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第三話

 主人公は結構普通の人間です。決して主人公向きの性格ではなく、人に嫌味も言うし、馬鹿にする態度もとります。一貫して帰ろうとする態度だけは変えないのですが、それ以外はもしかしたら、あなたの友人や、あなた自身の性格に近いかもしれませんね。

 転移された日をゼロ日として、二日目。朝食をとっていると、周りのやつらがソワソワしていた。転移された人数はクラス全員ではなく、数名欠席、遅刻のためか転移を免れたらしく、合計で44名だった。もちろんクラス内には男子、女子どちらもいるが、そのうちの半数以上が昨日の夜にメイドさんか執事さんに手を出した、出されたのだろう。だが、誰も講義をしていない以上同意の上だったのだろう。

 まあ、確かに今のところこの国の人はイケメン、美女が多い。多分、司書のじいさんもイケオジ的なダンディーさがある。


「昨日大木が言ってた色仕掛け的なの、引っ掛かったやつ多そうだな」

「な~」

「お前らも引っ掛かるなよ?なんかあったらすぐ逃げろ」


 さて、今日も俺は図書室に向かう。一回訓練場を経由しているため周りのクラスメイトから不審な目で見られているが、そんなことを気にしていたら情報も集められない。できる限り一緒に行動をとれそうなやつらを探してはいるものの、今のところ元の世界に帰るために~って話をできそうなやつは見当たらない。

 クラスメイトとは言っても、一年クラスを共にしたうえで名前すら憶えていないやつもいる。実際関わりの少ないやつとかはお互いに名前も知らないんだからしょうがない。てか、よっぽど悪目立ちするか、何かしらで興味を惹かれない限り話すこともないし。


 にしても、魔力のコントロールに関する書物は、やっぱり役に立たなそうだ。日本で生活していた人間に、いきなり目に見えない風の流れをコントロールしろなんて不可能だろう。だから、あえて見ないことにした。変に先入観を持って訓練をしてしまったら、魔法を使うことができなくなりそうだ。そうじゃなくても時間を駆けたくないというのに・・・


「お前さん、昨日言ってた時空間魔法だったか?一応、引っ掛かった本は一冊見つけておいたぞ」

「本当ですか!ありがとうございます!」


 そういって渡された本は、この国ができたころに記されたと言われる古い本だった。端のほうは擦り切れており、下手に扱うと壊してしまいそうだ・・・慎重に読もう。


「・・・マジかよ」


 記されていた内容に、無意識に声を出してしまう。この内容は、確かに時空間魔法だ。だが・・・ふざけるなよ?おそらく唯一この魔法について記された本の内容が・・・「時空間魔法は、伝説上の魔法であり、空間魔法の上位互換ではある物の、今後一切使用者は現れないだろう」というものだった。この本を書いた人間は、勇者が持つ空間魔法を見たうえで、ほかの勇者が持っていた時空魔法というものを掛け合わせ、合体魔法としての時空間魔法を観測した。つまり、空間・時空と別々の内容を一つにまとめたのが時空間魔法であり、どちらもレアな能力のため二つがそろうことはない、と結論付けたのだろう。しかし、俺は単独でこの魔法を持っている。この本を書いた人の言っていることは残念ながら当たらなかったのだ。

 しかし・・・過去の勇者は空間魔法でどう戦闘したんだ?時空魔法を使って何をしたのか?そういった内容は書かれていない。できれば一番知りたかったのだが・・・下手をしたら、俺は今後戦闘にあまり参加できないかもしれない。せいぜいが荷物持ちとか、サポート枠に入るのがせいぜいか・・・


「あ、勇者の事も書かれているので、この国の歴史とかもできれば知りたいんですけど・・・」

「歴史・・・まあ、良いだろう」


 渡された本をパラパラと読む。歴史というより、自国語りに近いだろうか。やれ○○の国を傘下に収めた、やれ○○という者が新たな魔法を作り出し戦争に貢献しただの。ぶっちゃけそういうのを見たいのではない。俺が見たいのは、勇者と魔王についての記述である。できれば、勇者の戦闘に関する記述があればなお良しなのだが・・・見当たらない。勇者が呼び出されたという内容はあるのだが、その勇者についてはほとんど何も書かれていない。なぜだ?勇者が活躍したら、その功績は国のものになる。であればさっきまでの歴史の書き方的に堂々と描かれていてもおかしくはないと思うのだが・・・


 そうそう、俺は本を読みながら、少し休憩しつつ魔力のコントロール練習をしている。本を読んだ後は集中力も高まっているし、休憩時間もしっかりと訓練として有効活用するのだ。そうすれば、早いうちに時空間魔法が使えるようになって、何かしら役に立つかもしれない。そう思って頑張るのだが・・・

 全然魔力を感知できない。俺に才能がないのか、それとももっと根本的なところで何かを間違っているのか?その答えもないため、まずはひたすら魔力を感じ取ろうと頑張ってみるしかない。


「ありがとうございました」

「今日はもういいのか?」

「まあ、一応俺も勇者として戦闘の訓練もしないといけないし、クラス・・・ほかの勇者たちからなんか言われたくないんで」

「そうか」

「今日からは、午前中にここに、午後は戦闘訓練にって感じで行動します。またなにかあったらお願いします」


 そう伝えると、騎士の人に連れられて訓練場に戻る。しかし、俺は思い出した。この世界に来る前、俺は一切運動をしていない。なんだったら、大学の階段を上るだけで若干息が上がるぐらいには体力がない。そんな人間がいきなり軍の訓練的なものに参加したらどうなるか。死ぬかもしれん。


「あの、みんなはどんな訓練を?」

「まずは基礎的な部分ですな。どの騎士もやはり体力、精神力がなければ戦場には立てません。ですので、皆さんも一緒にそういった訓練をしてもらいます」

「ついていけなかったら・・・」

「騎士団長にどやされながら無理やり走らされるでしょうな」


 死ぬ~!絶対死ぬ!短距離走はまだしも、長距離走は大の苦手だ。正直、訓練に参加しなかったのはそういった部分もあるのだが、いつまでも逃げられない。てか、昨日の感じだと西宮とか張野とか、全然疲れてなさそうだったんだけど・・・特に張野なんて、少しでも疲れたらまともに会話が成り立たないぐらいグデグデになるのになっていなかったのは不思議だ。


「お、大木も来たか」

「流石にずっと図書室にこもってるのはな」

「それもそうか。それより、お前は武器どうすんの?俺は長剣にしたけど」

「魔法も使うのに長剣?」

「魔法剣士ってあこがれるだろ?」

「そうか・・・なら俺は短剣かな。基本的に前に出るのは合わないし、素早さを生かしたヒット&アウェイに徹するのが一番だろ」

「いいな!立場的にゲームだと盗賊(シーフ)か?」

「いいな!」


 休憩時間も終わり、俺はいやいや立ち上がり訓練に参加する。さっきまでの会話で半分現実逃避していたが、無理やり現実を見させられる。周りには10名近いクラスメイト。中には昨日の晩飯時に騒いでいたやつらもいる。あいつら運動できたのか~と思っていたらが、おそらくこれは・・・


「西宮、俺ってこんなに走れたことないんだけど?」

「お前もか。昨日走って俺も思ったんだが、多分あれだな。勇者として呼ばれたから何かしらバフが付いてるのか、この世界と俺たちのいた世界とで力の差があるのか・・・どっちかわからんが俺たちの体力とかはこの世界の人たちの基礎を大きく上回ってんだろうな。張野にも聞いたが、近接戦闘特化で訓練してるやつらは顕著に力の差が現れてるらしい」

「まじか・・・さっきまで緊張してたのに、なんか拍子抜けだな」

「それでも、しっかり訓練するのはいいと思うぞ?元の世界じゃ、大学入ってから運動なんてほとんどしてなかったし」


 そう話しながら走っていると、一周差をつけた一人が話しかけてきた。


「二人とも、もっと真剣に走ったら?」

「「・・・・・・」」


 俺たちはつい、黙ってしまった。声のほうに目を向けると、若干小太りの男がいた。さっき話した昨日の晩飯時に騒いでいた一人、確か名前が・・・いし、石なんとか。あれ?なんだっけ?

 てか、なんで急に話しかけてきたんだ?確かに俺たちは話しながら走っているが、決して遅いほうではない。こいつと一緒に騒いでいたもう一人、あいつは覚えている。市井(いちい)だ。あいつは必死に走って俺たちより遅い。よく下を見るな、上を見ろとは言われたものの、俺は今日が訓練初参加なのでどれだけ運動できるかわからなかったので様子見をしていたのだ。


「え~と、急にどうした?」

「いや、二人ともそんなに余裕こいてダイジョブなの?」

「そういわれても・・・」


 こいつ、会話下手か?要件も言わないし、いきなりそんな高圧的に話しかけられて『ハイ分かりました』っていうやついるか?西宮も黙っちゃったし。こいつ、会話丸投げする気だな?


「そっちこそ、俺たちみたいなのに絡んでていいの?結構本気で訓練参加してるみたいだし、変に目を付けられるようなことしないほうがいいんじゃない?」

「それは・・・そうだけど」


 まじでなんなのこいつ?あれか?運動ができるようになって少し調子に乗っちゃった系か?だとしたら、小物感がすごい。マンガとかで三下枠だな。もしくは当て馬か。


「そ、そっちこそ!昨日は一日どっか行ってたし、今日も午前中さぼってただろ!人のこと言えないだろ!」

「はぁ・・・まあ、サボってたわけじゃないけど、そう見えたんならそうなんだろうな」

「~~~~!」


 言葉にならない憤りを覚えたのか、そのまま走り去ってしまう。何だったんだあいつ?


「大木、お前よく変に言い返さなかったな」

「ああいう輩にはまともに関わっちゃダメなんだ。適当に流して、言葉の矛盾点指摘して、勝手に怒ってどっかにいくのを待つ。これが俺の編み出したやばいやつ撃退法だ」

「おまえ、結構ああいう面倒な輩にからまれるの多かったしな」

「もともと、ゲームとかもするオタクがそこそこ人とかかわり持っていろんなところに行って、充実してるのを見せちゃってたからな。言っちゃえば、同じ陰キャが陽キャと行動して、調子乗ってるって思われてんだろ」

「なんか、闇だな」


 実際、大学には女性の知り合いもいるし、サークルに入っていたおかげで充実した毎日を送っていた。そういった話をクラスで西宮達に話すこともあったし、もしかしたらそういった会話を盗み聞きされていたのだろう。ああいうタイプは、そういった変なところで急に敵視しだすし、その対処法も確立している。要は、嫌われればいいんだ。あいつには関わらないようにしたいって思わせるのが一番だ。そうすれば、向こうから勝手に離れていく。


「にしても、気合入ってんなぁ石・・・石なんとか」

「それな。なんであんなに気合入ってんだろうな」

「多分あれだろ、異世界来て俺が勇者だ!って勢いで空回りしてんだろ。だってこの訓練、別に速さを見てるわけじゃないだろ?多分、指定された分をしっかり走り切れる根性的なの見られてると思うんだよ。結局、変わらない景色の中でずっと走るのって気が滅入るし」


 俺の言葉が聞こえたのか、スタート地点に立っていた騎士団長が全員を止める。やっと止まったと喜んでいた市井はその場に倒れ込んだし、石・・・なんとかは不満そうに市井に肩を貸していた。


「確か、大木といったか?」

「はい!」

「なぜ、先ほどの発言をした?」

「先ほどの発言というと、根性を図るものだと思うってやつですか?」

「そうだ」


 こえ~。けど、下手に臆したら負けだ。多分、ここでアピールできれば騎士団長に一目置かれかもしれない。てか、今更ながらなんでこの人俺のつぶやきが聞こえたの?あれか?強くなるとそういった部分も超人的になれるのか?だとしたら、下手なことは言えないんだけど・・・


「最初は、そこにいる騎士さんに聞いた感じだと体力量を図るんだと思ってました。でも、これは体力じゃなくて精神力のほうを鍛えるものじゃないかなって思ったんです。もともと、体力測定ってものが俺たちの国の学校にはありまして、そこだと指定された距離をどれぐらいの時間で走り切れるかってものだったんですが、ここでは一切そういった気配もなく、ただひたすら走らされていたので、そうなんじゃないかな~って思っただけです」

「そうか・・・ふむ、その通りだ。素晴らしい着眼点だな」

「ありがとうございます」

「正直、すでに初日で数名がここでの訓練ではなく魔法特化の訓練に移った時点で勇者たちの精神力はたかが知れていると思っていた。近接特化組も残っている勇者は与えられた力によって底上げした仮初の力を振り回しているものが多い。まあ、一部そうではないものもいるのだが。それはいいとして、そうか、そっちの世界にはそういった訓練があったのか」

「訓練というか、学業の一環ですね。俺たちのいた世界は争いがないので平和で、学校で体を動かす授業があるんです。特に文武両道を謡う学校は多くて、基本すべての学校でそういった授業があったんですよ」


 騎士団長は俺の言葉に感心したのか、面白がっていた。さて、さっきから視線が痛い。どう考えても石何とか君だ。あと、その隣の市井もだろうか。若干息をあげながらこっちを見ている。てか、あいつこっちの世界に来る前はどんだけ貧弱だったんだよ!俺ですら余裕持って走れたのに、あんなに息上がることあるか?


「ちなみに、私が見ていた限り大木の言った真理に近い行動を行っていた者はこちらで確認を取っている。今から名前を呼ぶものは、私が直々に訓練を行う。まあ、いやだという者は読み上げた後行ってくれ。では、読み上げるぞ」


 読み上げられたのは、俺と西宮、それと女子が一名と俺とかかわりのない男子一人。合計四名だけ。マジで?流石に少なすぎない?と思っていたが、10人いるかいないかぐらいの訓練で考えると、半分ぐらいだしおかしくはないか?


「拒否する者はいないな?では、今呼んだ4名はこちらに来るように。それ以外は、ここにいる者の指示を聞き、訓練を開始してくれ」


 指さす先には俺を連れてきてくれた騎士の人が。あの人、結構高い地位の人だったのかな?まあ、あんまり関わることもないし、名前を聞いたところで覚えられるかどうか。俺は名前を覚えるのが苦手なので、仕方ない仕方ない。


「さて、こちらでは近接特化組、魔法特化組からも私が選出した者たちを集めている。すでに教室にはお前たちを含めて23名の勇者がいる」

「勇者の半数って感じですか。呼ばれていない勇者はどうするんですか?」


 話しかけるのは呼び出された女子。確か・・・宮野(みやの)さんだっけ?やっぱり名前は覚えられない。確か宮野さんだったはず。


「ほかの勇者にはお前たちのサポートをしてもらう。メイン戦力とサブ戦力とに分けることで、戦闘訓練をよりやりやすくしている。お前たちはみな戦闘などしたことがないからな。全員に一から教えるより、強くなると見込みのあるものを強くし、そうでないものはゆっくりと。そうするべきだと王女様からのお達しだ」

「なるほど、わかりました」


 あの王女の考えか・・・張野がめっちゃ嘘ついてるって言ってたし、なんか考えがあるのかな。


「ここだ」

「お!張野じゃん!」

「大木~、西宮~。二人も呼ばれたんだね」

「まあな。そっちも呼ばれたんか」

「なんか、一番強いとか言われた~」

「こっちは大木が訓練の意図を読み取ったって」

「さっすが~」

「それほどでも」


 開いている席に座る。ほかにも何人か、関わりをもったことのあるやつらもいるが、この三人がここで集まれたのはよかった。特に張野が一人になる状況を作らなくてよかった。


「ここでは、戦闘訓練とは別に、戦術についても学んでもらう。特に今後、魔物や魔王配下の魔族などとも戦ってもらう。そのための訓練も含めた座学だ」


 魔王に魔族、魔物ねぇ。いかにも異世界物の定番だが、果たしてこの国の人間の言葉だけを聞いていいものか。魔王って、いかにも悪党の代名詞だが最近の作品では悪役ではないパターンもある。今回の魔王との戦争が、どちらが火種で、どちらが悪かわからない以上国の言葉を鵜吞みにするのはあまりよろしくないだろうな。ただ、これを公に国の人間の前で口にすれば、警戒心を強められるのもまた事実。どう行動したもんか。


「まずはこちら、宮廷魔法使いのミザリー殿だ。彼女から魔法の使い方、魔法を使った戦術を学ぶ。次に私から近接格闘、武器術の戦術を教え、おおよそモノにできたと判断したら魔物の討伐を行う。ただ、魔物の討伐までは相当時間がかかるだろうな」


 挑発するようなその言葉に反応したのは数名。ほかは、『そりゃそうだろ』といった表情を浮かべていた。やっぱり、どこか漫画や小説に近い流れだ。テンプレと言ってもいい。だが、おかげでこちらも行動の対策が立てやすい。あと、実際に魔法を使う場面を見れるのはありがたい。


「いきなりですが、勇者には魔力適正があります。これは、あなた方の能力を確認した時点で同時に確認しましたが、ほぼすべての勇者が各種属性への適性を有しています」


 さて、ここからは俺がノートにまとめた内容をさらに分かりやすく張野に教える。こいつ、ミザリー先生の話を一切聞かずに寝続けやがった。なんでも午前中の訓練で騎士団長に一戦させられ、全力で戦ったせいで疲れたらしい。


 魔力とは、そういった部分は俺が本で読んだ内容と同じだった。てか、あの本書いた人ミザリー先生だった。そりゃ、おんなじ説明するよな。

 魔力には、3つの属性がある。火、水、草。ポ〇モンの御三家と一緒だな。だが、それ以外はないらしい。西宮も、赤、青、緑の魔力の流れを見ているため正しいのだろう。おそらく、その他の属性は俺の時空間魔法のような特殊な場合のみ手に入るのだろう。雷魔法とか、勇者っぽくて使いたかったんだけどな。まあ、俺がほかの属性を使えたらってところからなんだが、それはやってみなければわからない。

 それぞれの魔法にはまあ、お約束の相性がある。説明する必要ある?まあ、一応しておこう。火は草に、草は水に、水は火に。そのまんまだなぁと思っているのは俺だけではないのだろう、うなずいていたやつらが何人かいた。


 そして、空間に流れる魔力は基本無くならない。よほど大きな魔法を使ったとしても、魔力→魔法→魔力といった循環を経て、世界中を循環する。これ、変換効率とかどうなってんだ?100%の変換効率だとしたら、相当夢のあるエネルギーだよな。それはさておき、故に魔力とは決してなくならない。であれば、魔法使いって最強じゃね?と思うだろう。俺もそう思った。しかし、そうはいかないのが世界の理。魔法を使うと、相当体力を消耗するらしい。なんでも、魔力が人体を通り、魔法の発動者を触媒として魔法が顕現する。そのさい、体力を吸われるらしい。

 故に、魔法使いも体力をつける必要があるとのこと。それを聞いたほかのやつらはみんな『え~』といった反応をしていた。まあ、魔法使いっていえば後方支援で前に出ることはないってイメージだし、その反応も正しいだろう。ただ、体力さえあれば魔力の枯渇っていう現象なしで魔法を連打できるのはロマンだ。西宮も俺の考えに同意らしく、バンバン魔法を使いたいから体力訓練への参加を意欲的に考えているらしい。


 これが、この世界の魔法。なんとも、俺たちの考える魔法とはかけ離れたものだ。ここまでの説明を何度か寝落ちしながら聞いている張野を、俺はベットから落とした。授業は本日のみ魔法だけで、明日からは騎士団長の戦闘訓練も組み込まれるらしい。俺はまだちゃんとした戦闘訓練を受けたことがないので少し緊張する。


「んじゃ、西宮頼んだぞ」

「あいよ!」


 昨日と同様、魔力を扱う訓練を始める。ただただ、空間に漂うであろう魔力を体の周りにまとわせる。これが初歩だと書いてあったのでやってみているが、正しいのだろうか?まあ、やってみよう。


「んん?おお!おおおお!すげぇ!昨日より全然魔力が集まってる!」

「まじか!」

「まじまじ!特に腕と腰あたりに結構集まってんな。それを全身にめぐらす感覚っていえばいいのか?出来そうか?」

「やってみる!」


 言われた場所にありそうな魔力を、ゆっくりと体全体にめぐらせる。徐々に、その感覚をつかめてきた気がする。なんていうか、あったかいものが全身を包んでいるような、そんな感じだ。これが魔力なのか、気のせいなのかはわからないが、うまくいっている気がする。この感覚を忘れないようにしよう。


「結構できてたな。ただ、なんでかわからんが大木の体にまとわりついてる魔力は、ブレてんだよな。色もついてないし、どういうことだ?」

「さっき言ってた属性の魔力のこと?」

「そうそう。火は赤色だろ?まあ、イメージのまんまだな。ただ、お前の周りにあるのは透明で、ブレた感じなんだよ。お前の体を包んだら、お前自身がブレて見える。焦点が合わない感じか?」

「まじか・・・もしかして、時空間魔法が使える代わりにほかの属性つかえないてきなやつか?」

「ありそ~」


 地面に落ちた張野がゴロリと回りながらそういった。まじか~、火とか水は使えるようにしておきたかった。特に火。何かあっても火があればどうにでもできる場面は多い。次に水だな。飲めるかどうかわからないけど、水もまた使い勝手がいい。


「んじゃ、各種属性は西宮に覚えてもらうか」

「まあ、聞いた感じ三つの属性を覚えることはできるっぽい。ミザリー先生は全部使えるらしいし、騎士団長も火と草が使えるって言ってたな」

「あの脳筋団長が二つも使えるなんて以外だね~」

「脳筋て・・・」

「いやいや、あの人マジヤバいよ~。さっき模擬戦したんだけど、全然歯が立たなかった。まあ、一撃ももらわなかったけどね~」

「看破の能力か。すごいな」


 てか、こいつ何気に騎士団長と戦ったのかよ。こりゃ、相当目をつけられたかもな。どっかで国への好感度を稼がないとか。ただ、おそらく近接特化組の中で現状一番強いのが張野なのだろう。そして、魔法特化組では俺とかかわりの薄いやつが一番っぽかった。なんでも、ミザリー先生の説明を軽く受けただけで魔法をすでに扱えるようになったらしい。そういったことを補助してくれる能力なのか、はたまた才能か。


「時空間のうちの空間は使い方を思いついてはいるんだよ。テレポートとか空間固定とか、どっかの白い髭の船長みたいに空間を叩いて割るか振動を起こすか・・・そういうのができればいいんだけど、まだそこまでできそうにないよな」

「いきなりそんなことされたらこの部屋吹っ飛ぶだろ!」

「せめて俺たちがいないところでやってね~」

「そりゃそうだけど、そうじゃねぇんだよ!イメージを魔力を通して魔法にする。今のうちから想像しておかないとなって話だ。お前もだぞ西宮」

「へいへい」


 とりあえず、俺たちが今できるであろうことはこれぐらいだ。ここからは、ガンガン魔力の操作を行っていこう。できるなら、授業を受けながらもやるべきだろうな。ノートで授業をまとめつつ、魔力の操作訓練も行う。疲れそうだけど、がんばろう。

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