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人界飛翔

作者: 偽形

ー生まれ変わったら、鳥になりたい。

そう言う人がいるけど、私はそう思えない。

確かに、鳥には翼があるから自由に空を飛び回れる。移動だけ見れば楽にも見えるだろうけど。

実際には、自然界は弱肉強食で、体の小さな鳥や、飛ぶことが出来ない雛鳥なんかは格好の獲物。

烏は知性は高いけれど、ゴミを荒らすからって、馬鹿と蔑まれたり、不吉の象徴で、夜道で会うと忌避されたり、ゴミを荒らす性質故に、不潔で雑菌塗れだと言われて追い払われる始末。

まさに、嫌われ者の代名詞。

鳩や雀は、可愛らしいという理由で、餌付けされたりするけれど、鷹とかは飼い慣らされて、狩りに使われたりもする。


「生まれ変わったら鳥になりたい」


やっぱり、私はそう思えない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

最近、私が入院している病室によく来る鳥がいる。

なんて言う種類の鳥なのかは分からない。

でも、毎日のように病室の窓辺に止まっては、ぴよよ、ぴよぴよ、と鳴いて、私が適当に話しかけると、その言葉に返事をするように、また鳴き声を上げて、私の話し相手になってくれる。

一通り話終えると、小さな翼を大きく広げて、風の流れるがままに羽ばたいて、飛んで行ってしまう。

そんなあの子の自由さが、私には時折、羨ましく思えた。


「ママ、もし生まれ変われるなら、ママは何になりたい?」

見舞いに来てくれた母にふと尋ねてみた。

「そうねぇ、ママはもう一度、人になりたいわ。美翼(みよ)は何になりたいの?」

「私はねぇ〜、鳥になりたいんだ〜。」

窓の外をちらっと見てからそう言うと、母は優しく微笑んで、

「そう。」

と言って、髪を撫でてくれた。

私は、この手の温もりが好きだ。だから、こうやって誰かに触れられたり、頭を撫でられたりするのが結構嬉しい。


それからも毎日、その鳥と話した。

「聞いてよ〜。点滴って結構痛いの。私痛いの嫌いなのにさ。それにね、検査のためによく採血って言って血を抜かれるんだけど、もうその内、私の血ぃ無くなっちゃわないかなってすっごく心配になっちゃうんだよね。」

ぴぴぴ、ぴよぴよ。

「あはは!慰めてくれてるの?」

ぴぴよぴよ。

「ありがとう。でも、君に言っても分からないだろうけど、私ね、もうあんまし長くないみたい。膵臓っていうところが悪いやつに乗っ取られちゃってて、もう手が付けられないんだ。」

ぴ、ぴよよ?


鳥は小さな頭を少し傾げて高い声で鳴く。


「そうだなぁ、君で言うなら、君が巣に居ない内に蛇がやってきて、その蛇が巣を自分のものにしてて、もうどうしようもない状態。そんな感じかな?」

ぴぴ?ぴぴよよ!

「ははっ。何言ってんだか分かんないや。でもね、私、君と話しているこの時がとっても楽しい。・・・・君には、長生きして欲しいな・・・。」

ぴぴぴ…


先程までとは違い、少し俯いて弱々しい声で鳴く。


「ごめんね!暗いよね!もっと楽しい話しよ!」


美翼はニカッと笑って話を変えようとした。しかし、鳥は小さく、少し高く鳴くと、窓から外へと飛んで行ってしまった。


「あっ…」


かぼそい、途切れそうな声で、譫言(うわごと)のように呟くと、美翼は少し寂しげな表情を浮かべながら、じっと窓の外を見詰めていた。


それから数日、あの鳥は、一向に姿を見せなかった。

美翼の容態が急変したのは、その日から2週間の後の事である。

親族が見守る夜明け過ぎ、美翼の魂は、黎明の空の彼方へ飛翔した。穏やかな朝を謳い、暗い夜の終わりを告げる日差しは、美翼の夜にも終わりを告げ、新たな朝の訪れを唄う。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ー美翼が亡くなる2日前。

ー午前4時。

未だ日が昇り始めたあたりで、外は少し薄暗い。

美翼は、電気スタンドで明かりを点けて、本に目をやっていた。すると、

病室の窓に掛かったカーテンに、見覚えのある影が落ちた。

美翼がそれに気付くのに、時間は全く要さなかった。


「鳥くん!来てくれたんだ!」


美翼は、本から視線をずらし、満面の笑みを浮かべて窓へ駆け寄ると、そっとカーテンを開ける。

鳥は、(おもむろ)に部屋の中へ入ると、ベッドの掛け布団の上に止まって、じっと美翼のことを見つめる。

美翼は、鳥の方へと歩いていき、ベッドの上に座る。


「どうしたの?鳥くん。」


鳥は、何を言うでもなく、黙ったままだ。


「・・・・。ねぇ、鳥くん。ずっとずっと鳥くんって呼ぶのも変だから、私、君に名前をあげたいんだ。」


そう呟いたと同時、窓の外から一縷(いちる)の光が差し込んだ。


「そうだ。君はいつも、光の中を飛んで行くから、光と、飛ぶで、光飛(ひと)にしよう!」


そう言うと、さっきまでは細く、直ぐに影ってしまいそうな光が、一気に強く差し込み、病室が柔らかな光と温もりに包まれた。


「君は、今から、光飛。私は、美翼。よろしくね!」


真っ直ぐで、曇りのない、眩しいほどの笑顔。そんな美翼の笑顔を呼応するように、太陽も優しく微笑んでいるように、病室に光を届けていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ー生まれ変わったら鳥になりたい。

「やっぱり、私は・・・光飛は、そう思わない。だって、大好きな友達が死んじゃっても、涙を流せないから。」


「・・・・。でも、もし、美翼が鳥としての美翼に生まれ変わるならば、光飛は、また鳥としての光飛に生まれ変わって、美翼と一緒に、この人の世界の空を、自由に飛びたい。姿形が変わっても、この願いが叶うならば、鳥に生まれ直してもいいかもしれない。」


光飛は、いつになく饒舌に話すと、明るい太陽の光の中を、美しい翼を広げて、飛んで行った。




















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