第二話
一日がたった。晩飯は結構普通だったが、見たことのない肉、見たことのない野菜。いきなり食べるわけにもいかず、一々張野に見てもらい、悪そう、悪くなさそうといった具合に確認してもらった。まあ、いきなり毒を食わすわけもなく、全部の食事はおいしく食べることができたが、初めて食べた肉の種類を聞いておきたかったなぁと思った。
翌日、実質転移一日目。なんと、この国の人間はいきなり俺たちに戦闘訓練を課してきた。まじか・・・なんとなく想像はしていたが、この国って結構崖っぷちか?そこまでして魔王とその軍勢が攻めてくるのが早いのであれば、俺たちも早々に準備を進めなければならない。
「あの!自分の魔法って何かこう、以前使っていた、もしくはそういった記述ってあるでしょうか!」
訓練が始まってすぐ、俺は近くにいた騎士の人に質問した。俺や西宮は魔法に関する訓練をメインに、それぞれある程度の近接戦の訓練を行うらしい。が、それ以前の話。魔法とは?というところからなので、その意思も込めて質問すると、俺の想像を超える困った返答が来た。
「それが・・・大木殿の使う時空間魔法という魔法は、私の知る限りの記述には一切乗っていないのです。西宮殿の魔力視は、近い能力を持った人物が過去何名か確認されているのですが・・・」
「そうですか・・・」
「ですが、空間魔法についての記述は、少ないながらも存在していたと記憶しています」
「でしたら、自分の力を知りたいのでその記述を確認してもいいですか?書庫?的なものがあればそこで確認したいんですが」
「了解しました。確認を取ってきますので、少しお待ちください」
そういって、騎士の人は足早に去っていった。さて、俺の行動の意図をくみ取ったのか、西宮が俺に近づいてくる。まあ、流石にあからさまだったか。
「魔法以外に何調べに行くんだ?」
「地理とか、物価。あとは・・・歴史かな。できる限りそういった、この世界の常識を調べたい。まだ時間はかかるかもしれないけど、そのうちこの国から出ていくタイミングがきっとある。その時に、常識も知らないガキがうろうろしてたらすぐに自滅するだろ?そうならない準備だな」
「そうだな。張野は確か剣術だっけか?」
「あいつ剣道してたらしいな。あんなのんびり屋が剣道とか、めっちゃ似合わないけど・・・まあいいか。今日の夜も集合しよう」
「了解」
「あと、国の人間からなんかもらいそうになっても、受け取るなよ?変に国とのつながりを作られたら面倒だ」
「そうだな。気を付けるか」
かつて俺が読んだ本の中には、勇者として呼び出されたものが国に隷属されるって流れの物もあった。その過程で何かしら、奴隷的な存在に落とされる可能性もある。うかつに国の人間を信じることはできない。というか、元の世界に帰ろうとしているんだからこの国の人間と深い関係を築くのはあまりよろしくないだろうな。
そうこうしていると、書庫への入室許可が下りたらしく、俺は訓練から離脱。そのまま案内されると、日本でもなかなかお目にかかれないような大きな図書室が目に入った。あれだ。ゲームとかでよくある、隠し扉とかありそうなタイプの図書室だな。
「もし何かありましたら、あそこにいる司書にお聞きください」
「ありがとうございます」
指さされた先にいたのは、いかにも厳格そうなおじいさん。髭が長く、年も結構取っているだろう。しかし・・・なんか見られてんな。いや、そりゃ見るよな。監視されてるって考えて行動するか。
「あの、いきなりで悪いんですけど空間魔法に関する記述の乗っている本ってありますか?」
「空間魔法か・・・待っておれ」
そういって歩いていく。うん、名目上は勇者としてやる気を出している一人の若者って体で動くべきだろうな。国に協力的と思わせておくのが一番だ。嘘八百並べて信用を勝ち取る。まずはこのじいさんからか。
「これだ。よく読んで勉強に励むんだな」
「ありがとうございます。あ、もし時間があったらでいいんですが、時空間魔法って名前の魔法に何かしら引っ掛かる本がありましたらそれもお願いします。できる限り早く国のために動きたいので」
そういうと、爺さんは目を見開いた。まあそうだろうな。いきなり異世界に連れてこられたのにこんなに協力的なのはおかしいと思うだろうけど、今はそれでいい。それぐらいの印象を与えておかないと、40人を超える勇者の中で覚えてもらえないだろうから。
「わかった」
「どうも」
さて、地理、物価に関してはあとで良い。まずは俺の力について知ることが最優先だ。西宮や張野のような、目に見えて分かりやすい力ではない俺の場合、結構しっかりと訓練を積むか、能力に関する理解を深めることが能力の使用にかかわるかもしれない。すべて、かもしれないというのが最初につくが、世の中そんなもんだろ。
運転免許取った時も、かもしれない運転を心掛けろって言われたし。それとは違うか?まあいい。それより記述の解読だ。やっぱり昨日の夜読んだ感じと一緒で、文字は知らないのに内容だけ理解できる。気持ち悪いがなれるしかないか・・・もしくは、日本語に翻訳するか?俺だけじゃなくて二人にも情報共有することができるし・・・リュックの中にノートとペンも入っている。明日は持ってこよう。
そうこうしていると、本の内容を大まかに理解できた。まず、空間魔法に関しては使い手が少なすぎる。この本に載っている人数でも数名。しかも、記録上最後に確認された空間魔法の使い手は103年前らしい。いや、昔すぎんだろ!と思っていたが、レアな能力だという力強い説明に若干納得してしまう。彼ら、空間魔法の使い手たちはみな大成している。よくあるワープ系の能力や空間そのものに干渉するチート的な強さ。それらを利用することで国に貢献し、人によっては貴族の地位を得ている。すごい夢のある能力だよな。
しかし、それだけ。時空間というものは一切記載されていなかった。つまり、この世界で初めての時空間魔法の使い手になったと言える。これ、先人の知恵が使えないって結構ハンデになるよな・・・まずは、空間魔法の使い手たちが使っていた能力を使えるようになろう。そのうえで、徐々に『時』空間として使えるように訓練する。それが目標か。
さて、ここまで空間魔法に関しての意気込みを思ってきたが、問題は魔法を使うという根本的な部分。あれだ。マンガとかでは『体の中の力の流れを感じ取れ!』的な奴で直感的に使っている人が多いが、この世界ではおそらくそういったものではない。というのも、魔力とは、空間に満ちるエネルギーの総称である。
つまりMPがない。空間内の魔力を利用し、いかに効率的に魔法を発動できるか。それがメインだと思われる。その点では、西宮の魔力視は相当当たりだろう。目に見えるものならば、扱いも簡単だ。しかし、俺はそうじゃない。目に見えない力で、過去の文献もない力をふるう。こりゃ、相当訓練が必要か・・・
「司書さん、基本的な魔法に関する訓練方法ってある?もしくは、それを学べる本。あれば読みたいんだけど・・・」
「・・・お前さん、この世界に呼ばれた勇者と聞いたが、皆お前さんのように勤勉なのか?騎士の連中はいきなり戦闘訓練などを始めたが、基礎を学ぼうとするやつはお前さんだけらしい」
「んん~、勤勉ってわけじゃないと思いますよ?俺の友達の一人は真逆で、頑張るとかめんどくさいって考える奴ですから。でも、力を使えるようになるには基礎が必要で、基礎を学ぶにはこういった環境が必須。そう考えていただけなんですが」
「ふむ、なるほどな。まあ、早いうちに魔王を倒して世界に平和をもたらしてくれるのであれば、できる限りの手伝いはしよう」
よし!司書のじいさんと仲良くなった!情報を多く持っているだろうこの人と知り合いになれたのはでかい。今後もここに通うのに、あんな監視されるような視線を向けられ続けるのはあんまり気持ちよくもないし。
さて、改めて魔力の感知とその使用に関する訓練だ。魔力・・・今まで一度も感じたことのないものを感じるんだ。相当な時間が必要だろう。できれば、誰かが魔法を使っている場面に立ち合いたい・・・が、それは訓練場に戻ることになる。まだ知りたいこともあるんだけど・・・どうしたもんか。
「にしても坊主、そんなに集中して腹も減らんのか?もういい時間だぞ?」
「え?」
窓から外を眺めてみると、夕方になっていた。いやいや、いくら時間をかけて本を読んでたからってそうはならんやろ!なっとるやろがい!・・・・・・自分でノリ突っ込みしてもつまんねぇ。いや、そういう話じゃない!どういうことだ?確かに集中力はそこそこ高いと思ってたけど、こんなこと・・・時間が飛んだみたいな感覚だ。読んだ本も・・・いや、よく考えたら辞書と同じぐらいの分厚さの本を数冊読んだんだ。時間的には夕方になってもおかしくない。
「やべっ!まったく気が付きませんでした!」
「そこまで集中しておったのか。流し読みでもしていたのかと思ったが、ふむ。まあ、今日はいったん戻りなさい。明日も来るか?」
「できれば。ただ、魔法を使っている場面を直接見てみたいので訓練場にもいきたいですし・・・少し考えておきます!」
「そうか」
その一言だけで、爺さんは仕事に戻る。好感度稼げたか?いや、爺さんと仲良くなってもあれだが。
「大木殿、よろしいですか?」
「はい」
外には騎士がいた。もしかしてずっと待ってた?声かけてくれればいいのに・・・さて、向かう先は食堂。昼を抜いたことを今になって気が付いたせいだ、すごい勢いで空腹が襲ってきた。歩いている途中で腹がだいぶ大きな音でなってしまい、騎士の人に苦笑いされた。恥ずかしい。
「大木!遅かったな」
「いや、集中しすぎた。気が付いたら夕方だよ」
「そんなに面白い本が多かったのか?」
「ああ、俺の魔法を使えるようにするための記述を読み漁っててさ。どうにか目途が立った・・・と思う。そっちは?」
「俺はいきなり魔法を使えるようにって言われたけど、全然だな。見せてもらったけど、説明が直感的過ぎて全然わからん」
魔力視で魔力の流れは見えても、それを使うということはまだできていないようだ。そりゃそうか。いきなり出来たらチートもびっくりだろう。だって、西宮の力は視るだけで、利用するとはまた違ったものなのだから。いきなり使えるのだとしたら、それは西宮自身の才能になる。
「張野は?」
「ん~?この国の騎士の人、結構強いよね。でも、多分能力のおかげかな?看破ってさ、相手がどんな動きしそうだな~ってのも見抜けるらしくて、攻撃をよけることはできたよ~」
「・・・え?もしかして勝てそうってこと?」
「たぶんね。ただ、結構体力使うからあんまり訓練したくないけど」
張野・・・お前もしかして主人公ポジションか!?剣道やってたし能力で本職の騎士の攻撃よけるし・・・あれだな、こいつとは行動をなるべく一緒にしてよう。
「なら、一緒に本読むか?」
「パス~。勉強するぐらいなら体動かすほうがいい」
「そういうと思ったよ。なら、魔法も覚えない感じか?」
「難しそうだしね~。もしなんかあったら魔法は二人に任せるよ。その代わり、前衛は任せて~」
こいつ、もしかしてもう国から逃げた後のことも考えてんのか?だとしたらやっぱ見た目とは裏腹にすごいやつだな。適当なこと言ってるだけかもしれないけど。
「あ、西宮に頼みがあんだけどさ」
「なに?」
「俺、文面としての魔力の扱い方は読んだんだよ。だから、あとでそれ実践するから出来てるかどうか見てくんない?」
「別にいいけど?」
魔力とは、その利用方法は?そういった内容の本も読んだ。まあ、できればいいな~的な感じで実践あるのみ。できたら万歳、できなかったらもう少しいろいろ試すだけだからな。
「みなさま、今宵は訓練の疲れをいやしてください。中には私たちの想像をはるかに超える力をお持ちの勇者様もおりましたが、やはり人間、疲れをとることも訓練の一環です」
食事後、部屋に戻ろうとすると王女様らしき人がそう言っていた。んん~、やっぱりなんか、あの人苦手かも。王女様の言葉に湧き上がるのは、昨日言っていた彼ら。なんか、想像以上に盛り上がっている。彼らがどんな力を持っているとか、そういうのを確認はしていないが、よほど強いのだろうか?まあ、関わらないのが一番だな。異世界転移に喜んではしゃぎ、身を滅ぼすって流れが見える。直感的に。
「あの人~」
「どうした張野?」
「いやさ、すごい嘘つきだなって」
「は?」
「う~ん、今日の訓練で少しだけ俺の力の使い方も学べたんだけど、やっぱり常時発動しちゃってるわけ。それでね、あの王女様が話してるときにちらっと視界に入ったんだけど、嘘ついてるなってわかったの。しかも、悪意モリモリ」
「そこまで分かんのかよ!」
これは・・・なおのこと張野が重要なポジションになりそうだな。さて、やっぱり警戒するべきは国の人間。騎士や司書のじいさんみたいな末端まで俺たちを利用するつもりなら、だれも信用できないが・・・誰が信用できるか、なるべく早いうちに見つけ出すのが先決か。
さて、今日も俺の部屋に二人を呼んで・・・
「大木様、西宮様、張野様。本日はみな様、ご自分のお部屋でお過ごしください」
メイドさんがそう言ってきたのだ。不自然~。
「ちなみになぜですか?」
「先ほど王女様も言っていた通り、本日は慣れない訓練で体力も相当消耗しているでしょう。夜更かしなどをして明日の訓練に響いては困ります」
「なるほど。まあ、大丈夫ですよ。俺たち、とくに張野が早いうちに寝ちゃうんで、下手したら勇者の中の誰よりも寝るのが早いかもしれないんで」
事実だ。張野は疲れていようがそうでなかろうが、夜の10時に寝る。なんか、体が勝手に寝るらしい。そして、寝ている張野を下手に刺激すると、マジでめんどくさい。という訳で、俺たちもその時間になると一緒に寝るのだ。ただ、昨日はベットが一つしかなかったため、俺と張野がベット、西宮が地面だった。じゃんけんに勝てたおかげで、ふかふかのベットで寝れた。
「そ、そうでしたか・・・しかし・・」
「まあ、もし今後訓練に支障が出たら自分の部屋に行かせますよ。とりあえず、今は大丈夫です」
さて、なぜこんな提案をしてきたのか。あれか、やっぱり国とのつながりを強めるための何かを施そうとしたか。可能性としては・・・色仕掛けか?もしくは何か、弱みを握るとか。正直、奥手の日本人がいきなり手を出すとは思えないが、さっき騒いでいた連中なら手を出しかねない。日本ではあまりモテることもなかっただろうし、美人メイドに迫られたら断るのは難しいかもな。俺は断るよ?
「そう、ですか」
おそらく、俺と同じように考えた人間が数名いるのか、同じ部屋で過ごすことを選択したやつらは何人かいる。が、今回の忠告を聞いたグループもいる。そのうち、内側から崩壊とかしないよな?もしそうなったらなりふり構わず逃げるぞ?
「いいのか大木?目立つぞ?」
「これぐらいはいいだろ。仲のいい三人組って思わせておくのもいいし、下手に張野を一人にしたくない」
「え~、なんか心外~」
「あのなぁ、この中で一番警戒心無いの、誰だと思う?」
「俺~」
「よくわかってらっしゃる。そういうことだよ。んじゃ、西宮さっきの頼んだぞ」
「ああ」
部屋につくと、俺はベットの上で胡坐をかく。本には、魔力とは空間を流れる風と同じようなものだと書いてあった。それを感じ取る力は個人の才能に由来し、才能のないものはどれだけ魔力を感じようともできないと。もし俺に才能がなければ、元の世界に帰るという手段がなくなるかもしれない。
「ふぅぅ~~」
どっかのハンターになるマンガでは、脱力して力の流れを感じ取る場面がある。ほかにも、本来人間が持ちえない力を扱う漫画は多い。それらを参考に、魔力を感じ取ってみせる!
「・・・・・・・・・」
「お?うぅん?ほぉ!」
「西宮?どうしたの~」
「いやな、少しずつだけど魔力の流れが変わってる・・・気がする!」
「気がするだけなの~?」
「なんていうか、本当に誤差ぐらいの違いなんだけど、少しずつ、魔力の流れが大木に集まってる・・・気がするんだよ」
二人が何かしゃべっているが、気にしない。無だ。心を空にして、ただ魔力を感じ取ることだけを考えるんだ。じゃあ無じゃないか?いや、こんなくだらないことも考えるな。ただただ、魔力・・魔力を・・・
「ぶへぇ!」
「うお!どうした!」
「集中しすぎて息するの忘れてた!・・ぜぇ・・はぁ」
「マジか!そんなに集中してそれぐらいかよ!」
「張っ倒すぞおまえ!」
それぐらいとか言うなよ!結構集中必要だし、大変なのに・・・ただ、聞いた限り魔力は少しとはいえ、動いたらしい。これからは、西宮監修のもとで頑張って練習あるのみだな。
次に、西宮が俺の説明を聞き魔力を動かしてみるとのこと。実際に目に見えるおかげか、動かした幅は俺以上らしい。と言われても、見えないんだからわからん。自慢されても、理解できんものだと気にもできないな。
「明日はどうする?また書庫に行くよ。少しずつ司書のじいさんと仲良くなって、できる限りこの国の情報と他国の情勢を聞き出す。ノートとペンは・・・お前らも持ってる?」
「あるぞ!」
「あるよ~」
「んじゃ借りるな。有効活用させてもらう」
出来る限り、俺ができることをしよう。西宮は魔法を、張野は前衛としての戦力を。なら俺は、この二人を動かせるぐらいの情報を。それぞれが、それぞれの役職を理解しろ。ゲームと一緒だ。だが、ゲーム以上の難易度だ。
面白かったらまた読んでください!