第53話 ふぅん。へぇ。ほぉ。
レイラの家を後にした宰吾とアイザックは、ひとまずコスモの家に戻ることにした。
例の部屋で宰吾はアイザックとふたり、話し合う。
「情報と言えば、ルーナが若い姿のまま体感二〇〇年以上、取り残されてるってくらいかな」
宰吾は顎に手を当て、その少ない情報を吟味する。
「それも、憶測に過ぎねぇがな。それより、レイラの様子の方が気にならなかったか?」
アイザックが自分と同じ違和感を覚えていたことに、宰吾は驚く。
「アイザックも感じたのか……気のせいだろうと思って置いておいたんだけど……」
「バカ。人から情報を聞き出すときは言葉以外の部分にも何かあるって考えるのが常識だろ。それとも、サイゴの世界では違うってのか?」
ため息交じりの声でアイザックは言った。
「……いや、お前の言う通りだな。ただ、あの表情は――」
「何か隠してる感じに思えたぜ。または、言い出せずにいるとか」
自分の意見を率直に言える姿勢に、宰吾はアイザックを素直に尊敬した。というのを本人に直接言うことのできない自分の中の羞恥心を恥じる宰吾だった。
何か、言い出せずにいる……?
一体何を、そしてなぜ言えないのだろうか。
「今の材料じゃ、何も分かりっこねぇだろうな。また明日、話聞きに行くか?」
そう連日押しかけてもいいものなのだろうか。
いや、そんな悠長なこと言ってられないかもしれない。ルーナを助けると言った。二〇〇年以上待っている彼女を、これ以上待たせるわけにはいかない。
「……そうだな、そうしよう」
「何をそうするって?」
背後からよく通る声が響いた。大変聞き覚えがある。
「コスモさん、戻ったんですか」
音もなく、いつの間に部屋に入ってきていたコスモは、にこやかな表情で佇んでいた。
「今だよ。盗み聞きなんかしてないから安心したまえ。ただ、協力関係を結んでいる以上、隠し事なんかされちゃあ困るけれどね」
なんだその言い回しは、と宰吾はツッコみたかったが、この男にその手のツッコミをしていたらキリがないと思い、口を噤んだ。
「ルーナについて知っている女性に話を聞いてきたんだ。そしたら何っか訳知り顔でよ。明日また聞き込みにいこうかって……な?」
宰吾の代わりにアイザックがさらっと答えた。
「あれ? 私はリジェくんについて聞き込みをしてきてほしいと頼んだような気がするけれど」
気のせいか、コスモの声色が変わったような気がした。
いや、言ったことを違うことをされたら多少難色を示すのも無理はないが、この男がすると妙に意味ありげに感じられてならない。
「リジェについては……コスモさんに任せようと思ったんです。だって、どうせルーナについては動いてくれるつもりないでしょう?」
宰吾は思い切って言ってみた。嘘はない。コスモはルーナが生きていることさえ信じていないのだ。だったら、ルーナについてはこちらでやるしかない。
「ふぅん。へぇ。ほぉ。まぁ、いいけど。何も出てこないと思うけどね。この大魔法使いコスモ・クラークが言うんだ。間違いない」
なんだ? 拗ねてるのか?
宰吾はコスモの妙な態度に困惑した。
すごい肩書だからこれまで命令を無視されたことなんてなかったのだろうか。それにしても態度が子供じみているけれど。
「大魔法使いコスモ・クラークさんよぉ、ちょっと自分の意見を曲げられただけで、だせぇぞ?」
アイザックがにやけながらコスモの肩に手を置いた。
「……まさかキミにそんなことを言われるとはね。失礼、醜態を晒した。分かった、好きにしたまえ。リジェくんの件も概ね私ひとりでどうにかなりそうな感じなんだ。最後の方だけ二人に手伝ってもらえればね」
「! リジェの方も何か分かったんですか!?」
宰吾は身を乗り出し、コスモに問う。
「まぁまぁそう焦るなって。ちょっとした情報だよ。あまり期待しすぎないことだ」
そう前置きして、コスモは二人の前に腰かけた。
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