表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

第1話『昼メシ、抜きギャル』

「えー、また昼メシ抜き? リナちゃん、細すぎてそのうち消えるよ?」


教室の隅っこ。金髪にネイル、メイクは朝からバチバチ。制服のスカートは短く、ジャージの袖を腰に巻いた“ザ・ギャル”なリナは、スマホをいじりながら笑った。


「うるさ〜、朝パン食べたし」


そう返すけど、本当は朝ごはんなんて食べてない。冷蔵庫はスカスカで、食パンの袋すらもう空だった。昼も買いに行くお金はない。コンビニに行く友達の輪に加わる気力も、今のリナにはなかった。


「てかさ〜、弁当とかマジ主婦くさくね? 昭和かよ」


強がるように言ったその隣で、クラスメイトの女子たちがフタを開けたお弁当から、湯気の立った卵焼きを取り出す。甘い匂いがふわっと漂って、リナの胃がぎゅるりと音を立てた。


……うざ。


スマホのカメラを立ち上げて、撮ったばかりの自撮りを加工する。加工して、加工して、さらに加工して──自分が何を隠したいのか、もうわかんなくなってた。



「ただいまー……」


玄関を開けても、返事はない。


母はいつも帰りが遅い。パートと夜の仕事を掛け持ちしてて、最近は顔を合わせる時間も減った。父は……もういない。いつの間にかいなくなった。それを誰も言葉にしない。


キッチンを開けると、冷蔵庫にはヨーグルトひとつ。使いかけのケチャップ。以上。


「ねぇ、お姉ちゃん。カレー、あっためてくれる?」


妹のミク(7)が、ラップに包まれたレトルトカレーを両手で持っていた。ランドセルも下ろさず、制服のまま。リビングにはテレビの音だけが響いてる。


「……いいよ。貸して」


リナがレンジにカレーを入れる間、ミクはじっと足をぶらぶらさせながら待ってた。


「ねえ、また一緒にごはん食べたいな」


ポツリと、ミクが言った。


「……今、食べてんじゃん」


「でも、こうやって、机に並んでさ。リナねえのお弁当とか……食べたいな」


一瞬、息が止まった。


ミクの目はまっすぐだった。あったかいものに触れたときの、あの目。忘れてた。忘れてたくせに、今さら胸が痛いのがムカついた。


「……明日、適当に作っとくわ」


「ほんと!?」


「期待すんなよ?」


リナはソファに顔を埋めて、照れくささをごまかした。



翌朝。


冷蔵庫を開けると、夕飯の残りの鶏肉、賞味期限ぎりぎりの卵、そして乾いたレタスの葉っぱが1枚。


適当に焼いた鶏肉をマヨネーズであえて、スクランブルエッグを作って、ごはんの上に乗せて……。


「まあ、映えれば勝ちでしょ」


派手なピンクのランチボックスに盛りつけて、ハート型のピックを刺した。なんか、それっぽい。


教室でスマホを構える。ハッシュタグは「#ギャル弁」「#友達が作ってくれたらしい」「#かわちぃ」。


──投稿完了。


放課後。いつもどおりスマホを開いたリナの目が、見開かれた。


「えっ……うそ」


いいねの数が、爆速で伸びていた。


500、600、800……。「ギャルなのに料理できるとか天才!」「盛りつけセンスやばい」「どこのカフェですか?!」


リナの指が止まる。頭の中が真っ白になった。


──“ギャル弁”、これってワンチャン、世界変えられるんじゃね?


その夜、リナは久々に笑って眠った。


……ただし、翌日の弁当が“地獄の味”だということを、まだ知らずに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ