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庭園で婚約破棄されました――植物は皆私の味方なので、帰り道にお気をつけください

掲載日:2026/06/24

「グルーシャ!お前との婚約を破棄する!」


 学園の庭園に響くアラナンの大きな声。彼の近くに咲くバラのトゲが、キラリと輝いたように見えた。


「なっ!どうしてですか!?」

「お前が伯爵家に相応しい人間ではないからだ!――この学園でも、空いた時間があれば水やりだの土いじりだの。なんてみっともない!そんなのは使用人のやる仕事だ!心が平民の奴の血など、我が家は欲しておらんわ!」


 アラナンはそう言って、むしゃくしゃを発散するように、近くに咲いていたラベンダーを蹴り上げた。ラベンダーは悲鳴を上げ、蹴られた部分の命が途切れてしまう。


「何をするんですか!?花が泣いています!」

「ただの草を散らして何が悪い?むしろゴミがなくなって素晴らしいだろう?――そうだ。今からここら辺の草花を全て踏み荒らしてやろう。お前はそこで黙って見ているが良い。見守るのも使用人の大切な務めだろう?」


 アラナンは自分の言葉でニヤリと笑うと、近くの花壇に足を踏み入れようとする。


「止めてください!」


 私はアラナンに飛びつく。思い切り地面に押し倒そうとしたが、アラナンは少し揺らいだだけだった。普段騎士団に混ざって訓練をしている影響なのか、まるで草木の成長に悪影響を与える大きな岩のような、そんなどっしりとした重量を感じた。


「お前ごときが俺にたてつくな!どけ!」

「キャァ!」


 私は突き飛ばされ、地面に衝突をする。内臓に大きな衝撃が走り、動きたくても体が起こせなくなる。なんて無力なのだろう。アラナンはそんな私を見て再びニヤリと笑うと、花壇に踏み入れようと片足を出した。

 そのとき、急にアラナンの体勢が崩れ、前のめりに倒れ込む。彼の顔は目の前にあった花壇の角に勢いよく衝突し、鼻血が溢れているのが見えた。


「な、なんだ!」


 よく見ると、アラナンの足にはツルが巻き付いていた。しかもただのツルじゃない。ツルバラのツル、棘をその身にまとったツルだ。ツルはアラナンの足をつかむだけでなく、するすると彼の体にまとわりつく。


「くっ!どうなってやがる!痛っ!動くと刺さりやがる!」


 もがくアラナン。でもそのせいで余計にツルが体に刺さる。服が裂け、その隙間からさらに棘が入り込む。そのたび、アラナンは苦悶の表情を浮かべる。


「クソ!クソ!クソ!全部切り落としてやる!全部根絶やしにしてやる!」


 アラナンは身を捻って無理矢理懐に手を突っ込むと、そこからハンドナイフを取り出した。ツルを切る。切る。切る。

 少ししてアラナンは棘の迷宮から脱出した。体中を血だらけにしながら、服もボロボロになりながら、何とか逃げ出した。


「おい、何ぼんやり見てやがる!見世物じゃねぇんだよ!いいか!今から本当に根絶やしにしてやるからな!」


 まだ動けないでいる私を睨みつけ、そう宣言すると、ツルバラをナイフで切り刻み始める。ズタボロの体を動かしながら、何度も何度もナイフを振るっていた。止めないといけないのに、私の体は全く言うことを聞かない。


「お前が大切に育てたものがむちゃくちゃにされる気分はどうだ!恨むなら無力な自分を恨めよ!」


 バラの悲鳴が聞こえた気がする。自分の体が傷つけられるよりもよほど痛くて、涙が頬をつたった。

 その時、どこからともなくブーンという音が近づいてくる。それも一匹や二匹ではない。


「な、なんだぁ!痛い!痛いって!」


 蜂の大群だった。蜂は私には目もくれず、アラナンを狙い撃ちにする。アラナンの服から露出した皮膚だけでなく、破れた服の隙間から蜂が飛び込み体中を駆け回っているようだ。

 アラナンは滑稽なピエロのように踊りわめく。


「クソッ!二度とこんなとこくるもんか!いってぇ!お前は一生ここで草でもいじいじしてろ!」


 そう言って走り出すアラナン。何度か草木に絡まれてこけて、蜂にたかられるを繰り返しながら、転がるように庭園から駆け出していった。見えなくなっても、遠くから「いってぇー!」と鳴き声が聞こえる。

 私は体を這うように動かし、切り刻まれたバラと蹴り散らされたラベンダーに近づく。


「守れなくてごめんなさい――絶対前よりも心地よく咲かせてさしあげますからね」


 大きな風が一つ吹いた。風が草木を煽り、さわさわと優しい音色を奏でる。それが私の体に溶け込む。

 なんだか、皆に励まされたような気がして、私はゆっくりと笑みを浮かべた。

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― 新着の感想 ―
果たしてアラナンが怒らせたのはこの庭園の植物だけなのかそれとも全ての植物なのか。 後者ならこの分だと食虫植物に捕まって不審者とかもあり得そうだな…… 何とか家を継げたところで領地の植物が永遠に不作とか…
アラナンはバカだから気付いてないみたいだけどさぁ……コレ人知れず始末されたりするんじゃないの? 犯人が植物じゃ逮捕も出来んやろ いつ、どの植物が牙剥くかわかんねーから予防も特定も難しそうだよね? しか…
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