護衛、だったらいいけど
そんな風に3日目の夜がふけ、4日目の朝。
おいしい朝食セットが届けられ、体を拭かせてもらって着替えをもらいさっぱりしたものの、私は未だ、夢の中のような気持ちでいたりしてました。夢、なかなか覚めないなぁなんてね。
しかしそんな期待とか希望とかは石の冷たさや硬いベッドの感触が打ち砕くのでした。
みんな心配してるだろうなぁ。
捜索願とか出されてるんじゃないのかな。
親だってまさか自分の娘がよくわからない世界で魔法失敗の犠牲になっているとは想像もつかないだろうな。
いいや、私はぜーったい帰る。来れたんだから!猫少年だって行けたんだから!
という決意を新たにしているところへ、魔術師3人、猫少年、ひげもじゃ、大男という大勢が現れました。
猫少年が重そうなリュックをよろよろと私に差し出し、エラそうな魔術師が再びエラそうにもったいぶって言いました。
「娘よ。これはわが国の命運を左右する偉大なる任務である。そなたの活躍如何では金も名誉も欲しいままの素晴らしい未来が訪れよう。」
偉大な任務を見知らぬ娘に託すなってば。続けようとする魔術師を遮って鼻息荒く答えます。
「そんな未来どうでもいい。もし魔人を倒したら、私を家に帰して!他はなにもいらないわ。」
三人の魔術師は顔をちらりと見合わせ、よかろうと答えました。
「ではお前の護衛に、わが騎士団でも五本の指に入る腕利きをつけよう。大船に乗ったつもりでいるがいい。」
つづけてひげもじゃがそう言うと、ずばぬけて身長の高い骨と皮だけでできてそうな男が前に出てきました。
ほっそーーーーー。これで腕利き?
「今日、陽が落ちたら出発じゃ。手荷物を見て、足りないものがあれば申し出よ。」
それだけ言うと、牢を閉めました。猫少年とのっぽ男を残しておっさん方は早々にお帰りです。
猫少年がなにか言いたげでしたが、のっぽ男に聞かれたくないようでもじもじしていましたが、そうそう、と言ってリュックの中身をあけはじめました。
ロープやランタン、布にくるまれたパン、ジャーキー、水筒。
その様子を黙ってみていたのっぽ男は、
「俺も支度をしてこよう。夕刻改めて来る。」
と、立ち去りました。
完全に足音が聞こえなくなると、猫少年はほっと胸をなでおろしました。
「よかったぁ。ずーっといるのかなって思って気が気じゃなかったよ。」
「暗い男だったわね~。」
「でも…僕思ったんだ。言いにくいけど…。」
え、なになに?そこまで言ったら言おうよ。
「あのね、お姉さん、さっきの騎士にこっ…殺されちゃうんじゃないかって…。」
ええええっ。
「どうしてそう思うの?」
「だって、魔人を倒せるなんて、先生たちはぜんぜん期待してなかった。先生たちはお姉さんの存在をなかったことにしたいし。」
「護衛はでも、弱そうだったじゃない?」
背が高いから大きく見えるけど、体当たりしたら簡単に転んでくれるんじゃないのかな。でも護衛が弱かったら魔人も倒せないだろうけど。
しかし猫少年は首をぶんぶん振ります。
「とんでもない。あの人、お城の大会で上位に入る人だよ。5本の指っていうのは嘘じゃない。」
ざーっと急に気温が音を立てて下がったように感じました。さらりさらりと私の死亡フラグを説明してくれる少年。悪気はないんだろうけど、そろそろやめて。
「でもほら、騎士と魔術師は仲悪いんでしょ?そんな魔術師にだけ得なこと、しないわよ。見返りでもなければ。」
あるのか、見返り。
たとえば自分が念願の騎士長になれちゃう何かとか。