しりとりのおはなし
「鹿!」
「河馬!」
「バングラデシュ!」
シュークリームを食べながら、男はそう答えた。
対してもう一人はお茶を一口含んで「しゅ……シュート!」と。
「トグル!」
「ルビー!」
「ビ……?」
「ビじゃなくて、イでもいい」
「イかあ……それじゃあ、イス!」
「スイカ!」
彼は適当に言っているようで考えているらしい。
今の彼のターンのとき、『イ』と言わせるように誘導したのだから。どう言わせるかがとても重要だ。さあ、相手はどう動くか?
「かぼす!」
「スニーキング!」
「ぐ……?」
「ぐ、だ」
だから『く』でも良いって、と彼は言った。
「確かになあ……それじゃあ、くるみ!」
「みるく!」
「く……ってまたかよ!」
「よくここまで罠にはまってくれるなあ。あ、『ぐ』でもいいんだぞ」
「そうは言うが難しいものがあるな……あ」
「あんだよ。俺は腹減ったんだよ」
横で相手が焼きそばを食べ始めた。とても香ばしい。
「いい香りだあ……俺にも分けてくれよ!」
「よこせって言われてもなあ……とりあえずしりとりの続きをしよう」
「うーケチ」
「……ちょっとだけだぞ?」
そう言って男は焼きそばを一口箸で掬ってそれを口に運んだ。
食べると口の中にソースの香ばしい香りが広がった。
「たまんないな……やっぱたまにはこういうのもいい」
「いいだろう? さあて、しりとりの続きと洒落こもう」
「うん」
終