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第34話 交渉決裂


「お願いします」



 アンが下げる頭に合わせて俺も下げる。フィーも空気を読んで頭を下げた。尻尾はまだ警戒しているのかビンビンだが。3人に頭を下げられて長谷川達の間に断るのを躊躇うような空気が出来る。母親の形見を譲ってくれと言われてノータイムで拒否出来るやつはかなり心臓が強いだろう。



「俺たちだって遊びで来てるわけじゃない。確かにお母さんの形見というなら譲ってあげたいが」


「王女様に頼まれちゃったしねー」



 だからと言ってほいほい譲ってくれはしないか。チラリと飯田を見る。難しそうな表情を浮かべて顎に手を当てている。はいあげる、とはならないが悩んではいるようだ。もう少し後押しする何かがいるな。



「譲る譲らないの前にあのドラゴンに勝てるのか?」



 ぽつりと橋本が呟くと長谷川達に重い沈黙が下りた。すぐ近くで見させてもらったが長谷川達の実力はかなり上昇しているように見えた。離れていたから動きを把握できたが再び長谷川と戦ったとして前回と同じように勝てるかと言われるとわからない。そのくらい成長している。しかしあのドラゴンはそれら全てを木っ端の様に吹き飛ばすほどの強さだ。俺たち3人が加わったくらいで簡単に勝てるとは思えん。

 しかしそうか。ドラゴンの言葉と飯田の態度から予想はしていたがこいつらドラゴンの子供のこと知らないな。長谷川や橋本はともかく飯田なら子供を治そうとする……と思う。断言はできないが。今の今までそんな発言がないというのは単純に知らないのだろう。



「それについては俺に考えがある」


「なに!?」


「ほんと四宮君?」



 本当だ。もっとも俺一人では出来ない……わけではないが協力してもらったほうがスムーズに運ぶだろう。まあそれを伝えるのは星屑の杖を渡すという言質を取ってからだが。


「俺の案で上手くいったら星屑の杖を譲ってくれないか」


「だからそれは無理だと――」


「もし失敗したら当然杖はいらない。だがその後も協力は続ける」



 長谷川が黙る。本当に俺に妙案があるのか、それともただのハッタリなのか考えているのだろう。飯田は杖がアンの母親の形見だと聞いたのもありこのまま押せば行けそうだ。橋本は杖云々よりもドラゴンをどうにかする俺の考えに興味を示している。そして大野は、


「いいっしょ別に。本当に四宮がドラゴンをどうにか出来るなら」


「いいのか恵? あの杖は恵の魔法を強化するために必要だって話だが」


「うーん、あったほうがいいかもしれないけどあんな杖なくても龍吾が守ってくれるじゃん」


「勿論全力で恵たちを守る。けど――」


「じゃあ決まり! それに四宮がどうやってあの鬼つよドラゴンを倒すか気になるしー」



 杖を使うであろう大野が俺の提案を飲んだことでどうやら可決されたらしい。もっとも期待している大野には悪いが別にドラゴンを倒すつもりはない。ようはあいつに出て行って貰えばいいんだからな。



「キョウヤあのドラゴンをどうやって倒すの。トトさまでもきっと敵わない」


「安心しろフィー。正面から戦う訳じゃない。病気の子供がいるっていってただろ」



 元々その子供の病気を治すためにここに居座っているって話だしな。ならそこを解決してやればいい。



「なるほど。子供を人質に取るのか。魔物どもにも家族の情はあるらしいからな。良い考えだ」


「四宮結構エグイこと考えるんだな」


「四宮君流石に子供を利用するのは……」


「えー別によくない? どうせ魔物だし」


「違う。勝手に話を進めるな」



 血の気が多い奴らだな。そもそも子供を人質にとってもドラゴンの逆鱗に触れるだけで一瞬で殺されそうだがな。転移魔法が使えるんだ。即死魔法が使えても不思議じゃない。



「ドラゴンは子供の病気を治すために森に居座っているそうです。エルフの秘薬が必要らしいですが。盗むんですか、キョウヤ?」


「盗みよくないよ。冬越しのお肉をこっそり食べた時トトさまに凄い怒られたから」


「それは最後の手段だ。飯田は聖女だったよな? 病気を治す魔法とかスキルとか持ってないか?」



 疑問形だが持っているのは鑑定で確認済みだ。飯田のステータスは


飯田麻衣 女 16歳


ジョブ:聖女


スキル:癒しの風 レベル6

   :清浄なる雨 レベル2

   :奇跡の御手 レベル6

   :■■■

     ・

     ・

     ・


 清浄なる雨は対アンデットのスキルであり、今回使ってもらうのは奇跡の御手だ。触れた対象が掛かっている病を治す、と結構ざっくりしたスキルだがレベルは高い。こんな世界だから病気の人間は多いだろうからスキル上げの対象には困らなさそうだ。


 最近気づいたのだがこのスキルレベルは単純な経験値制ではないようだ。スライムを数百年間斬り続けても剣術レベル10とはならない。魔法の練習をしているとわかるが、どうも使用者の熟練度をレベルという形で表しているだけみたいだ。



「うん。奇跡の御手ってスキルがあるけど。それでドラゴンの子供を治せばいいの?」


「ああ。本人、いや本ドラゴンも子供さえ元気になればすぐに森から出ていくと言っていた。礼として鱗でも牙でももらえばいい」


「ドラゴンの牙で作った武器かぁ」


「確かにそれなら出て行ってもらえそうだけど……。秘薬なんて凄い物が必要な病気を治せるかな」


「まずは試してからだ。よければ直ぐにでも――」


「駄目だ。ドラゴンは魔物だ。魔物の子供を助けることは出来ない」



 話がまとまりかけたところで……。



「長谷川。ドラゴンは確かに魔物だが人間と同等の知能がある。そこまで大事なことか?」


「大事だ。魔物は魔王に従う邪悪な存在だ。見逃すことも勿論その子供を助けるなんて絶対に出来ない」


「けど龍吾君。あのドラゴンは私たちくらい簡単に倒せるのにわざわざ転移魔法を使ったんだよ? やっぱり普通の魔物とは違うんじゃないかな」


「それでも駄目だ。魔物は殺すしかない。それが勇者の役目だ」



 飯田が言ってもまるで聞かず自分の意見を曲げない長谷川。その態度からは魔物への憎悪とも言うべき感情が漏れていた。なるほどこいつが嫌っている俺に協力を申し出た理由がわかった。それ以上に魔物を憎んでいるからだ。

 

 しかしこの強い憎悪には違和感がある。魔物に親が殺されたとかならともかく俺たちにそんなことあるはずもない。地球から来た仲間も当然だが全員生きている。魔物の被害にあった人を見て、単純に憎んでいるのかもしれないが、飯田たちとの態度の差が妙だ。エルフたちに変な魔法でも掛けられていないだろうな。念のため鑑定を使って確認してみると、


長谷川龍吾 男 16歳


ジョブ:勇者


スキル:聖剣召喚クラウソラス レベル7

   :アークブラスター レベル6

   :■■■

       ・

       ・

       ・


 飯田のスキルは3つ見れたのに何故か長谷川は2つしか見ることができない。勇者はステータスにプロテクトでも掛かっているのか? それにしても本当にジョブが勇者なんだな。そこに意識を向けるとさらなる説明分が出てくる。


ジョブ:勇者 選ばれし者のみ就けるジョブ。対魔物特攻・身体能力上昇・魔力増大・勇者専用スキルの必要経験値減少特大・汎用スキルの必要経験値減少中の効果を持つ。聖剣召喚により聖剣を呼び出すことが出来る。魔■■■■……



 ジョブの説明文も途中までしか見れん。この後にはなにが続くんだ? 魔物特攻……は既に書いてあるから違うか。じゃあ魔王特攻とかか。しかしそれならわざわざ離して書く意味がないか。



「四宮。わざわざ魔物を助けようなんて魔王の配下にでもなったか」


「落ち着け。ドラゴンは強くて敵わないから戦う以外の解決法を探しただけだ」


「そんなものはない! 魔物は、いや魔王はただただこの世から消えるべき存在だ。お前がその邪魔をするというなら……斬る」



 いつの間にか立ち上がり剣の柄に手を掛けた長谷川の目は完全に据わっていた。おいおいまたこうなるのかよ。相変わらず長谷川は言葉が通じない……というだけの話ではないかもしれない。魔物、正確には魔王か。魔王に対して抱く異常なまでの憎悪。スキルやジョブについてよく考える必要があるかもしれないな。


「死ね!」


 この状況を乗り越えられたらだが。 

「面白い!」


「続きが気になる!」


そう思っていただけたら


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面白ければ星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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