暗闇は体に悪い
翌日も、ただひたすらおなかが空いて悲しく時間が過ぎていきました。
猫少年が来たので、外は夜になっていたようです。今夜の彼は半分のパンに加え、カップにスープを入れて来てくれました。
「魔術師たちはすっごく揉めてる。期待してた戦力が得られなかったから。お姉さんのことは、飢え死にするまでほっとけって話もあるんだ…。」
酷い話ですが、このままじゃ本当にそうなってしまいます。どうしたら牢から出られるのか、生き延びられるか、帰れるか。全然いい案なんて浮かびません。
猫少年も特にそれ以外報告できることがないようで、調べものがあるからと早々に帰っていきました。
あの子がパンを分けてくれなくなったら。
あの子が来なくなったら。
そんなことを考えるとどうしようもなく無気力になっていきます。
暗闇はアリジゴクみたいに希望や未来をどんどん吸い込んでいってしまうんです。暗いところや夜に大事なことを考えるのはやめようって思いました。
とはいえここに居る限り辺りはずっと暗いんですけど。
この夜、私はうまくいくか分からない作戦をひとつ思いつきました。
もし明日の夜猫少年がまた来てくれたら、この話をしよう。
とにかく牢から出る。絶対出る。
翌日は朝のうちに猫少年はやってきました。
「すぐ行かなくちゃいけないけど、はいこれ。」
食べかけじゃない、丸いパン。この子は本当にやさしい子だ。まぶたがかっと熱くなるのを感じます。
うまくお礼も言えない。胸が詰まる。そりゃあこんなことになった一因ではあるけれど。
またあとで、と立ち去ろうとする彼を呼び止める。
「あ、あの、私、魔人倒すよ!」
思いもよらない申し出に、猫少年はぽかんと口をあけて立ち止まりました。
「本当に?!」
「だってそうでもなきゃここで死ぬだけなんでしょ?なんでもやってみないとわからないんだし。」
作戦なんて大きく言ってみたけど、思いついたのはその一言だけです。外に出られさえすれば何か道があるかもしれないなってぼんやり期待してるだけ。
「わかった。先生にうまく伝えてみるよ。」
そうだ、彼は内緒でここに来ているんだった。大丈夫かなぁ。
という心配は杞憂で、彼は『せっかく呼び出したのだからせめて有益な情報を引き出すことを先生がお望みになると思った』ために密かに牢へ通ったってことにして『先生』のプライドをこちょこちょしたみたいです。優秀なお弟子さんですね、先生。