ナナ婆と
セーフです!
「ゴボッ! なんだなんだ!」
いつのまにか奥から戻ってきた老婆に何か液体をかけられる。かけられた瞬間は驚いたが、液体がかかったところは痛みがなくなった。
「効いたようだねぇ。でもまだ飛べないのかい?」
かけられたのはポーションのようだ。かけられたポーションは俺にとってはあまりに大量で、ポーションに浸かってしまっている。しかし欠損した部分は再生しきっておらず、飛ぶことができず、逃げることができなかった。少しでもポーションを減らすために慌てて飲み込む。
「すまないねぇ」
「うぉ!? 離せ!」
全力でポーションを飲んでいると、背後から老婆に羽を掴まれて持ち上げられる。驚いた俺は抵抗したが、すぐに助けてくれたことを理解し、抵抗をやめた。
「花はミル草でいいとして、この箱にしようかねぇ」
老婆は近くにあったミル草の花と共に、俺を小さな箱の中に入れ、網のようなもので蓋をした。ミル草は食事の飾りなどでも使われる、毒などもない黄色い小さい植物だ。蓋は俺が逃げないようにしたのだろう。俺はもうされるがままだ。飛べないし、この網をどかすこともできないだろう。チャンスを待つしかない。
あれからかれこれ一週間この箱の中にいるが、逃げ出すチャンスがなかなか見つからない。この一週間、毎日花は変えられ、ポーションも別に与えられる。おかげで餓死もしないし、羽や足もあらかた再生することができた。老婆はナナミスといい、お客さんからナナ婆と呼ばれている。ナナ婆はこの貿易都市トトリアで様々な植物、薬の販売を行っているみたいだ。ナナ婆の薬は有名なようで、街の人や衛兵、旅人がよく買いに来ていた。旦那には先立たれ、娘が一人いるが別の場所に住んでいるようで、一人で暮らしている。そのため店を閉めてから俺によく話しかけていた。まぁおかげで色々知れたんだけどな。
今日も夜になっため、ナナ婆は店を閉めた。店の前も人通りが急に少なくなり、物静かだった。
「儂の娘はねぇ、衛兵になってこの都市を守ってくれているんだよ。娘に会いたいけど、滅多に休みがないようでなかなか帰ってこないんだ」
最近はこの話ばかり続いている。やはり寂しいのだろう。俺は話すことができないから、ただ聞くことしかできない。ナナ婆は俺みたいな蝶一匹に対して手厚く世話をしてくれている優しい人だからこそ、俺は何もできないことにもどかしさを感じる。何かしてやりたい。せめて相槌を打ちたい。そんな気持ちが湧く。
「娘は珍しいスキルを持っていて、そのスキルがどうやらかなり優秀で、隊の中で何度も表彰されているらしくてねぇ。まったく誇らしいよ」
「ハアハア、すいません! ナナ婆さん! 開けてください!」
ナナ婆が娘の話をしていると、外から焦った若い男が呼ぶ声が聞こえてきた。ナナ婆は落ち着いた様子で立ち上がると、店を開けた。
「どうしたんだい? ぐふ!」
「……開けてくれてありがとうございます。そして、死ね」
「……どうし……て……なん……だ……い」
そう言ってナナ婆は倒れた。俺の目からは終始異様な光景だった。ナナ婆が店を開けて話しかけた途端、若い男に剣でお腹を貫かれて倒れ、動かなくなった。