第40話 アンの故郷
その晩。俺たちは言われた通り里の外れにある家へと来ていた。周りには誰も住んでいないのか、物音1つしない。密会するには良い夜だ。
待ち合わせの家は里にある他の家と同じような見た目をしていた。多少さびれてはいるようだが幽霊屋敷といった感じではない。
「さーて鬼が出るか蛇が出るか――」
「爺が出る、か」
「出るのは爺だけだといんだけどな」
ドアは元からなのかジーロンが開けていたからか鍵は掛かっていなかった。俺、アン、フィーの順番で入る。最初に目に入って来たのは木のテーブル。大人用の椅子が2つと子供用の椅子1つ置いてある。前の家主のものだろうか。住人がいなくなってからそれほど時間が経っていないのか埃っぽさはない。
そしてそのテーブルの上には1メートルほどの杖が置いてあった。木で出来ているのか直線ではなく、多少うねっている。そして上にいくにつれて徐々に太くなり、一番上にはなにかの石が埋まっている。
「これが星屑の杖か? こんな所に置いて……。里の秘宝なんじゃないのかよ」
「誰も本心ではそんなこと思ってないからのぉ」
一体いつからそこにいたのか。テーブルから少し離れた位置に置かれた揺り椅子にジーロンが座っていた。部屋の中は暗く、その表情はうかがい知れない。
「あれだけ渡さないなんて言っていたのにですか?」
「エミリー、お主の母親亡き後様々なエルフがその杖を使おうとしたが……誰が使ってもそれが本来の力を発揮することはなかった。それどころか魔法の発動を阻害する始末」
「まるで呪の装備だな」
「あるいは……本来の使い手を待っていたのか」
そこまで言うと馬鹿馬鹿しいと言わんばかりにジーロンはフンと鼻をならした。
「使えないならなんで渡さ、ない」
「エルフは長命の種族じゃ。そして長く生きると様々な弊害が生まれる。古い考えに固執したり、変化を嫌ったりの、意地が邪魔したりのぉ。ずっと我々が管理していたエルフの秘宝を他種族に渡すなどまかりならん、というわけだ」
「少なくともジーロンさんは杖を渡してもいいと思っているのでは?」
「……倉庫の肥やしになるよりかはいいだろう。そう思っただけじゃ。またヴェリテが暴れにきても困るしな。里長という立場上多少融通がきくだけで、他のエルフと根っこは変わらん」
木っ端のエルフはギャアギャア騒げばいいだけだが、責任者はその結果どうなるかも考えないといけないからか。確かに約束を反故にして婆さんが来たら目も当てれない。まあそこで俺たちではなく、婆さんだけを脅威に思われているのは少々悔しいが。
「わかったらさっさと杖を持って里を去れ。ただの置物がなくなっても誰も気づかないじゃろうがな。この家の裏を真っすぐ進めば見張りにも気づかれんだろう」
「……ありがとうございます」
「ありがとうジジイ。思ったよりいいジジイ、だった」
この家のこととかいくつか気になることはあるが……答え合わせはまた今度でいいか。思い違いだったら恥ずかしいしな。
「礼は言わんぞ。元々公平な取引だ。それどころか一度反故にされかけたからな」
「そんなものはいらん。それより二度と戻ってこないのが一番の礼じゃ。貴様らがいると里が騒がしくなる」
エルフは長命で、長く生きると様々な弊害が生まれる、ね。別に同情はしないが里長も楽じゃなさそうだ。
さてのんびりしてて途中で他のエルフに見とがめられても困る。ジーロンの言う通りさっさと出て行こう。そう思いすぐに移動しようとするが、アンが名残惜しそうに家を見ているのに気付く。
「来たいならまたくればいいだろう。その杖を使いこなしてな」
「そう……ですね。ただこの家とさっきの部屋、どこか見覚えがあって。もしかしたら里にいたころはここに住んでいたのかもしれません」
「そうか。どうする? 昔家族と過ごした家ならかっこはつかないが中をもう一度見てみるか?」
両親との思いで詰まった家ならば最後にしっかりみおいたほうがいいだろうと思い提案するも、アンは頭を振った。
「大丈夫です。ほとんど記憶も残ってないですし。それに今私の家は王都のあの家です。改めてそう思いました」
どうやらこの里に来たのも無駄ばかりではなかったらしい。アンとエルフが和解することは出来なかったが彼女は吹っ切れたようだ。まあフィーの種族ほどエルフは単純じゃなかったということか。いやフィーたちが強さを信奉するのに対して、エルフは血の濃さを信奉していると考えれば単純さではそんなに違わないのか?
「それに家族ならここにもいますから」
そう言ってにっこりとはにかむように笑うアン。
……本当に無駄じゃなかったな。アンのこんな笑顔を見られたんだから。誰かに見つかってもいいからライトで照らしたいくらいの笑顔だ。
「ならさっさと行こう」
こうして俺たちはエルフの里を出て次の目的地へと向かった。とは言っても特に決めてないんだが。まあ歩きながら決めればいいか。
「いや一つだけ寄っておきたい場所があったな」
「どこ?」
「ドラゴンの所だ。俺たちが里を出ていくことくらい伝えておいたほうがいいだろう」
「そうですね。私たちがいると思って里の方にこられても困りますし」
「その心配は不要だ」
その声と同時に目の前に人化したドラゴンが現れる。転移魔法か? 相変わらず便利過ぎるな。まあ旅に使ったら風情がないが。
「聞いていたなら話が早い。俺たちはこの里を出る」
「うむ。その前に礼を果たしておこうと思ってな。アンとかいったか。貴様に変化の魔法を教える約束であったな」
そう言えばそんな話してたな。すっかり忘れていた。
「……ありがとうございます。ただ変化の魔法はやっぱり大丈夫です」
「そうなのか?」
「はい。見た目だけ同じにしても意味ないことがわかりましたか」
「そうか。使いこなせればエルフ特有のその貧相な見た目もどうにか出来るが」
「ひ、貧相」
アンの目がちらりドラゴンの一部分を見る。山のように大きな体を持っていたドラゴンだが人化しても山のような大きさだった。質量保存の法則が働いているのだろう。非常に興味深い。
「い、いえ結構です」
「ふむ。しかし何も礼をしないというのも気持ち悪い。変化の魔法以外にもなにか教えてやろうか」
魔法のエキスパートと言っていいドラゴンが色々教えてもらえるのか。断る理由がないだろう。別に俺たちの旅は先を急ぐようなものでもないしな。伺うようにこちらを見てきたアンに頷いてやる。
「ではお願いします!!」
こうして俺たちの旅は里帰り編からドラゴンとの修行編に入った。
「面白い!」
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