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第30話 情緒ジェットコースター

「はぁ???」


 宰吾の勇気ある告白は、その一言で蹴飛ばされてしまった。ルーナのはた迷惑そうな表情が凄まじい。


「変な冗談か妄想か知らないけど、そういうことに私を巻き込むのはやめてほしいわ」


「い、いや、冗談ではなく本当に――ってか、“神”の声、キミも聞いたんじゃないのか?」


 そうだ。あの自称“神”が世界同士を争わせたいなら、きっと他の世界の住人にも同じことを言っているはず。だが……。


「……神? ヴァニシス様のこと?」


「誰それ」


 ルーナはまるで人ではない何かを見るような目で宰吾を見た。驚きと軽蔑と哀れみが入り混じったその表情は、宰吾の心を深く突き刺す。


「サイゴ。本気で言ってるの? この世界を創造された唯一神ヴァニシス様よ。そこら中に教会もあるし世界一発行されてる聖書にも記されているっていうのに……」


「だから言ってるだろ! 俺は異世界からやってきたんだって! 知らないに決まってるよ他の世界の神様のことなんて……」


 ヴァニシスって……こちらで言うキリストとかそんな感じの立ち位置なのか?

 だとしたら、信者からしたらこんな反応もされるだろう、と宰吾は納得した。


「信じられない……いや、むしろあなたがこの世界の人間じゃないことを信じざるを得ないかもしれないわ……」


「だろ!? 俺はこの世界の人間じゃ――」


「皮肉を真に受けんな」


 ぴしゃりと言われてしまった。これは全く信じてもらえていない……。


「はぁああああ、ひっさしぶりに人に会えたと思ったら狂人だった……」


 ルーナは長い溜息を吐きつつ、高級そうなソファに仰け反った。高い天井を見上げ、長い三つ編みを弄繰り回す。


「こんな奴と死ぬまでここで一緒とか最悪……」


 何か物騒なことを呟いているな、と宰吾はルーナを横目で眺めた。

 それよりもこの状況、なんとかしないと――って、


「死ぬまで!?」


 今そういったよな!? 聞き流しそうになったけど!?

 と宰吾は己の耳を疑いながら、ソファの上で伸びるチビ魔女に詰め寄った。


「そう死ぬまで! だってこの部屋、絶対に外に出られない呪いが掛けられてるんだもの」


「は……?」


 宰吾は一瞬、何も考えられなくなった。まるで自分の脳みそだけ時間が停止してしまったかのようで、間抜けな顔のまま虚空を見つめる。


「私、ここにずっと閉じ込められてるの。あらゆる魔法を試したけど外に出られなかったわ」


 ルーナは平然と言った。


「そ、それって……俺はもう一生この部屋から出られないってこと?」


 ルーナは宰吾のことを見ることなく「そう」と頷く。

 最悪だ。やっとここまで来たのに。神殺し(ジャイアントキリング)作戦は、失敗……? 何か打開策はないのか?

 先ほどまで止まっていた宰吾の頭の中に、ダムが決壊したみたいに泥水みたいな思考が流れ込む。護国寺やアリーからの信頼、シェパに任されたリジェの行方、そして、美蕾――。

 頭を抱え込み項垂れる宰吾を哀れみの目で見るルーナは、自嘲気味に笑ってこう付け加えた。


「まあ、厳密には外に出られない呪いじゃなくて『外に出たら死ぬ呪い』なんだけどね」


 それを聞いた宰吾は、ハッと顔を上げる。


「それ、本当に?」


 先ほどまでの絶望顔が嘘のような宰吾を、ルーナは訝しげに見る。


「え、ええ。そうだけど。毎日この部屋のことは調べてたから間違いないわ」


 全身の力が抜けた。

 宰吾は、まるでジェットコースターみたいな情緒の上がり下がりに、思わず床に倒れこむ。


「よ、よかった……なら大丈夫そうだ……」


 そんな宰吾の姿を見て、ルーナは不機嫌そうに訊く。


「なんでそうなるのよ。外に出だら死ぬのよ? だったら、ここに居続けるしかないじゃない」


 死ぬなら、生き返ればいいだけだ。

 宰吾は、この日ほど己の能力をありがたいと思ったことはなかった。だから、何も考えずにこんなことを口走ってしまったのかもしれない。目の前の、二五八歳の女の子に。


「俺の能力は不死身だから、今すぐにでもここから出られるってことだよ!」


 それを聞いた彼女の顔は――。

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