俺にできること 協力者
すいません! 少し予定が詰まっているため更新頻度が下がります。
呆気に取られていると、若い男が店の中に入ってきた。はっきりと見えたその顔は、先日薬を買いにきた、この都市の衛兵を名乗った男だった。老婆の一人暮らし。そして有名な薬屋。そう考えると盗みを行うには格好の的だ。何もできない俺は、ただ客観的にこの現状を考えることしかできなかった。
「チッ! しけてやがる」
男は剣をしまうと、ひと通り店の中を漁り、薬や金を回収するとそう呟き、八つ当たりをするかのようにナナ婆を蹴っ飛ばして店を出た。蹴られたことで仰向けになったナナ婆の、苦痛に歪んだまま変わらない顔が、だんだんと広がっていく血が、ナナ婆が死んでいることを俺に実感させる。たった一週間の付き合いで、ナナ婆のことは知らないことの方が多いだろうが、ナナ婆はこんな死に方をしていい人じゃないことはわかる。
「あいつは絶対に許さねぇ」
あの男に対する怒りが、何もできなかった自分に対する怒りが俺をそう決心させる。しかし、それと同時に俺はここから出れないことを思い出す。
「はは……俺は無力だな」
全身を蝕む無力感。俺はこのままここで死ぬんだろう。やり場のない怒りを抱えながら、俺はただナナ婆の死体を眺め続けることしかできなかった。
翌日の早朝、近くを通りかかった人がナナ婆の死体を発見して通報した。調査にきた衛兵と様子を見にきた民衆によって店の前はごった返していた。目撃証言もない。犯人につながるような証拠は見つかっていないみたいだ。ふと調査している衛兵の顔を見れば、昨日のあいつも何食わぬ顔で混じっていた。
「……ふざけんな。なんで堂々とここにこれる? お前がやったんじゃねぇか! お前が殺したんじゃねぇか!」
……俺の叫びは誰にも届かない。犯人があいつだと伝えたい。あいつを同じ目に合わせてやりたい。しかし、そんな俺の悲痛な声は、無情にも空に消えてしまう。
「せめてここから……くそ!」
あいつがナナ婆に触れたり、店を調べるたびに昨日よりも強い怒りが、殺意が溢れてやまない。誰にも伝えられないとわかっていても、俺は叫ぶのをやめなかった……やめられなかった。
「なら私に協力して。協力するなら出してあげる」
「なんだってやってやる! だから俺を……は?」
俺は驚いて声のする方を向く。
「だから協力するなら出してあげるって言ってるの。犯人を知ってるんでしょ。犯人を捕まえるのに協力して」
そこには一人の女性が立っていた。彼女はまるで俺の言っていることがわかるような反応をする。
「俺の言っていることがわかるのか?」
「うん」
恐る恐る聞けば、はっきりとした返事が返ってくる。間違いなく俺の言っていることがわかっている! 全身が弾けるような喜びが俺を支配する。
「協力する。協力するから! ここから出してくれ!」
「わかった。私はミレーナ。よろしく」
「俺はサイガ。よろしく。必ずあいつを捕まてくれ」
「うん。わかってる」
力強い返事を聞き、箱の上にある網をどかされた俺は、何とか飛び上がりミレーナの肩に止まる。まだ本調子ではないため飛び続けられない。
「大丈夫?」
「まだあまり飛んでられないんだ。ごめんだけどこのまま止まらせてくれ」
「それはいいけど……犯人は誰なの? あいつって言うなら近くにいるんでしょ?」
「うん。あそこで薬の瓶を確認しているあの男が犯人だ」
「……クライズね……そう……クライズが犯人なのね。証拠はある?」
ミレーナの表情が暗くなった。自分の職場仲間が犯人なんて信じたくないのだろう。
「ごめん……ない。でも、間違いなくあいつだった」
クライズが腰に刺している剣は昨日見た剣よりも長く別物だろう。俺達には証拠がない。犯行を見たのは俺だけだから証明もできない。
「それなら何か証拠を見つけないとね」
「ごめん」
クライズに繋がるものがないか、必死で考える。しかし何も考えつかない。
「ミレーナ。さっきから何をブツブツ言っているんだ? それに肩に蝶が止まっているぞ」
ミレーナの近くにいた責任者であろう女性がミレーナに話しかけながら、俺を払おうと手を伸ばす。
「すいませんサリス団長。少し考え事をしていました。えっと、この蝶は後で外に逃すのでそのままで大丈夫です」
「そうか? それならいいんだが」
ミレーナはサリス団長と呼んだ女性の手にギリギリで気づいてかわし、取り繕って答えた。サリス団長は少し疑問に思ったようだが、そのまま作業に戻っていった。あと少しで俺はサリス団長の手に当たって死んだかもしれなかったため、ずっとヒヤヒヤしていた。
「ふぅ。危ない危ない。私達も何かないか探そう」
「そうだね」
しかし二人で協力して探すが結局何も見つからず、他の人も何も見つけられなかった。