第36話 再びドラゴンの元へ
地面に倒れこんでいる長谷川を蒼霧の鞘の先でつく。……どうやら本当に気絶しているようだ。いやだがまた動き出されても困る。念のためもう少し精気吸収で吸っておくか。長谷川の手首を握り精気吸収を使うとまるで底なしの井戸のようにどんどん魔力が流れてくる。どんだけ魔力あるんだこいつ。それにしても命がけの戦いをしたせいでハイになっているのか妙に気分がいい。ランナーズハイとかゾーンとかいうやつだろうか。
「龍吾君が聖剣を使う前に倒せてよかった」
「剣を替えた途端動きが変わったな。あれが本来の実力なのか?」
「うん。普段は消耗が激しいって理由で普通の剣を使ってるけどね。バジリスクも聖剣を使って倒したんだよ」
これだけ魔力があるこいつでもそう簡単に使えないものなのか聖剣は。しかしそれだけ強力ならばドラゴンにだって勝てるんじゃないか? 先ほど聖剣を握った長谷川からはあのドラゴンに負けず劣らずの迫力を感じた。元々ここに住んでいたのはエルフなんだからドラゴンを実力行使で追い出せるならばそうすべきだろう。
「なあ。長谷川達と俺たち3人が協力すればドラゴンにも勝てるんじゃないか? 例えば協力する様子を見せていた俺たちが注意をひいている間に長谷川達がドラゴンの子供を人質にするとかさ」
個人的には名案だと思ったのだがアンは勿論、元々ドラゴンを退治したがっていた橋本たちまで信じられないという表情を浮かべている。お前らはむしろ俺がドラゴン退治に乗り気になったことを喜ぶべきだろ。アンだってエルフの里に迷惑をかけているドラゴンを倒せるならそれが一番のはずだ。
「キョウヤ大丈夫ですか? ドラゴンと勇者たちとの戦いを見てましたよね。私たちが加わったところで勝てるはずありません」
「キョウヤ勇気と無謀は違うってトトさま言ってた」
「もし失敗したら不味くない? それに四宮君が言ってたとおり、ドラゴンの子供を治せれば誰も傷つかずにすむんだしそっちのほうがいいよ」
アン、フィー、飯田に続け様に否定されてしまう。だが倒せるチャンスがあるなら倒すべきだと思うんだがな。確かに難しいかもしれないが成功すればあのドラゴンを倒せるんだ。
「ならエルフたちにも協力を仰いで……」
「万が一誰かが死んだら取り返しがつきませんよ」
「――っ」
確かにその通りだ。仮にドラゴンを倒せたところでアンやフィー、飯田たちに一応長谷川も死んだら意味がない。そもそもあのドラゴンと戦う必要もない。子供を治せなかったらまた別の方法を探すなり諦めるなりすればいいのだ。……どうやら自分では気づかなかったが先ほどの戦闘で思った以上に気分が高揚していたらしい。普段ならありえない考えだ。
「ちょっと熱くなってたみたいだ。ありがとうな」
「いえ。いつも助けてもらってるので」
「おたがいさま」
ドラゴンを助けると言ったとたんの長谷川の急変、何故俺が突然ドラゴンを倒したいと考えたのか。色々気になることはあるが今は置いておこう。長谷川が起きる前にさっさとドラゴンの子供を治した方がいい。
「龍吾なら俺と恵が見といてやるからお前らはドラゴンのところに行けよ」
「いいのか?」
「龍吾が起きた時に暴れるなら抑える必要があるだろ」
「なんであたしも勝手に入ってのよぉ」
「どうせ龍吾が起きるの待つんだろ」
「それはそうだけどぉ」
なら長谷川のことはこの2人に任せて俺たちだけで向かうとしよう。体はアンの土蛇で縛ってあるし魔力も奪い取った。起きてすぐさま俺たちの元にやってくる……とは考えないようにする。ここは橋本たちを信頼すべきだ。
「ならここは任せた。あと大野、最後のライトありがとうな。助かった」
「なんだ。四宮ってお礼言えるんだ」
「出来ればこれからも礼を言い合える関係でいたいもんだ」
正直大野から援護が飛んでくることはそこまで期待していなかった。ひたすら長谷川の言うことを肯定するだけのギャルだと思っていたからだ。流石にそこまで口に出して謝罪はしないが。
「早く行こうキョウヤ。ドラゴンの子供心配」
「ああ。飯田走れるか」
「私だってこっちの世界で頑張って来たんだから心配しなくて大丈夫!」
グッと胸の前で拳を構える飯田。アンもいるし極端に遅れるということはないだろう。因みにうちのパーティーで単純な身体能力を比べると一番はフィーだ。彼女はこの森のような高低差がある場所で本領を発揮する。
「よし行くぞ」
「はい!」
「うん!」
「行こう!」
『随分早いな。それでエルフの秘薬は手に入ったのか』
「いや。エルフの頑固さはあんたが言った通りだった。だからその代わりを持ってきた」
『替わり? 数百年生きた我でさえ魔石病を治せる方法など秘薬か、あとは噂に聞く聖女くらいのもの……もしやその女か?』
「ああ。幸運なことにさっきあんたに戦いを挑んだ奴らは勇者たちでな。彼女はその1人の聖女だ」
「あ、あの先ほどはお話も聞かずに襲い掛かってすみませんでした!」
ギロリとドラゴンの感情が伺えない瞳で見られた飯田が、慌てて頭を下げて謝罪をする。子供を治療することばかり考えて正直そこまで頭が回ってなかった。殆どドラゴンにダメージは与えられていないだろうがそれでも攻撃したのは事実。可能性は低いがここで飯田をプチリと潰されてでもしたら今までの努力が水の泡だ。ドラゴンの実力を考えたら意味があるかわからないが、飯田とドラゴンの間に体を移動させる。
「こいつらにはこいつらで事情があったんだ。あんたの事情を話したら協力してくれることになったからどうか怒りを抑えてくれないか」
「お子さんが珍しい病気なんですよね。私のスキルなら治せるかもしれません」
『……よい。元々怒りなど覚えておらん。それよりも治療すると嘘をついて我の子供によからぬことをしようとするなよ。地獄すら生温いと思わせてやる』
「は、はい! 勿論わかってます」
話の分かるドラゴンでよかった。あとは飯田のスキルで病気を治せるかだな。もし無理なら……盗賊に就職することになる。強盗かもしれないがどちらにしろ歓迎できん。
『ついてこい』
そう言うとドラゴンは俺たちに背を向けて歩き始めた。そして一歩進むごとにするするとその体は小さく変化していき5歩も歩いた頃には炎のような鮮やかな色をした長髪を背中に流した人間の女性になっていた。思わず目をこするが確かに人間の女性だ。先ほどまで威容を誇っていたあのドラゴンはどこにもいない。
「あ、あのそれは変化の魔法ですか!?」
「それは我の子供を助けるよりも大事な質問か?」
「い、いえすみません。興奮してつい」
「無事治せたら答えてやる。それよりさっさとついてこい」
そう言ってずんずん進むドラゴン。酷い失態をしてしまったと顔を青くしているアンを背中を押して促す。創作なら人化というのは割とポピュラーな技術だがよく考えるとかなり異常だ。魔法使いの彼女が興奮するのも仕方がない。
ドラゴンについていくと突如ぬるりと何かを抜けた感覚がする。そして一瞬視界がぶれたと思ったら先ほどまであった森は消え大きく開けた広場が目の前に広がっていた。これも魔法、もしくはスキルか。視界を歪めていたのか、俺たち自身が移動したのかまではわからないが。そしてその広場の中央にドラゴンの子供はいた。
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