第12話『この手で、ちゃんと作ったから』
午後の部も順調に進んでいた。
ギャル仕様の弁当は、見た目の華やかさに加え、ほんのり香る梅酢やバターの風味が「懐かしい」「でも新しい」と評判になっていた。
SNSでも《#ギャル弁》が話題になり、写真やコメントが次々と投稿されていく。
「やば、リツイート伸びてる……!」
「“文化祭の台風の目”とか言われてるよ、リナ!」
仲間たちの声にリナは笑って応えながらも、胸の奥では少し緊張していた。
(うちの弁当、ホンモノって言ってもらえるかな)
そんなとき――
「すみません、交換してもらえますか?」
声をかけてきたのは、隣のブースの自然派弁当を出していた女子だった。
肩までの黒髪、淡いチェックのエプロン。やさしい笑顔を浮かべている。
「私はユイ。△△高校の料理部。あなたの弁当、ずっと気になってて」
「え、マジ? うれし……あ、リナ。うちの高校の、えっと、ギャル枠!」
ふたりで弁当を交換し、並んでベンチに座る。
リナがユイの弁当を口にすると、じんわりと優しい味が広がった。
素朴なのに、計算されたバランス。丁寧に仕込まれた味が、芯から伝わってくる。
「……すご。ちゃんと“料理”って感じ」
「ありがとう。そっちのも、すごいよ。味、はっきりしてるのに、まとまってる。なんていうか、あったかい」
ユイは、ふと真顔で言った。
「正直……“ギャル弁”って聞いて、最初ちょっとナメてた。ごめん。でも、ちゃんと作ってるんだって、食べたらわかった」
「……うちも、あんたの弁当、ちょっとカタいイメージだった。でも今……すごい、好きかも」
ふたりは少し照れながら、笑い合った。
***
そして、ついに結果発表の時間がやってきた。
会場には料理関係者や生徒、保護者などが集まり、ざわざわとした空気が流れる。
リナはエプロンの端をぎゅっと握っていた。
「第1位は――△△高校・料理部、“季節のおくりもの弁当”!」
ステージに上がるユイ。堂々とした姿。拍手が鳴り止まない。
(やっぱ、すごいな……。うちは、まだまだや)
でも、すぐに続けてアナウンスが響いた。
「そして準優勝は……本校代表、“ギャル仕様弁当”!」
一瞬、時が止まったように感じた。
ユウキが「ほら、行ってこいよ!」と背中を押してくれた。
拍手のなか、リナはステージに立つ。
司会者が続けた。
「“ギャル弁”というコンセプトにとどまらず、見た目と味の両立、そして“自分の味”を持とうとする姿勢が高く評価されました」
リナは深く頭を下げながら、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
(うちは、ちゃんと作った。誰かに任せたんじゃなく、自分の手で、考えて、迷って……それでも、作り続けた)
拍手が続く中、ミクが駆け寄ってきて、リナにぎゅっと抱きついた。
「ねえちゃんの弁当が、一番好き!」
その言葉に、リナは自然と涙が浮かびそうになる。
「……ありがとう。ねえちゃん、がんばったもん」
準優勝のメダルよりも、ミクの言葉のほうが、ずっと胸にしみた。
帰り道、ユウキがポンと肩を叩いて言う。
「結果もすごいけどさ。リナが“ちゃんと料理してた”ってことが、何より伝わったよ」
「ふふん。うち、ギャルだけど、根性もあるんで」
その笑顔は、どこか誇らしげだった。
文化祭の終わり。
手にしたものは、賞じゃなくて、“自分の芯”。
ギャルであることも、家庭の味も、自分の味も――全部、誇っていい。
明日もまた、リナはお弁当を作る。
ちゃんと、この手で。