第39話 報酬
「……という訳で無事ドラゴンの子供は治った。少ししたらあそこからも出ていくだろう」
「おおー。魔石肥大病? って凄い珍しい病気なんでしょ。それを治すなんて流石麻衣」
「ありがとう」
「イイダ凄かった。手がパーって光ってクローネ元気に、なった」
里に戻り話し合いの時にも使った家に戻り、長谷川達に何があったかを説明した。大野に褒めらた飯田は、約束通り俺のことをばらさずにその賛辞を受けている。実際俺だけではどうしようもなかっただろうから当然だが。
「約束通り星屑の杖は俺たちがもらっていくぞ」
「……ああ、好きにしろ」
長谷川は流石に落ち着いたのか縛られることもなく椅子に座っていた。勇者の回復力のなせる技か特に怪我も残っていない。聖剣も謎空間に戻したのか今は手元にない様子だ。どこからでもあの剣を呼び出せるなら勇者のジョブは暗殺者の適性もあるな。
「譲って頂いてありがとうございます」
「気にすんなよ。まあ王女様にはちょっと怒られるかもしれないけど……」
「智弘は普段から先生に怒られ慣れてるから平気っしょ!」
「恵もだろうが!」
先生か。気づけばこの世界に来て数か月。学校に行っていたのが随分昔のように思える。おそらくそう感じるのはこの世界が自分に合っているからだろう。嫌でも色々な人間とか関わるざるを得なかった日本と、人間関係の取捨選択が容易なこの世界。人づきあいが好きではない俺がどちらを好むかは明白だ。
「お礼にこれ、あげる」
「あんがとな。ってなんだこれ?」
「フィーお手製の干し肉だ。うまいぞ」
「おお。女子の手料理だ!」
「じゃあ俺たちはジーロンから杖を受け取りに行ってくる」
そう言って家から出ようとするとポツリ長谷川が疑問を投げかけて来た。
「四宮。お前は今後も魔物を助けるのか」
「……それが必要ならな」
それだけ答えると俺は返事を聞くことなく家を出た。どうせまた言い合いになるだけだ。魔物でもあのドラゴンみたいに話が通じるやつもいれば、同じような見た目をしていてもまったく話が通じないような奴もいる。
「星屑の杖は我らがエルフの秘宝だぞ! 半端者のハーフエルフなんぞに渡せるわけがなかろう!!」
「然り」
「まったくだ」
「汚らわしい血のくせになんと浅ましい」
「そもそもそんな約束本当にしたのか?」
目の前でギャアギャア騒ぐこいつらのように。
ジーロンの家にやってきた俺たち3人はドラゴンがここを去ることをジーロン及びその取り巻きに告げた。簡単に信じてもらえるとは思わなかったが、そもそも星屑の杖を渡すつもりがまったくないときた。清々しいほどの手のひら返しだ。いや元々こんなんだったから手のひらを返したわけではないのか。
「まあ待て皆の衆。こやつらも何も手に入らず帰ることは出来まい。何か渡してやろう。例えば……我らからの労いの手紙とかな」
「それはいいアイデアじゃ」
「うむ。貴様らのような劣等種にもしっかりと報酬を与えるとは。我らの慈悲深さに感謝せよ」
ジーロンは懐から1通の封筒を出すとそれをアンに向かって投げつけた。そしてもう用はないと言わんばかりに、俺たちを無視して茶を飲み始めた。こいつらふざけるのにも限度があるだろう。俺が思わず前に出ようとすると意外なところから邪魔が入った。
「行きましょうキョウヤ」
「だけどアン――」
「いいですから。とにかくここを出ましょう」
当事者であるアンにもういいと言われてしまえば俺に言えることはない。少なくともこの場では。どうやらジョブを強盗にする必要があるらしい。空き巣では俺の気が収まらん。
「まったく。あそこで暴れるつもりですかキョウヤは」
「必要ならな」
「ならその必要はないですね」
「アン、あのジジイ達許す、のか?」
自分はまったく納得していないと言わんばかりに頬を膨らませるフィー。アンは自分のために怒ってくれるフィーに微笑んで、その頭を撫でる……ことが身長の関係で出来ず悲しそうな顔をした。アンにここまで悲痛な表情をさせるとは。ますますあのジジイども許せん。
「やっぱり戻ろう。最低でも一発は殴ってやらんと気が済まん」
「木から吊るして、やる」
「だからいいですって。これを見てください」
グイっと俺の前に先ほどジーロンから渡された封書を突き付ける。妙に凝った模様が描かれているがそれ以外は普通の紙だ。
「まさかありがとうの手紙で満足したのか? 俺のいた国ではそれはやりがい搾取と言ってな――」
「違いますって。この模様に見えるやつ実は字なんです。古代神族文字という凄い古い言葉ですが」
古代神族文字、古代神族文字……そう言えば会って直ぐの頃にアンが言っていたな。自分は古代神族文字すら読めると。初めて見たがこれが本当に文字なのか? アラビア語みたいだ。
「それでなんて書いてあるんだ?」
「今日の深夜里の外れにある家まで来るようにと。あとはその家の詳しい位置が書いてあります」
「古代神族文字ってのはエルフなら誰でも読めるもんなのか?」
「いえ。私が読めるようになったのも王都で豊富な資料があったからです。寧ろジーロンさんが知っていることに驚きました」
わざわざ他のエルフにバレないような方法で俺たちを呼び出す里の長ねぇ。流石に襲われるってことはないだろうが……。
「1人で来いとは書かれてないんだよな」
「はい」
「なら行ってみるか。何が起きるかわからないから、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応しよう」
「それは行き当たりばったりと言うのでは」
「それよりお腹、すいた」
フィーがお腹を撫でる。そう言えば長谷川と戦ってからノンストップでここまで来た。途中で保存食なんかは食べはしたが、まともな食事はとれていない。
「なんか適当に食べるか」
「肉! 肉が、いい」
「残念ながらフィー、エルフは菜食が基本なんですよ」
「そ、そんな」
ガーンとこの世の終わりのような顔をするフィー。あの純真なフィーにまでこんな顔をさせるなんて。いよいよもってエルフが許せなくなってきたな。
「面白い!」
「続きが気になる!」
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