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第9話 アンの実力

「ふんギル坊がわざわざ紹介状を出すなんて珍しい」



 冒険者ギルドのギルドマスターもこの婆さんにかかると坊やらしい。紹介状を読み終わったヴェリテは俺を客間のようなところに連れてきて座るように指示すると自身も正面のソファに座った。因みにアンはお茶と茶請けを取りに行かされている。



「まあ教えてやらんでもないよ。ギル坊の頼みだしあんたも中々面白いガキみたいだからね」


「そりゃどうも」



 どうもこの婆さんは嫌な目をする。まるで全てを見透かすような眼差しは伊達に年を取っていないというわけか。ギルバートが坊や扱いなのも納得だ。



「ただし条件が1つあるよ。あんたが魔導を習う間私の弟子アンと一緒に冒険者をやりな」


「それはパーティーを組んで依頼を受けろということか?」


「そうさね。魔導の訓練は積んでるが実戦経験がないのが悩みでね。これも経験さ」



 アンと一緒に冒険者か。先ほどの魔法、いや魔導の威力を見る限り戦力としては問題なさそうだ。人格面はわからんがまあ壊滅的に悪ければその時はその時だ。



「俺は構わんが」


「師匠! 私に冒険者の経験なんて必要ありません!」


「経験したこともないのに必要ないなんてわかるのかい? いいから黙って冒険者ギルドに行って登録をしてきな。これは師匠命令だよ」


「……わかりました。準備をするから少し待ってください」



 アンを待っている間置かれた茶請けに舌鼓を打った。中々うまいなこれ。どこで売ってるんだろうか。




「どうしましたキョウヤさん? 何か聞きたいことでも」


「いや今日はこいつの登録とパーティー申請に来た」



 受付はまたしてもミリムだった。知らない間に専属にでもなったのだろうか。アンはあまりあの塔から出ないのかギルド内をキョロキョロ見回していて怯えた小動物のようだ。手に抱えた大きな杖を支えのように胸に抱いている。



「わかりました。ではこちらの紙にお名前と性別年齢そしてジョブとスキルをご記入ください」


「はい。……これでいいですか?」



 アンは俺と違って字が書けるのか渡された紙にサラサラと書き込んでいく。相変わらずなんて書いてあるか読めないが名前と性別はなんとなくわかった。



「アン・ジーニーさんですね。ジョブは下級魔法師にスキルが火魔法と土魔法レベル2でよろしいでしょうか」


「大丈夫です」



 名前が同じということはあの婆さんとは孫と祖母か? いやそれよりも火魔法がレベル2だと。あの威力と発動速度からしたら考えられんレベルだ。俺と同じかそれ以上と思っていたが。魔導を低レベルな魔法と同じ扱いするなとか言ってたがますます興味が湧いてきたな。


「私の魔法スキルが低くて驚きましたか? あれだけ偉そうな口を――」


「ああ。正直スキルレベルは俺以上だと思っていたからな。 《豆粒ほどの大きな火(フューコンデンス)》だったか。名前も独特だが特に発動速度が凄いな。あれも魔導が関係しているのか、っと悪い何か言いかけたか?」


「いえ大丈夫です。発動速度と魔導は関係ありません。練習すればだれでもできます。名前の方はオリジナルの名前を付けることで相手にどんな魔導か予想させないという理由があります」


 なるほどな。確かにファイアーボールなんて聞いたら誰でも火の玉が飛んでくると分かる。間に合うかはわからんが対策を取られてしまうかもしれない。雑談をしているうちにギルドカードの発行が終わったのかミリムがカードを持ってきた。



「再発行には10,000ゴールドかかりますのでお気を付けください」


「ありがとうございます。……これがギルドカード」



 カードを受け取ったアンはそれを掲げてみたり裏表ひっくり返してみたりとまるで新しいおもちゃを買ってもらった子供だった。まあ背が低いから正直子供にしかみえないのだが。



「おい依頼を見に行くぞ。字は読めるか?」


「それくらい当然です。共用語は勿論古代神族語だって読めます」


「それは知らん。それよりなにかよさそうな依頼はあるか?」



 俺の連れが文字を読めると察したのか揉み手をしながら寄ってきていたアシェラッドが詰まらなさそうな顔をしてどこかに消える。1人で来たときは利用させてもらおう。

 


「そうですね。はぐれオーガの討伐なんてどうですか? 以前師匠から見習いの時に1人で倒したと聞いたことがあります」


「見習いの魔導士が1人で倒せる敵か。パーティーでの初依頼だしそれくらいがいいかもな。依頼書はどれだ」



 アンが指さしたのはコッパーではなくゴールド用の依頼書だった。因みにどのランク向けかは押されているハンコで判断できるので俺でもそこはわかる。アンが間違えたのは単純に知識がなかったからだろう。



「それはゴールドの冒険者用だ。俺たちはまだコッパーだからこれと同じハンコが押されているのしか受けれん」


「ではこっちはどうですか。薬草の採取です。この薬草なら見たことがあるので私でもわかります」


 

 結局その依頼をミリムに渡すことになった。しかしゴールド依頼のオーガを見習い時代に討伐とは。やっぱりあの婆さんとんでもない奴だな。





「本当にこっちであってるのか?」


「間違いありません。あの薬草、学名はルポリーフですが湿気を好みます。魔の森外縁部で池があるのはあそこだけです」



 アンが手元の地図と周囲の地形を見比べながら歩く。俺なんかより土地勘はあるだろうがその細く小さな体を見るとどこかで倒れないか心配になる。この魔物はびこる森の中でこいつを背負って王都まで戻るなんて俺はごめんだぞ。



「あ、ありましたよ。どうですか嘘ではなかったでしょう」


「そうだな。ゴブリンがいるのが問題だが」



 池は確かにあるのだがゴブリンが何匹か水を飲んでる。持ち帰るつもりなのか樽を背負っているやつもいる。どうするべきか。戦えば簡単に勝てるがその後俺たちは薬草の採取をしなければいけない。血の匂いで魔物が寄ってこないとも限らないからここはあいつらが消えるのを待ったほうがいいか?



「私に任せてください」 


「騒がれずに無力化出来るのか?」


「勿論です。見ててください《愚か者は上を見る(キーヒンシュランゲ)》」



 アンがなにやら呪文を呟いた直後ゴブリンたちがその場に倒れこんだ。体をバタバタと動かしているがここからではなにが起こったかよくわからんな。



「なにをしたんだ?」


「土で作った蛇を足に絡ませて転ばせた後喉にもう一匹入れました。見に行きましょうか」



 もうゴブリンは動けないと確信しているのか堂々と姿をあらわし進むアン。正直もう少し様子を見ていたいが俺だけここに残るわけにもいかん。仕方ないついていくか。



「見てくださいこんな風にうまく隙をつけばあっさり無力化出来ます」


「これは中々……凄いな」



 ゴブリンは驚いて声を上げようとした瞬間に口内に蛇が入ってきたのかどいつも口を大きく開けて死んでいる。そしてその口には土で出来た蛇が入っており何故かまだ蠢いている。自慢気に胸を張っているアンを見ると正直なことはいえないが凄いというよりえぐい魔導だ。



「本当なら自動で魔石も取ってくれるんですが私の技はまだ未熟なようです」


「それは……残念だったな」



 そうとしか言いようがない。アンはその場にしゃがみこむとゴブリンの解体を始めた。今回は薬草が目的なのでゴブリン程度放っておいてもいいのだがまあこれも経験だろう。

 アンが解体している間周囲を警戒しようと周りを見回すと地面にやたら大きな足跡があるのに気付いた。



「デカいな。ホブよりも二回りはあるぞ」



 この足の大きさからすると3メートルはあってもおかしくない。こんなデカい奴も使う水場なのだ。そいつが来る前に採取を終わらせないと。そう思った瞬間俺は殺気としか言いようがないものを感じた。



「避けろ!!」


「な、なんですか一体!」



 咄嗟に大野からコピーした瞬発を使いアンを抱えて横っ飛びに転がる。するとさっきまで俺たちがいた場所をバカでかい岩が押しつぶした。ゴブリンの死体は激突の衝撃で四肢が飛び散っている。あと一瞬遅ければ俺たちもああなっていただろう。



「あ、ありがとうございます。死ぬところでした」


「礼はあとだ。早く立ち上がれ、来るぞ」




 ドスンドスンという日本では映画館か動物園でしか聞かないような足音が徐々に迫る。そしてとうとうそいつは姿を現した。予想通り3メートルに届く 筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な巨体に赤い肌。頭の中心には二本の角が生えているが一本は根元から折れている。手にはホブが持っていたものの数倍はある棍棒、というよりも丸太。



「はぐれオーガだ。気合入れないと死ぬぞ」


「の、望む所です!!」



 ビビってはいるようだが怖じ気いている様子はない。俺たちの戦意を感じとったのかオーガは耳を塞ぎたくなるような大声で咆哮を放った。



 


「面白い!」


「続きが気になる!」


そう思っていただけたら


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