第6話「辺境の特産品と、二人の共同作業」
ヒートの一件以来、私とグリーグ様(と呼ぶようになった)の距離はぐっと縮まった。
言葉数は相変わらず少ない彼だが、視線が合うと優しく目を細めてくれるし、私が何か困っているとすぐに駆けつけてくれる。
さて、体調も落ち着いたところで、私はある計画を実行に移すことにした。
このノースガルドは軍事拠点としての機能が優先されており、経済的には決して豊かとは言えない。物資の多くは王都からの補給に頼っているが、冬の間はそれも滞りがちだ。
そこで私は考えた。この土地ならではの特産品を作って、経済的に自立できないかと。
目をつけたのは、近くの森に自生している「雪見草」というハーブだ。
地元の人々にとっては雑草のような扱いだが、実はこれ、非常に優れた保湿効果と、傷を治す薬効があることを前世の知識(に似た植物があったこと)から推測していた。
「これを加工して、軟膏や保湿クリームを作れば、寒冷地の必需品になるはずです」
私の提案に、グリーグ様は腕を組んで唸った。
「雪見草か……。確かに傷薬として煎じて使うことはあるが、商品にするとなると……」
「私に任せてください。加工には魔法も使えますし、香り付けも工夫できます」
私の熱意に押され、彼は協力を約束してくれた。
それからは、二人三脚での商品開発が始まった。
休日は二人で森へ入り、雪見草を採取する。
巨大な銀狼の姿になったグリーグ様の背中に乗せてもらい、雪深い森を駆けるのは最高に楽しかった。
「きゃっ! 速い!」
『落ちるなよ、ジュリアン』
彼の背中は広く、温かく、どんな揺れも吸収してくれる。
採取したハーブは、屋敷の空き部屋を工房にして加工した。
私がすり潰しと魔力による成分抽出を行い、グリーグ様が力仕事である瓶詰めや木箱の作成を手伝ってくれる。
「これ、どうだ? 少し歪んだか?」
不器用ながらも一生懸命に小さな木箱を作る将軍の姿は、なんとも微笑ましい。
「いいえ、味があって素敵です。職人顔負けですよ」
「……おだてても何も出んぞ」
照れ隠しにそっぽを向く彼。その尻尾がパタパタと揺れているのを、私は見逃さなかった。
試行錯誤の末、完成した「スノーバーム」は、兵士やその家族に試験的に配ってみたところ、爆発的な人気となった。
「あかぎれが一晩で治った!」
「肌がすべすべになるし、いい香りだ」
評判は上々だ。これなら、春になったら行商人に委託して、他の街へ売ることもできるだろう。
ある夜、作業を終えて二人でハーブティーを飲んでいたとき、グリーグ様がふと言った。
「お前が来てから、この街は変わったな」
「そうですか?」
「ああ。明るくなった。兵士たちも、住民も、みんなお前のことを話題にしている。……俺もだ」
彼は真剣な眼差しを私に向けた。
「俺の人生も、お前が来てから色づいたようだ。……ありがとう、ジュリアン」
その言葉に、胸が熱くなる。
追放されたときは絶望しかなかった。自分は不要な人間だと思っていた。
でも、ここでは必要とされている。私の知識も、魔法も、そして私という存在そのものも。
「私の方こそ……私を受け入れてくれて、ありがとうございます」
自然と手が伸び、彼の大きな手に重ねた。
彼は私の手を握り返し、そっと甲に口づけを落とした。
それは契約や儀礼ではなく、深い敬愛の証だった。




