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第20話 自己犠牲と無謀

「……シェパ、冷静になれ。いくら君でもこんな状況で無事にリジェを見つけて帰還できるとは思えない」


 猪巻の言葉に、シェパは下唇を噛んだ。


「でも、それでもリジェは……リジェは僕にとって家族みたいなものなんです。こんなところで帰るなんて、できません。いや、家族かどうかなんて関係ない。ここで人を見捨てるなんて、ヒーローじゃない」


 その言葉は、宰吾の記憶を呼び起させた。今日はよく思い出す。あの日イケブクロで自分たちを見捨てた、あのヒーローどもを。


「シェパ。ときにヒーローには自己犠牲を選択するときが来るのかもしれない。だが、今はそのときじゃない。君がやろうとしているのはただの“無謀”だ。違うか?」


 シェパの方を見る。

 悔しさと、怒りと、悲しみでぐしゃぐしゃになったその表情は、まるでかつての自分自身を見ているようだった。飼い主を見失った飼い犬か、はたまた我が子をさらわれた親犬か、泥臭く気高いその様は、宰吾を奮い立たせるには十分だった。


「じゃあ」


 宰吾は立ち上がった。洞穴内が俯瞰で見え、皆の表情と、そして横たわる遺体が視界に入る。背けたくなった。だけど、今はそうしない。


「俺がリジェを探します。シェパみたいに耳や鼻は利かないけど、その代わりに死ぬことはない。誰も犠牲になる可能性がなければ、無謀ではないですよね? どうせ元の作戦のために進まなければいけないんですから」


「いや、しかし――」


 猪巻は言葉を詰まらせる。何を言おうか考えているみたいだった。


「シェパ。どうだ? 俺に任せてくれないか?」


 思いもよらないことだったのか、シェパは少し困惑しているようだった。

 いつの間にか雨は上がり、洞穴内に静寂が落ちる。


「……あ、えっと」


「しかし、いくら不死身だと言っても、こんな……人ひとりの人権を粗末に扱うような真似――」


 猪巻はシェパの言葉を遮り、狼狽えながら言う。それに対し、アリーが反論した。


「そもそもこの神殺し作戦が宰吾くんの能力ありきのものです。彼は数多の恐怖や死が己に降りかかることを了承してここにいます。その点では、猪巻隊長の言うことは問題ではありません。それより私が心配なのは、まだ実験が途中だってことで……」


 アリーは宰吾の左腕に付けられた機械を見た。宰吾は、たった今この機械が取り付けられたままだったことに気が付いた。てっきり戦闘中に外れてしまっていたと思っていた。


「あー、それなら多分大丈夫です。これ」


 宰吾は左腕をアリーに差し出した。

 アリーはそれの液晶画面を少し触り、そして目を丸くさせた。


「ちょ、嘘でしょ……!? 今、履歴を開いてみたんだけど……宰吾くんがスライムたちの囮になった後の数値……桁違いなのが何度も……!」


「なに?」


 猪巻が身を乗り出し、画面を覗く。シェパも同じく興味を持ったようだ。


「おい待て。たしかジャスティスの超エネの最高記録が八〇七〇だったな?」


 過去にG.O.Tが発表した実験結果では、ジャスティスのその数値が登録ヒーローの中で最高だった。

 が、宰吾の左腕に取り付けられた機械には――。


「信じられない……! 一万二〇〇〇台の数値が三度も……それ以外にも三〇〇〇~七〇〇〇もの数値が八十回も記録されいるじゃないか……!」


 その場にいる全員が、宰吾を見る。

 宰吾も流石にこの結果は予想外で、ただただ固まるしかなかった。

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