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第43話 ドラゴンクエスト~幻の果物~①

「野菜が食べたいです」



 朝、俺たちが鍋を囲んでいるとポツリとアンが言った。



「確かに最近は肉か果物しか食べてないな」


「フィーはお肉でいい」



 修行開始後、俺たちはアトゥが棲み処の1つにしている山で生活している。ドラゴンの棲み処とは言っても吹雪がやまない山の上だとか、活火山の火口で暮らしているわけではなく極々普通の山だ。だから生活するうえで特に不自由はない。ドラゴンの縄張りと周辺の魔物や動物も知っているのか基本的に立ち寄らない。ただしウサギのような小型動物は小さすぎてドラゴンに襲われないので寧ろ多い。俺たちが今食べているのもウサギの肉だ。果物はそこら辺の木から取っている。こちらは鳥との奪い合いなので少し大変だが。


 しかし野菜は食べてない。これには理由が二つある。一つ目は周辺に人里がないからだ。野菜を買いたくても売っているところがない。アトゥに頼めば転移させてくれるかもしれないが、流石に野菜を食べるためだけにそんな手間はかけさせられない。アトゥが一緒にこなければ結局帰りは徒歩だし、アトゥが一緒に来るならドラゴンを人里に連れ込むことになる。彼女が意味なく暴れるとは思えないが、人間に化ける魔物を見分ける方法がないとも限らないのだ。一番いいのはアンが転移魔法を使えるようになることだがまだ先だろう。そもそも転移魔法は一度行ったことがある場所しか行けないようだし。

 

 しかしここは山だ。探せば山菜くらいみつかるだろう。何故それをしないのか。理由は簡単で俺たちにその知識がないからだ。フィーは主食が肉なので山菜の知識はゼロ。当然日本でボーイスカウトに入っていたわけでもない俺もない。ハーフとは言えエルフであるアンならばとも思うが、彼女が元引きこもりであることを忘れてはいけない。そもそもエルフの里に住んでいたのは小さい頃だけなのでそんな知識を身に着ける時間もなかった。


 以上の理由で俺たちはここしばらく野菜を食べていなかったわけだが、とうとうアンに限界が来たらしい。菜食が多いであろうエルフとしては寧ろ長く耐えたのかもしれない。しかしだからと言って打てる手があるわけでもない。そう諦めかけた時救いの手は意外なところから現れた。



「なんじゃお主ら山菜の取り方も知らんのか」


「アトゥさんは知ってるんですか?」


「我らドラゴンの主食は肉じゃが、食性としては雑食じゃ。それに数百年も生きると色々知識が身につくのでな」


「是非山菜の取り方を教えていただけませんか!」



 アンが勢い込んで頼み込む。そんな彼女を見てアトゥは少し悩む、というより考えるようなそぶりを見せた。どうしたんだろうか。俺のイメージではキノコならともかく山菜の見分け方なんてそこまで高度な知識が必要とは思えない。それともドラゴンが守る財宝は知識も含まれているのだろうか。



「我が何故こうして人の姿で食事をするかわかるか?」


「食べる量が減るからとかか?」


「そういう場合もある。まあ元の姿に戻ると足りない分を魔力で補う必要があるからそれほど効果は見込めないがのぉ。実際の理由は味覚じゃ。我らドラゴンは多くの点でお主ら人間を圧倒しているが、人間のほうが優れている部分もある。それが」



 味覚というわけか。元々味覚の役割は食べ物に害がないかどうか判断するためのものだとか。毒耐性なんて便利なものを標準搭載していない人間はその分味覚が鋭くなければいけなかったが、多少の毒ではなんの影響もないドラゴンは味覚が発達していないと。しかし人化状態では味覚が鋭くなるということは、今の彼女には毒が効くということだろうか。まあ人化したモンスターが弱体化するのはファンタジーじゃお約束ではあるが。



「しかし食べる分には便利な人化も食べ物を集める時はまどろっこしくてかなわん。たかが数十キロ移動するのにも時間かかるし一度に運べる量も多くない。かといって果物なんかは元の姿では集めることはできない」



 そこまで言われて段々と話が見えて来た。つまり彼女は俺たちに代わりに果物や山菜などのドラゴンが集めづらい食べ物も持ってこさせたいのだ。交換条件というやつだな。



「私たちがアトゥさんのかわりに集めてくればいいんでしょうか?」


「うむ。冒険者であるお主らには相応しいじゃろう。クエストというやつじゃな。目的は指定の果物の納品、報酬はこの山で取れる山菜の知識といったとこか」



 そんなわけで俺たちは久しぶりに冒険者として活動することになった。討伐対象がドラゴンは聞いたことある、というかつい先日頼まれたが、依頼主がドラゴンというのは前代未聞かもしれない。


 因みに野菜に興味がないフィーはクローネと肉を取り合っていた。

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