第10話『わたしのお弁当は、戦いの記録』
「文化祭で他校の料理部も招いて“お弁当コンテスト”やろうって話が出てるんだ」
料理部の顧問がそう言った瞬間、部室の空気がざわめいた。
「コンテスト?」
「なんか、おしゃれカフェみたいな感じになるらしいよ」
リナはその言葉を聞きながら、心がざわざわするのを感じていた。
「リナも出る?」
ユウキが、当然のように聞いてきた。
「んー……考えとく」
軽く流したけど――本当は、心が揺れていた。
(“映える弁当”なら、やれる気がする。見た目だけ派手にして、可愛く盛れば、それっぽくなる。でも――それって、あたしがやりたいこと?)
一度は手放した“映え狙い”。
でも、コンテストってなったら、見た目も勝負だ。
かっこつけたい気持ちと、ちゃんと作りたい気持ちがぶつかって、リナは黙り込んだ。
***
その夜、キッチンでリナは黙々と卵を巻いていた。
「甘さ、控えめにしたほうがいいかな……いや、うちは甘めだったし……」
試行錯誤しながら、何度も巻く。
そんなリナを、母がふと見てつぶやいた。
「アンタ、最近……ちゃんと“作って”るのね」
「……は?」
「最初は、どうせ三日坊主だと思ってたけど。最近のあんたの弁当、なんか“気持ち”入ってるっていうかさ」
リナは目をぱちくりさせた。
「……あたしの弁当、気持ち見える?」
「うん。今日の卵焼き、ミクが“お姉ちゃんの味”だって言ってたよ」
リナは黙って、少しだけ口元をほころばせた。
(そうか……“うちの味”って、そういうことなんだ)
***
祖母の家に行って味見してもらったり、ミクと一緒におかずを詰める順番を考えたり、
ユウキから「主菜と副菜のバランス、良くなったな」って褒められたり――
コンテストの準備は、いつのまにか“日常”になっていた。
SNSには、相変わらず地味な弁当の写真。
でもコメントには「ほっこりする」「おばあちゃん思い出す」「これが一番好き」って声が並ぶようになった。
(見た目より、伝わる何かがあるなら……それでいい)
***
文化祭当日。
リナのブースには、ラメの入った旗や手描きのポップが立ち並び、異彩を放っていた。
「ギャル仕様弁当、できました〜!」
ちょっと派手で、ちょっと甘くて、でも手間も心もぎゅっと詰めた“うちの弁当”。
卵焼き、煮物、カラフルな和風ピクルス、ハート型に抜いた人参のグラッセ。
どれも「食べる人の顔」を思い浮かべながら作ったものだ。
客がひとくち食べて、笑顔になるたび、リナの胸もあったかくなる。
ユウキがひょこっと顔を出して、ひと言。
「……ちゃんと、あったかい弁当だったよ」
リナはにやっと笑って、言い返す。
「うちの弁当、ギャル仕様。甘くて派手で、でもちゃんと温かいから!」
それは、リナの全部をこめた言葉だった。
自分を偽らず、でも変わっていく。
ギャルだって、料理する。
笑われたって、やってやる。
このお弁当は、あたしの――戦いの記録。