛れもなく英雄だった。1人の少女を助けるべく、そして1人の青年の仇を討つべく、彼は戦い抜いたのだ。
「あ、ちなみにこれ」
佳志は荒田に一つの封筒を渡した。
「何だこれ? 俺への給料?」
「バカ野郎。この一課って婦警1人しかいねぇだろ? 来たら渡してくれ」
「はぁ……」
佳志は一歩、そしてまた一歩、黄金美町にあった事件の真実に足を踏み入れてしまうのであった。
そして、地雷までも。