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エピローグ

 そろそろ秋になる。時期は暑くもなく寒くもなく、ほぼ不自由のない生活を送れるようになった。


 そんな中、黄金美地区の白いアパートの二階302号室では、ある二人の男女が住んでいた。


 男の名前は与謝野佳志。女の名前は仁神亜里沙。チンピラと警察が住んでいるようなものだと、世間ではそう記されている。

 佳志はちゃぶ台の上にあるカレーライスをむしゃむしゃと器を持ちながらかぶりつき、亜里沙は苦笑を浮かべていた。

「おかわり」

「は!? もう!? 何倍目だと思ってんの!?」

「いいから。腹減ってんだよ」

「たく…」

 前とほぼ同じ二人の日常会話。佳志は相変わらず不愛想な顔をし、亜里沙は世話を焼いている。


 あの笑顔は、もう二度と見れないのだろうか。


 そう亜里沙は悲観な表情をしながら、炊飯器からご飯を盛った。

 亜里沙にとって、佳志の笑顔というのは今までとはまるで別人で、人が変わったとさえ思うくらいのものであり、見ると元気が出るのだ。


 彼女はちゃぶ台にご飯を置き、ゆっくり布団に腰掛けた。

 すると、佳志がその悲しげな顔を見て、持ったお椀を置いた。


「俺さ、このまま生きていてもいいのかなーって思うんだよ」

 急な言葉に亜里沙は表情を変えた。

「何言ってるの!? バカな事考えてるんじゃないわよ」

「だって俺ってよ、趣味もないし喧嘩しかしねーし、人に迷惑かけてばっかだし、まだ親孝行さえしてないし……罪だって犯したんだしよ」

「それを償ったからこそ少年院に行ったんじゃない? 別に死のうなんて考えなくても…」

「やった事には変わりはねぇよ」


 佳志が先ほどの亜里沙の表情をして下をうつむくと、彼女は彼の手を両手で握った。

「私ね、十六歳の頃、自分の父親が人に迷惑をかける悪い職業のトップって知って家から抜け出してこの黄金美町に来て、警察を始めたの。私は悪い人を絶対に許さない。だから始めた。だから、正直あの一課に保護観察処分中のアンタが来た時は、正直本当に驚いたし、もの凄く嫌だった。犯罪者なんて、皆自分のことしか考えないって。

 でも、アンタと何だかんだで一緒に捜査をしたり、話したりしてる内に、段々アンタという人間が分かって来た。そして私の父親の子分が私を取り返そうとしたときでも、アンタは複数を相手に必死に助けてくれた。私、あの時から佳志の良い所を知ったの。

 チンピラはいつも自分の事しか考えず、女を物みたいな扱いをして暴力でしか語れない最低な奴って思ってたけれど、アンタだけは違うって私は思ってる。なぜなら、アンタは人の痛みを分かってるから。過去に散々虐められて、薬まで投与されて辛い思いをしたから、辛い人の気持ちを分かってくれているから。

 アンタが弱い人に手を出さず、自分以上に強そうなゴロツキしか狙わないのも、それが理由なんでしょ? アンタは知らないと思うけど、アンタの行動で色んな人が迷惑をしているけど、この街にいる弱い人間も徐々に勇気をもらっているの。弱くても勝てるって事を。

 アンタがこの街にいてくれたから、社会人や普通の学生はたくさんの不良が通るところを堂々と歩けるの。

 だから佳志は、そこらへんのチンピラとは違うの。確かにいつも不愛想で、ちょっと怖いけど、それでも佳志の心の奥底にあるささやかな優しさがあるってことは、私が一番分かってる」

 泣きながらそう佳志に必死に説得する亜里沙に、彼は圧倒された。


 まさか自分には知らない、自分の長所をこうも当てられるとは思わなかったからだ。

「俺は世間では悪者扱いされてるはずだぞ」

「そんな事ない! 私は、アンタは黄金美町の数少ない英雄よりも正義を貫いてる悪者って思う。確かに悪者という事に変わりはないと思う。でもそれはそれでいいじゃない。私はアンタが悪者でも、アンタの味方だよ」

 そう言うと、佳志はゆっくりとその手をもう片方の手で握った。


「ありがとね」

 そう佳志も、もらい泣きをした。涙は片方だけ滴をその握っている亜里沙の手に振った。

 その顔は、嬉し泣きと言ったところか。

 滅多に見ることのできない佳志の笑みは、彼女にとって最大の薬であった。


「普段からそう笑ってよ……バカ」

「何でだろうな、笑うってこんなに難しいのかよ」




 佳志は、改めてカレーライスを食べた。




 一方、真と偽真は喫茶店で話をしていた。

「俺の佳志と、お前の佳志とでは何か違うよなぁ、偽真」

「知らねぇよ。息子の事なんて」

「そっちの時空では佳志と亜里沙、結ばれてたのか?」

「………それは聞いてねぇな。ずっと独りだったらしい。あの長柄って奴も、まさかこの時空でバー店のマスターやってたとは思ってなかったぜ。こっちでは未だにただの不良だしよ。あの賀島って奴は全く聞いたことねぇが…」

 そう言っていると、横から似たような顔の三人目が出てきた。

「よっ、似た者同士」

「………」

 2人はその男の顔を見て、唖然としていた。


 なぜなら、その男も自分と瓜二つだからだ。

「おいおい……、マジかよ」

「まさかコイツも……」

 軽蔑した目で男を見ていると、その金髪の男が席に座った。

「ちょっ、何変な目で見てんだよ! たくよ、お前らを最低限に刑を軽くしたのはこの、俺様だぞ!?」

「お前、あの時の裁判長か。まさかお前も俺らと同じ名前なのか?」

「まぁそんな感じかな。久しぶりだな真ぉ。俺、お前の教頭先生やってたんだけど覚えてるか?」

「えっ……まさかあの時の」

「覚えててくれてんだなぁ! まぁ、ハルが世話になってるらしいじゃん? アイツも昔はヤンチャで今の仁神亜里沙って女と同じような性格だった訳よ? んでな、俺の時空ではそれは最悪な出会いだったね!」

「………何かよ、お前むかーしの話をしているように聞こえるのは俺の思い込みか?」

「ん? だって俺、一番昔の時空から来た奴だしよ。ハルもその時立派な十六歳だぜ? まぁアイツと会うのはちょっとアレだから、お前アイツの一生預けろよ。じゃあな」

 言うだけ言って、彼は立ち去ってしまった。


「何だったんだアイツ……。真、顔見知りなのかよ」

「昔俺の高校の教頭やってた奴だ。左目だけ失明してるのは覚えてる。どうやら本時空での広行に殴られた損傷らしいけどよ」

「へぇー……」



 そう、時空はこの宇宙では無限大にあるのだ。そしてフィルモットウイルスを核から作り上げた人物、それは神のみぞ知る。



   ★



 佳志は墓地へ行き、自分の名前が刻まれている墓へと足を踏み入れた。

 彼はその時、何の感情も出さず、ただじっと自分の名前を見つめていた。墓の前には穴がある。これはきっと偽佳志がここから出た痕跡だろう。

「俺はまだ死んじゃいけないってことか」

 まるで今まで死にたかったかのような意味を持つ言葉でささやいた。



「この街は、何と言っても奇妙だな」


 黄金美町には二組の瓜二つの男が存在し、街は壁で囲まれ、しかもその街の中にいる住民は全て、ウイルスによって感染されていた。

 なぜか、この街では他の町より圧倒的に非行少年の割合が多い。それは一体なぜなのか。



 それは、この街の住民には到底分からない事だ。




 半年後、街を囲む壁は全て取り壊しになり、研究会の土地も一般の道路と化した。


 変わっていないのは、街の治安だけである。

 バイクのコール音、喧嘩の罵声、パトカーのサイレン、そして佳志の噂声。


 未だ彼の顔は住民からは覚えられていない模様。ゆえに彼が噂話をしている人間の前を歩いていても、反応されることはまずない。



 ある日の昼間。黄金美工業高校が授業中の間、外の方から罵声が聞こえた。


「江口って奴出てこいやコラァ!」

 賀島有我が校門の前でそう怒鳴りつけ、生徒諸君は呆気にとられながら窓越しを見つめていた。

 賀島の横に来たのは、険しい形相をした長柄瀬呂だった。


 そして江口という男子生徒は、高校デビューなのか分からないが、足をガタガタしながらガニ股でポケットに手を突っ込みながら歩いて来た。

 耳に派手な金のピアスをしており、髪は最近染めたかのような金髪だった。そしてあからさまにツンツンと立っている。

「なっ……なっ……何だテメェら……!?」

 そう言って近づいてくると、長柄が前に出た。

「お前が江口か。ここじゃ何だからちょっとよそへ行こうか」

 と江口の肩を力強く掴んで行こうとすると、後ろから鉄パイプが飛んできた。

 それは江口の後頭部に直撃し、彼は悶絶した。

 三人目の男、彼は赤い車から出て、もう片方の短い鉄パイプを肩にかけた。


「ココで殺すぞ」


 あまりの怒りなのか、その表情は実に不気味に見え、限りない殺気を彼らは感じた。

「おせぇよ佳志。たく、コイツが何したんだ?」

 賀島がそう聞いた。


「ウチの保護者代理人に手出したって聞いたからよ。いや、俺の女に手出す奴はオメエみたいな高校生であろうと許さねぇっつってんだ」

「か……勘弁してくれ! まさかあの警官、アンタみたいなチンピラの――」


 江口がそう叫ぶ前に佳志は彼の頭を容赦なく叩き、気絶させた。


 完全にノビ切った江口に、佳志はそれ以上何もすることがなかった。

「え……おい佳志、もういいのかよ?」

「そいつ高校デビューだよ。お前もよく分かってんだろ。俺が一般人に手出さないことぐらい」

「いや、高校デビューとは限らねぇだろ? だって金髪だしピアス付けてるし……」

「俺には分かるんだよ。不良になりたくてなった奴と、いつの間にか不良になってしまった人間の区別ぐらい」

 そう言って佳志は車を出し、その場を去った。


 長柄と賀島は唖然とし、うつ伏せに倒れている江口を放って立ち去った。


「そういや佳志ってこの学校出身だっけ?」

「らしいな。アイツが中退した時からこの学校は普通の高校になったらしい。だからこの学校に不良がいること自体、アイツはおかしいって思ったんじゃないのか?」

「あぁ……なるほどね。何かアイツ、何気に洞察力良くなったって感じじゃね?」

「ふん、俺にはいつもの佳志にしか見えないけどな」


 二人の会話は、結局彼の事で話が止まらなかった。


 黄金美町というのは、争いがあるからこそ平和な街である。


 彼らは必ずしも良い人間ではない。もちろん真も。それだけは忘れない方がいい。彼らはあくまでも不良なのだから。


 与謝野佳志という男は黄金美町の最高級の危険人物と記されているが、それはもしかしたら、井の中の蛙でしかないのかもしれない。



 平和へと戻った黄金美町も今もなお、誰かが泣き叫んでいるのかもしれない。



 そして、敵の敵が助けてくれるのかもしれない。




 そう、今最も幸せな生活をしている、亜里沙の様に。













                    完


The man is a dangerous character.


But he most weakly in the Golden beauty city.


Don`t forget...

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