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猫少年と硬いパン

 「ねえ、ねえったら。」

 誰かの声がします。どろりとしたスライムみたいな眠りから目を覚ますと、相変わらず石に囲まれていてがっかりです。

 「ハァ…誰?」

 「ねえ、あの…これ。」

 格子に近づくと、声をかけていたのは猫少年でした。掌にパンを持って、私に差し出していました。

 「えっ。ありがとう!ってこれ食べかけジャン!」

 手に取ったパンは5センチくらいのギザギザ半月型。しかもパンっていうよりブロックみたいです。ぼそぼそとしていて、私の知ってるパンよりちょっと重たい。

 「しーっ、しーっ!あんまり大きい声出さないで…僕の夕ご飯の半分なの。これしかないけど…。」

 私のために半分残してくれたんだ。いい子だなぁ。

 「あの…僕のせいでお姉さん牢に入っちゃったから…。」

 そうでした。

 「どういうことなの?ちょっと説明してくれない?」



 猫少年は知ってる限りのことを教えてくれました。

 私を連れてきたのはこの世界の召喚魔法らしくて、本の部屋にいたのはその魔法使い。弟子を取って日々魔法研究してるけど、猫少年はその弟子のひとりだそうです。

 で、何のために召喚魔法なんて”危ない”魔法を使ったのかというと、国を飲み込もうとしている森の魔人と戦わせるためですって。

 ただ、つながった世界が思ったより平和で、戦闘向きが引っかからなかったと。

 それで始めは山本先輩の足元をうろうろしてたのね。でもいくら柔道部でも魔人相手じゃどうかと思うわ。


 「もうすぐ王様のお誕生日が来るんだ。それで、記念に何百年も国を脅かしてきた魔人を討伐したいって。いろんな派閥がそれぞれ王様の望みをかなえるために、なにか戦力になるものを探しているんだ。」

 派閥があるのね。協力すればいいのに。

 「それにしても魔人ってなんなの?」

 「わからないんだ。魔人の姿を見た人は、二度と森から出られない。だから悪魔みたいなものだって考えられてるけれど。歴代の王様たちも何度か兵隊を森に送ったけど、帰ってきた者はいないんだ。」

 「わからないのにどうして魔人って言うのかな。」

 「すごく古い歴史書に魔人って書いてあるから。過去にはその姿を見た人がいるのかも…。」

 どんな歴史なんだろう。なんにしても、私ごときがどうにかできる話じゃありません。とにかく家に帰してほしいんです。本当にそれのみが私の望みです。

 「…お姉さんはもしかしたら、処分されちゃうかもしれない。」

 ざっと血の気が引く音が聞こえました。さらっと怖いこと言わないで。

 「召喚魔法を使うのには、すっごく貴重な薬や秘宝をたくさん使うんだ。だから、送り返すためにそれを使うなんてこと、しないと思う。お姉さんをどうするかは、今会議中なの。」

 「私にだって家族も友達もいるのよ?こんな、こんなところで私…。」

 手が震えます。猫少年はその私の手を控えめに握って何度もごめんなさいと言いました。

 「もう時間がないので…。でも、僕にできそうなことはがんばってします。本当にごめんなさい。」

 後ろめたそうに猫少年は牢を離れていきました。

 

 掌に残った硬くてぼそぼそしたパン。初めだけ小麦の味がしたようだけど、あとは涙とまざってただしょっぱいばかりでした。

 

 

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