増えるピース
章をつけました。第一章は終盤です。
「え? ……冗談……ですよね?」
「いえ、冗談ではありません。実はクライズが殺したという目撃証言がありました。それで先ほど、この蝶を使ってこの家を調べさせました。すると……」
そこで言葉が止まる。
「隣の、クライズの部屋のベットの下にナナ婆を刺した剣があった」
慌ててミレーナに伝える。興奮しすぎて伝え忘れていた。
「するとクライズの部屋と思われる部屋のベットの下で、犯行に使われたと思われる剣が見つかりました」
「クライズの……」
「申し訳ありませんが一緒に確認をお願いします」
「わ、わかりました」
二人はクライズの部屋の前に移動した。扉に手をかけるバラスさんは真っ青な顔をしていて呼吸も荒くなっていた。
「バラスさん?」
「は、はい! 今開けます」
ハッとしたようにバラスさんは扉を開けて部屋に入る。部屋に入った途端、バラスさんの呼吸はさらに荒くなり、目の焦点も定まらなくなった。きっと信じたくないという気持ちと確かめなければいけないという気持ちがぶつかり合い、パニックになっているのだろう。バラスさんの気持ちはよくわかる。でも確認してもらわなければならない。
「……この剣ですね。多少拭いたようですが血がついてますし。この剣について何か知っていますか?」
「……いえ……全く知りません。……本当にこの剣が犯行に使われたものなんですか? ここにあるのも偶然とかじゃないんですか?」
「持ち帰って調べてみないことには断定はできませんが、恐らくこの剣で間違いありません。偶然とも考えにくいです」
バラスさんの藁にもすがるような願いはミレーナの冷徹な声に否定される。
「あ……ああああああ! なんてことだ……クライズ! お前まで……お前まで外道に落ちるなんて!」
バラスさんは泣き崩れ、叫んだ。俺達は同情することはできない。クライズを育てたのはバラスさんだ。バラスさんには責任がある。俺達のできることはただ事実を伝えることだけだ。しかしこれ以上は見るに堪えない。
「バラスさん。この剣は預からせていただきます。それとクライズは私が捕まえます。バラスさんは何もしないでください」
「息子が悪事を働いたことを知ったのに、その後始末もさせてもらえないのですか。ふざけないでください! 私がこの手で捕まえます」
「ダメです。その体でどうやって捕まえるんですか? 逃げられたら困ります」
ミレーナの言葉にバラスさんは黙ってしまう。バラスさんもわかっている。今の自分では捕まえられないということを。ただのわがままだということを。
「それでは失礼します」
崩れ落ちて座りこみ、呆然としているバラスさんを置いて俺達はクライズの家を後にする。バラスさんのためにも必ずクライズを捕まえよう。そう心に決めて。
ほぼ更新通知用のXあります。よろしければプロフィールの方からお願いします。