それぞれの見えない思惑
夜になると、猫少年は先生と一緒に現れました。
「娘よ。お前が生き残れるチャンスをやろう。魔人を倒すのだ。」
あれ?なんかニュアンスが思ってたのと違うな…。希望が通るならまぁ、いいか。
「召喚されたことには意味があるとワシは考える。お前には我々の思い及ばない力があるかもしれん。お前さえ気づいていないような。」
そんな感じでエラそうにあれこれ理由づけをして、御託を並べて、威厳オーラを出しまくってるところへもう一人やってきました。お客の多い日だわ。
「これはこれは大先生。こんなところで何をなさっておいでですかな?」
腰に剣をぶらさげた筋肉もりもり、ひげもじゃ親父でした。
「お、おお、副騎士長殿。なに、大したことではない。弟子が不始末をしたのでな。こうして罰しておったところよ。」
「ははぁ。しかし変わった服のお弟子さんですな。ところで最近、魔術派が召喚魔法に失敗したという噂を聞きましてな。」
先生の表情が一気に強張ります。
「根も葉もない噂だ。そんなくだらない話に囚われておっては騎士長への道が危ぶまれよう。」
この一言にひげもじゃが顔を真っ赤にしてぐっと拳を握ります。
「フン。根も葉もないにしろ、この噂が広まれば痛くもない腹を探られはしましょうな。ときに、今しがたのお話ではその小娘を魔人退治に遣わすだとか?冗談みたいな話ですなあ。不始末をしでかすような弟子を森へ送り込むとはね。」
どうやらひげもじゃは全部聞いてたみたい。さらに反論しようとする大先生を両手で制して続けました。
「まぁまぁ、そこで私から提案なんですがね。まさか一人で行かせられもしないでしょうから、騎士団から護衛を一人お貸ししましょうか。」
ひげもじゃがニヤニヤと笑います。数歩離れたところで二人が悪い顔でぼそぼそと話し合いを始めました。ひとしきり話が済むと、ひげもじゃは満足そうに去っていきました。
大先生は間をおいて、魔人退治のための準備を猫少年に言いつけて薄暗い牢を後にしました。
「仲いいの?騎士と魔術師。」
「全然!他の派閥も全部、それぞれが王様により取り入ろうとして必死だよ。互いの足を引っ張り合うのが常だもん。」
協力すればいいのにね、とは思うものの、今のは協力するって顔とは言い難かったなぁ。
「とにかく、今ちゃんとしたご飯を持ってくるよ。三食食べさせて力つけさせろって言われたから、お肉とか出してもらうよ!」
猫少年はぱちっとウィンクしました。かわいい。