「たぶん」と「もし」と「かも」
その後猫少年が自分のお仕事のために牢を離れると、急に静かになりました。
見返り、なんだろうねー。騎士長が邪魔だから毒殺するための毒とか。または魔法でなんかうまいことしちゃうとかそういうものかな。
もしあの骨皮のっぽが襲ってきても、泣き落としでどうにかできないかしら。腹の底から泣けるよきっと。いやいや、実は本気で魔人倒そうって思ってたりして。副騎士長には秘策があって、それを骨皮のっぽに預け・・・預けるくらいなら自分でいくよね。効果がわからないとかで他人に任せて本当に倒せたら手柄だけいただき!だったりして。いやそれじゃ私いらなくない?
想像と妄想の世界がばんばん広がってゆきます。
「あーっ。わかんないっ。知らないっ。」
難しいことは苦手です。だいたい、『たぶん』や『もしかして』が多すぎるのよ。
確実にわかってることは、副騎士長と魔術師たちは仲はよくないってこと。魔人を倒せそうもない私に護衛がつくってこと。それも一人だけ。
状況から言ったら途中で始末されるっていう話が一番信憑性高いよね。あはは、は、はぁ。
箱に入れられて届いたお昼ご飯は豪華でした。あれかな、最後の晩餐的な。
卵のスープ、いつもの丸パン、見たことのない野菜と豆とハムのサラダ、なんかの鳥のオーブン焼き。ヤケ食いみたいに食べつくしておきました。日没後は夕食抜きで出発するっていうし。食べたら眠くなるからですって。
それにしても、食べ終わった後の満腹感は幸せなものだけれど、出発の時間が迫りつつあるんだな、と思うと胃袋が縮小していくような気持ちです。修学旅行の直前とかに似ているけど、ここではもっと、孤独な感じ。
食事を箱に戻す猫少年。それから、箱の内側からそっとナイフを取り出しました。
「これ、どこかに隠しておいて。先生には、武器になるものはやっちゃいけなって言われてるんだ。内緒だよ。」
「あ、ありがとう。」
本当に気が利くいい子。泣きそうな顔で微笑んだので、大丈夫だよ、とピースサインして見せました。
それにしてもじじいめ、本当に生かして返す気ゼロなんだわ。そーはいかないわ。絶対生き延びてやるんだから。もらったナイフは、パンの布の中に一緒にくるんでおきました。
「じゃあ、ちょっと僕も用意してるものがあるから。」
急ぎ足で片づけて立ち去る猫少年。
また一人牢にぽつんと取り残される。
することもないので硬いベッドに座ります。この数日のことがぐるぐる、何度も頭の中を回っていくけれど、答えらしいものは何も浮かばない。
死ぬってなんだろう。
殺されるなんて現実的じゃない。
猫の手紙を開くまで、毎日はとてもとても平和だった。
殺される心配はなかった。
おなかがすいたらごはんがあった。オヤツだっていつでも食べられた。
綺麗に洗濯された服を着ていた。好きな音楽を好きに聞けた。
友達とおしゃべり。なんでもないようなこと。雑誌のこと。マンガのこと。ドラマのこと。
そんなことを考えてるうちに、泣きながら私は眠ってしまいました。