俺って今ヤバい?
なんとか時間がありました。
「……つまり花の効果を得られるってことか……食事強化ってそういうことかよ」
レシア花で毒の粉、シビレ花でシビレ粉、薬草の花で治癒の粉のスキルを得たということだ。花の種類によって得られるスキルも違うし、LV1ということは食べ続ければきっとレベルも上がるのだろう。
「どうやれば使えるんだ? シビレ粉! とか言えばいいのか? まあ声は出ないけど」
とりあえず念じてみる。すると羽から微細な黄色い粉が出た。多分これがシビレ粉なんだろう。なんだか魔力も減った気がするし、間違いない。同様に毒の粉、治癒の粉と念じてみれば、紫色の粉、白い粉がそれぞれ羽から出た。
「LV1だからそんなに効果はないだろうけど、これは使えるな」
念じるのをやめれば粉は出なくなった。俺には捕食者が至る所にいるから、対抗策として活用できるだろう。魔力は半分くらいまで使ってしまったが、まぁ大丈夫だ。
ヒラヒラと飛び立ち、新しい花がないか探す。しかし蝶の捕食者として有名なのは何だったか。トカゲ、クモ、猫とかだったかな。考えながら飛んでいると屋根の上のハトと目が合った。
「そうそう。鳥は素早いから特に警戒しなきゃ……」
一瞬時が止まった気がした。俺は一目散に逃げ出した。それと同時にハトも羽ばたいて追ってくる。まずいまずいまずい……まずい! ハト飛ぶ速度は俺が全速力で飛ぶよりも圧倒的に速い。俺との距離はグングン縮まってしまっている。どこか隠れなければ……
「あそこだ!」
ハトに捕まるギリギリで急カーブして避け、なんとか近くの店の中に入る。ハトは店の中には入ってこないはずだ! 俺の読み通りハトは店の前で止まりしばらく羽ばたいていたが、すぐに飛び去っていった。
「あぶねぇぇぇ。助かったぁ」
できる限り店の奥に入って身を潜めていた俺は、ハトがいなくなったのを見て安堵してフラフラと入り口に向かって飛んで行く。あと少し遅れていたら食べられていた。
「いや――よかった……あ」
ハトから逃れてホッとしていた手前、警戒を怠ってしまい、蜘蛛の巣に引っかかってしまった。慌てて暴れて巣から逃れようとするが、簡単には外れそうにない。そうこうしているうちに巣の主であるアリクモがやってきた。
「次から次へとなんなんだよ」
アリクモはこういった建物に巣を作る、よくいるクモだ。サイズは小さいが俺からすれば十分巨大なクモだ。そのアリクモがゆっくりと俺に近づいてくる。
一生懸命暴れるが、相変わらず巣から取れる様子がない。このままだと食べられる! 毒の粉! シビレ粉! 俺は羽から毒の粉とシビレ粉を全力で出す。しかし出した粉はすべて巣にくっついてしまい、アリクモには届かなかった。やがて俺の魔力が尽きてしまい、スキルを使えなくなってしまった。
「こんなんで死ぬのかよ……ハハ」
俺は暴れるのをやめた。もうどうしようもないからだ。アリクモの足が俺に触れる。あぁ、食べられるんだ。せめてさっさと殺してくれ……そう思って目を閉じる。
しかしアリクモの足がそれ以上伸びてくることがはなかった。それどころか俺の体に触れている足の感触がなくなった。不思議に思ってゆっくり目を開けると、アリクモは地面に落ちてピクピクしていた。
「セーフ!」
俺に近づいたことで毒の粉かシビレ粉を吸ったようだ。LV1でも案外効果があったため助かった。マジでギリギリだった。安堵した俺は危機が去ったことだし、巣から逃れるために再度暴れる。しかし片方の羽だけがしっかりとくっついてしまい、全然取れなかった。
「これじゃあ意味がないじゃんか……はぁ」
アリクモからなんとか逃げられたのに結局このまま死ぬのか。もう疲れた。希望がないなら抵抗する気力もない。
「おや? 可哀想に。取れなくなったんだねぇ」
力なく巣にくっついていると、奥から老婆がやってきた。助けてくれるのだろう。老婆を信じて何もしない。
「痛ぇぇぇ!」
老婆は慎重に俺の体に手を伸ばして巣から取ってくれるが、その際に何本かの足が折れたり、羽がちぎれてしまった。人間で言う手足がちぎれるのと同じようだ。感じたことのない痛みに暴れる。
「すまないねぇ。ちょっと待ってな」
老婆は俺をテーブルにそっと置いてまた部屋の奥に入っていった。痛みでのたうち回る俺には老婆が何をしようとしているかを考える余裕がなく、飛んで逃げることもできなかった。ただ老婆が戻ってくるのを待つことしかできなかった。
お次は明日か明後日には出します。