第35話 思わぬ共闘
ガシャン! 俺が飛び込んだことで割れた窓ガラスの破片とともに家の外に脱出する。その直後玄関を斬り飛ばしながら長谷川が現れた。咄嗟に後ろの玄関ではなく横の窓に突っ込んだが正解だったか。いきなり斬りかかってくるとは尋常じゃないぞあいつ。
「キョウヤ!」
「待てよ龍吾!」
アンとフィーに続いて橋本飯田たちも家から出てくる。長谷川の突然の凶行に戸惑っているようだ。先ほどまで話がまとまる直前だったのにも関わらず急に態度を翻した長谷川。仲間からしても意味がわからないだろう。
「殺しはしない。ただ魔物を助けようとしたことを後悔してもらう」
「悪いが本気で行くぞ」
そうでなければあっさりやられかねん。先ほど長谷川はわざわざ見せつけるように立ち上がると腰から剣を抜いた。その上でギリギリ避けれたのだ。おまけに剣は業物ではあるかもしれんが聖剣ではない。確かに殺す気はないかもしれんが、五体満足とも言ってないからな。
「一対一でもありませんよ」
「勇者叩きのめす」
杖を構えたアンを庇うようにフィーが前に立つ。長谷川を俺とフィー、アンで挟み撃ちするような形だ。
「魔物は悪だ!!」
「くっ」
背後にいるフィーたちを無視して長谷川が俺に攻撃してくる。狙いはあくまで俺一人。ならアンは思う存分魔導を放てる。
「《バラの棘》!!」
圧縮された火魔法が長谷川の足目掛けて飛ぶ。避けるならそこを俺が攻め、当たれば言うことなし。死ななければ飯田が治療してくれるだろう。蒼霧を持つ手に力を込め、どんな状況でも対応出来るよう構える。
「ヴァリアンス!」
ヴァリアンス、確か一定時間身体能力を高めるスキル。思考がそこまで進んだ時には既に長谷川が目の前まで迫っていた。速い! 危機的状況故か剣の動きがスローモーションに見える。だからと言って俺の動きが加速するわけではなく、徐々に迫る剣を防ぎきれそうにない。死の気配が目前まで近づいているのを感じると同時に、それは長谷川共々吹っ飛んだ。
「落ち着けよ龍吾。ドラゴンを倒せないのは俺も悔しいけど、だからって四宮襲うことねーだろ」
「助かった橋本」
「気にすんな」
どこから取り出したのかやたらデカい真っ赤な斧を手にする橋本。俺しか見てないのが仇になったのか、横からタックルをしてきた橋本に気づかず長谷川は派手に吹き飛んでいた。しかしダメージは殆どないのか既に立ち上がっており、被害は鎧が少し汚れた程度だ。
「どいてくれ智弘。四宮はおかしくなってる」
「おかしいのは龍吾君だよ! いくら嫌いだからって突然攻撃するなんて」
「俺は勇者だ。勇者は魔物を滅ぼさないといけない。それを邪魔する奴は敵だ」
会話が通じない。この懐かしい感じ、もしかしてこいつおかしくなってない? 元々こんな奴だったか。そんな冗談はさておいて飯田たちが味方として戦ってくれるのはありがたい。フィーは敵の攻撃を受けるタイプの前衛ではない。そういうのは武闘家ではなく戦士の役目だ。
「橋本、俺とお前であいつを引き付けるぞ。隙を見てフィーとアンに攻撃してもらう」
「そうだな。麻衣! ヤバいときは俺たちも長谷川も回復頼む」
「うん。恵、こないだ魔物の動きを止めるのに使った魔法あったよね。あれ龍吾君に当てられない?」
「無理無理。あれはトロールみたいに動きが遅くないと当たんないし―。そもそもあたし龍吾のこと攻撃したくないっていうかー」
約1名やる気がないが全員長谷川と対峙する。1対6と戦力差はかなりあるが橋本たちに気を抜く様子はない。それだけ長谷川の実力が高いということか。頼もしい勇者様だ。
橋本に吹き飛ばされてもあくまで狙いは俺なのか長谷川の顔を俺に向けられている。ヴァリアンスは確か持続時間があったはずだが……。レベルが上がって持続時間が伸びたか、デメリットがなくなったのかどちらかか。
「魔物は敵だ!」
魔物への憎しみを俺に転換しているかのようなセリフを吐きながら長谷川が迫る。先ほどはあっさり懐に入られたが今度は違う。後ろに下がりながら《竜の逆鱗》を使う。長谷川の目の前に数十の小さな火の玉が出現。少しでも触れたら誘爆が起こるそこに一瞬の躊躇なく飛び込む長谷川。
「予想通りだ。ウオーター!」
「っ!」
長谷川の足元に水の塊を出現させる。魔力は使うがそれだけの価値はある。《竜の逆鱗》によって遅くなった足を取られて更にその速度は減速。
「《バラの棘》!」
そこに今度こそアンの魔導が当たる。貫通力を高められた炎の槍は長谷川の肩に当たり……その体をよろめかせて終わった。マジか。あれで貫けないってどんな防御力してるんだあの鎧。
しかし普段一緒に戦っている橋本からすると当然のことだったのか、長谷川がよろめいた隙を逃さずに手にした斧でその胴体を薙ぎ払った。
「智弘ぉ! 邪魔をするな!!」
「落ち着け龍吾」
「黙れ!」
流石に無視することが出来なくなったのか長谷川が橋本に相対する。しかしそうなれば次は俺とフィーが攻撃をしかける。俺は魔導と剣で妨害を、フィーはアンに攻撃がいかないよう立ち回り生じた隙に橋本かアンがデカい攻撃を叩き込む。そうやって長谷川を上手く翻弄している。
まだ大きなダメージこそ与えられていないものの、確実にその体力を削っている。対して俺たちは傷を負ってもすぐに飯田が回復してくれる。このままいけば互いに大きな怪我をすることなく長谷川を止められそうだ。
それは長谷川としても同じ考えに至ったのか今まで手にしていた剣を鞘に納めるとすぐさまあの言葉を叫んだ。
「こいクラウソラス!」
先ほどまでの俺の予想をあざ笑うように、ピンチに勇者が覚醒するのが当然だと言わんばかりに長谷川の纏う空気が変化する。あまりの魔力の密度の高さ故か、金色のオーラのようなものが見える。いや覚醒したわけではない。ただ奴は自分本来の得物を手にしただけだ。それだけでここまで変わるのか。
「眠れ智弘」
「っぐ!」
聖剣を抜いた長谷川は、しかしそれを使うことなく一瞬で移動すると橋本の鳩尾に鋭い拳を叩き込みその意識を刈り取った。そして次はお前だと言わんばかりにアンのほうに視線を向けた。不味い! 先ほどからアンは橋本と並んで奴に直接攻撃を入れている。狙われるのは必然だ。慌てて全力で長谷川の元に走る。
「逃げろアン!」
「いいやお前だよ四宮」
誘われた。そう思う間もなく聖剣が大きく、そして素早く振り上げられる。直後目の前が真っ白に染まる。聖剣の輝き、ではなくこの光はライトのスキルだ。誰の仕業か考える時間をも惜しみ直前の視界を頼りに長谷川の腕を掴む。頼むぞマジで、精気吸収!!
「聖剣を持った俺に力で敵うと……な! 魔力が!!」
「アン縛り上げろ!」
「任せてください!!《愚か者は上を見る》!!」
俺と長谷川が力比べをしている隙に大蛇とも言うべき太さの土蛇が長谷川を縛り上げその体勢を崩す。長谷川から奪い取った魔力で強化された俺と、アンの出した土蛇。完全に長谷川がその二つに気を取られた瞬間フィーが長谷川を背後から襲う。
「教えといてよかったな裸締め」
完全に決まれば数秒で落ちる、という謳い文句通り数秒後そこには聖剣を手放し土蛇に体をぐるぐる巻きされ、気を失った長谷川が転がっていた。
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